私の愛すべき台湾の鍋たち。
あれよ、あれよとすっかり寒くなってきて、無類の寒がりの私にとっては苦手な冬が来てしまった。
でも鍋がいっそうおいしくいただけるからいいか、と自分を慰める。
今年の冬は何回食べられるだろうか。
夏に徳島から送っていただいた大量の酢橘を家族でえいやっと搾って、煮切りみりん、新鮮な醤油を足して、鰹節と昆布を仕込み、しばらく寝かせておいたポン酢をいよいよ鍋に使う時だ。
ポン酢をうんと堪能した後は、台湾鍋が食べたくなる。お正月のお節に飽きた頃、母がいつも作ってくれる石頭火鍋は絶品で、友人からも食べたいとリクエストをもらう。
スルメと干しエビで取った出汁で具材をシャブシャブして、生卵に沙茶醬、酢と醤油、お好みでニンニクを入れたタレに絡めて食べる。
日本鍋に飽きたらこれに限る。
最近の台湾では酸菜鍋、麻辣火鍋が人気らしく、石頭火鍋はすっかり見かけなくなったのは寂しい。
そして石頭火鍋と甲乙つけ難いのは、薬膳鍋!
中でも群を抜いて好きなのが、ご存知の方も多いだろうが、「天香回味(テンシャンフェイウェイ)」だ。
天にも昇る香りと味とは言い得て妙である〜〜
正確には台湾人が持ち帰ったモンゴル鍋らしい。教科書で何度も目にしたあのチンギスハン考案とか。
つい、フビライハンも食べていたのですか?とお店のスタッフの方に聞きたくなった。
クミン、棗、クコの実など数十種類の天然の植物成分で抽出されたスープはカレーのような、漢方のような、何とも言いあらわせない食欲をそそる香りがする。ヴィーガンの人にも最適だ。
台湾の本店は「本気!気合いで!健康!」みたいな店構えで、来店しているお客様も健康を食べにきました感が満載だ。黄金のドラまである。(その写真は下記のリンクより是非どうぞ)
お皿やカトラリーも割とそっけない感じなのだが、日本より薬膳増し増しの(気がする)スープなので、食べた後は身体が薬膳の毛布に包まれているようだ。
初めて来店した際、腰まである白髪で作務衣のような服を着た老紳士が、大量の湯気の中、静かに召し上がっているのを見て、まるで三国志の実写版を見ているような気になった。
日本の店構えは洗練されていて、素敵に年齢を重ねたマダムがたくさん来店されている。中でも銀座通り店は豪華なシャンデリアが天井を飾り、お皿もバリエーション豊かで美しい。なんだか母の友人が営んでいた広東料理のレストランを思い出すねえ、と家族で話す。
テンシャンフェイウェイの最大の魅力は、少し辛い天香鍋とまろやかな回味鍋の2種類のスープを同時に味わえることだ。1:2で割ってスープだけで飲むのも最高である。
そしてキノコの種類の豊富さ。キノコってこんなにおいしかったっけ……と開眼する。
前菜も美味、冬瓜、サメのコラーゲン、ラム肉も是非お試しください〜
どの具材もタレ不要の素晴らしいスープで昇天〜
締めはクロレラが練り込まれた翡翠麺をいただく。喉越しが良くおいしい。フカヒレも載せてしまいましょう。
デザートはいつも金絲恋餅か愛玉子をいただく。(写真は台湾本店のもの)
コレクションのインスピレーションソースはなんですか?を聞かれた時、うーんと遠くを見つめてしまう。
私の場合は恐らく、家族や友人、親族と過ごした時間であり、記憶の中の五感がベースとなっているような気がする。
もちろん、その時々で起こる世界の出来事や、日常の中で目にした、触れた、奇妙なものや、美しいものたちからもインスピレーションの多くを得るが、幼かった頃や青春時代を、五感を使って呼び戻すことが好きなのだろう。
それらが複雑に絡み合い、具現化される。どうしてこうなったのか、言葉にするのはとても難しい。
余白を残しながら生きたいし、受け取る側にも余白を残したいのだ。
香り、味、音、映像、食感や手触りの記憶、それらすべてが私を形造った財産なのだと、天にも昇るような味を食べながら思う。
・天香回味テンシャンフェイウェイ
銀座中央通り店
東京都中央区銀座7-9-15 GINZA gCUBE9F
台湾のお店の写真は台湾在住の姉が撮影しています。
Instagramや、ブログ「台湾で食べまくり」を書いているのでお暇な時に覗いてみてください。
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