玄冬の台湾甘味
玄冬は黒というが、色そのものは、
赤みのある深い茶のように見える
茶には奥ゆかしい品がある
黒のように孤高の気高さ、のような近寄り難さではなく、しっかりと地に根をおろした、ふところの深い品性だ
月和茶の入り口に立って古びた木の扉を見て、「あ、これは期待できそうだ」と思った
店内は使い込まれた椅子とテーブルが、どうぞ、と迎えてくれる
飴色の光が差し込み、人の表情さえも柔らかくしているようだ
メニューの中に台湾ビーフンを目にして、期待に胸を膨らませる
汁ビーフンは、母と私の好物だ 海鮮ビーフンと大いに悩んで肉味噌に
そもそも台湾味といえば、強烈な味付けというより、優しい出汁の旨みである 心の根っこをじんわりと温めてくれるような味だ
米粉からできているビーフンは粘り気がなく、蕎麦のようにスススッと喉を通り過ぎていく 出汁と共に喉を駆け下がる心地よい喉越し
デザートには胡麻が入った湯園
丸々とした白い湯園を頬張って、ゆっくりと歯を入れると濃厚な胡麻が口中に広がって行く、ジュワ〜
そしてなんと、日本ではあまりお目にかかれないタロ芋がお汁粉になっているではないか
黒胡麻の香ばしさと相まって、とてつもない美味しさに仕上がっている
タロ芋はさつまいもと違い、甘さ控えめで、濃厚なコクとまったりとした深みがある
いつの日か私もタロ芋のような人になりたいものだ......
帰り際、「たくさん食べてくれてありがとう」とマダムお手製のパイナップルケーキをいただいた
思えば、月和茶を紹介してくれた御菓子屋うえだのヒロミちゃんの髪も美しい赤茶だ
展示会毎の珠玉のオリジナルクッキーは、私の無理難題に応えようと、多くの苦労をユーモアと抜群のセンスで乗り越えて作ってくれているものだ
「物の価値は、創造に込められた愛の深さで決まる」
Eileen grayの言葉だ
どれほど多くの物や食べ物が溢れるこの世で、手にするもの、口にするものを選ぶ時、そこに込められた愛の深さを慮る
寒い玄色の冬が来ようとも、私の口と心は暖かいままだ
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