我想台湾

東京で味わうモダンな台湾料理。

もう随分と前になるが、モダンな台湾料理はないの?と「歩くミシュランガイド」と家族で呼んでいる姉に聞くと、住宅街にある不思議な外観の建物に連れていかれた。

灰色の外壁にはこれまた薄いグレーの石の表札がかかっていて、そこには「四知堂」と彫り込まれている。目を凝らさないと見えないくらいだ。

茶色い木のドアから入ると、奥の中庭が見える眺めの良い席に案内された。

窓から見える亜熱帯の植物が目に眩しく、フランスやドイツなどさまざまな国から集められたという、バラガンブラウンのようなアンティークの家具とのコントラストも美しい。

店内にはジャズが流れている。

こっくりとした茶色の椅子に、ゆっくりと深く腰掛ける。

値段も書かれていない毛筆書きのメニューから、いくつか料理を頼んで、たわいもない話をしながら台湾茶をいただく。

しばらくして、中庭の緑と同じくらい鮮やかなグリーンの山蘇(サンスー)が運ばれてきた。

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山蘇は高山でしか採れない青菜で、新鮮なのがこの青みがかった緑色と歯応えでわかる。櫻蝦と卵、香りのいいオリーブオイルでおいしく炒めてあり、サービスでサーブされた焼きたての香ばしいパンと一緒にあっという間に平らげる。

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台湾料理に……

オリーブオイル⁉

パ、パン⁉

幼い頃からクラシックな台湾料理ばっかり食べてきた私にとっては、オリーブオイルで炒めてある台湾野菜を食べるのは初めてで、なかなか衝撃であった。

ウイキョウで味付けされた牛胸肉の煮込み。
こちらも初めて食べる味だ。

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ほぅ〜へぇ〜と感嘆したり、スタッフの方と談笑したりしているうちに、すっかり夜になっていた。

薄暗い照明の中、魚の油がキラキラと光っている。

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メインの魚料理はスズキ。こちらもオリーブオイルとレモン、と台湾醤油のみ?だろうか。
魚が限りなく新鮮なので、少しの味付けだけでとてもおいしい。歯ごたえは少し残っている厚切りのジャガイモといただく。スープを思い切り吸い込んでいて染みる味だ。

デザートは松の実が入った焼きたてのキャロットケーキ。こちらもオリーブオイルと塩をかけていただく。深い甘い自然の味がする。

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薄暗い中では感覚が鋭くなるのか、よりおいしく感じるのが不思議だ。

食べ終わった頃には、固定概念なんてものはなくなっており、おいしいものに国境なんてないんだ……なんて、ホワホワと感動していた。

日本橋の富錦樹FUJIN TREE にも同じスピリットを感じる。

台北の松山市にある本店で味わった五感すべての感動を、日本でも味わえるのはここだけじゃないかと思う。

両手で数え切れる程度だが通って、ほぼすべてのメニューを制覇したのだが、すべてがおいしいって純粋に凄い。

ダークブラウンの家具と天井から吊るされたグリーンアート、ちょうど良く落とされた照明が、シックな店内を作り出している。

この水蓮菜、鮮度の良い鮮やかな緑色のものを食べられるのは、日本ではいまのところFUJIN TREEだけだ。

パスタのように中が空洞で、噛むとシャキシャキした歯ごたえが耳の奥でリフレイン。耳の奥にいつまでもシャキシャキとした音が無限に残る。シャキシャキシャキシャキ……

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梅干しのような醤油のような味噌のような……好物の破布子という木の実が一緒に炒められていて、もうたまらなくおいしい。いつもラージサイズの二皿を頼み、サッと平らげてしまう。

そしてみずみずしさ満点の冷製の茹で鳥。

林檎醤油とスダチが横にちょこんと乗り、爪楊枝より細い均一の千切りの生姜がこれでもか!と乗せられていて、気前の良い台湾を思い出す。娘たちも我先にと箸を伸ばし、入り乱れる。

お行儀の悪さもこの時ばかりは片目を瞑る。

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台湾は小さい牡蠣が本当に美味しいのだが、FUJIN TREEの小さい牡蠣の炒め物には油條が一緒に炒められていて、これがクセになるおいしさだ。

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油條が好物の長女には別皿でどうぞ、とサービスしてくださった❤︎

麻辣牛、ハイビスカスソースの豚バラ肉、渡蟹のおこわ……ほかにもたくさん。冷えたシャンパンと一緒にいただくのは爽快な時間だ。

最後はいつも青マンゴーのかき氷(これが最高美味昇天なんです)で締める。

とにかく皆さん召し上がって!と押しの一手でこの感動をお伝えしたい。

FrugalとLuxuryは対義語のようで、わたしには同義語に思える。

豪華絢爛なレストランでの食事で得る特別感も好きだが、laid back moodの中でいただく、
シンプルな食事のおいしさは、そのゆったりとした時間の流れと飾り気のないおもてなしをしてくださるスタッフの温かみで格別なものになる。

それはファッションにも通じることで、スタイルの形成は、自分の内面と外面を知り尽くし、認めることから始まるが、時には違うジャンルを取り入れて、タグに縫われた名前に拘らないほうが、その人の余裕を表情や仕草に映し出し、魅力的に見えるのは私だけだろうか。

拘りはときどき捨てたり、また拾い上げたりして、自分の中の不易流行を楽しみたい。

紹介したお店

・四知堂(現在は閉店)
No. 7號, Lane 22, Siwei Rd, Da’an District, Taipei City, 台湾 106
https://tabemakuripeko.blog.fc2.com/blog-entry-1989.html?sp

・FUJIN TREE日本橋 (フージンツリー)
中央区日本橋室町3-2-1 COREDO室町テラス 2F
https://fujintree.jp/location/

台湾のお店の写真は台湾在住の姉が撮影しています。
Instagramや、ブログ「台湾で食べまくり」を書いているのでお暇な時に覗いてみてください。

 

高橋れいみ

群馬県で台湾人の母と日本人の父の間に生まれ、自然とともに育ち、幼少期に台湾で多くを過ごした際に民族的感覚を培い、思春期にロサンゼルスに移住した事でモダニズムやヴィンテージに強く影響を受け、2016年~R.ALAGAN(ララガン)を設立。日本のジュエリー職人と妥協しないジュエリーを制作している。

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