おしゃべりなうつわ

染付のとなりに、グスタフスベリのカップ&ソーサー。

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これはスウェーデンの陶磁器メーカー・グスタフスベリのカップ&ソーサー。1954年にデザインされ74年まで製造されていた(現在は復刻版が販売されている)ものを、ヴィンテージマーケットで見つけた。私が、作られた背景を知ってうつわを使うことの面白さに目覚めたきっかけの食器だ。そう、はじまりは、和食器ではなく北欧ヴィンテージだったのだ。長男が生まれた直後のあまり外出できない期間に、実家から譲り受けたアラビア(フィンランド)の大皿についてネットで調べるうちに、いつの間にか、それ以外の窯元やデザイナーの情報も入ってきて詳しくなった。で、ポチる回数も増えた、はは......。50年代の北欧の工芸は、高度な職人技術を持つ工房がデザイナーを採用し、独自の作風を切り開いて飛躍。その背景には、戦後の高度成長による急速な都市化が起こした住宅難により、狭小の住まいが増え、従来の重厚で装飾性のある家具や食器が生活に合わなくなったことがある。スティグ・リンドベリ(スウェーデン)やカイ・フランク(フィンランド)というデザイナーの名を知る人は多いはず。彼らは、新しい日常のための、シンプルかつ、ひとつでいく通りも楽しめる食器をデザインしたのだった。スティグ・リンドベリの「adam」シリーズのこのコーヒーカップも、直径7センチとなかなかにコンパクト。狭いテーブルでも4客+4枚のケーキ皿+大皿などゆうに置けると思う。機械と手作業が混じり合う中量生産が多かった時代で、均一であるべき絵付けの丸と丸の間に隙間があったりする。その完璧でない感じと、リンドベリのポートレートの気の抜けたカーリーヘアがリンクして、手にしたとき、ちょっと笑ってしまったことを思い出す。日本のうつわが多い我が家だけれど、お誕生日ケーキにはつい洋食器を使いたくなるのは、母がそうしていたからだと思う。「ちょっとスペシャルな日は洋食器にしましょう♪」っていう世代の母の行動が私の記憶のどこかにあって、必要なタイミングにうつわを通して呼び覚まされるのが愛おしい。ポットは日本のものしか持っていないから、ブルーに合わせて染付のポットを使うけれど、いい感じ。50年代の北欧と現代の日本の作り手が今日も食卓でおしゃべりをしている。

[ある日のうつわ]

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グスタフスベリの「adam」のセット。ちなみに同柄の赤色のシリーズは「eva」という。アダムとイヴのリンゴがモチーフなのかもしれない。

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ヴィンテージのカップ&ソーサーは、欲張ってケーキプレートまでセットで揃える。食事のあとのデザートタイムに、うつわを入れ替えるだけで、テーブル全体の雰囲気をガラリと変えることができるから。

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作り手:スティグ・リンドベリ / グスタフスベリ
購入した年:2006年頃
購入場所:E-bay

衣奈彩子

ライター/ 編集者

子育てをきっかけにふつうのごはんを美味しく見せてくれる手仕事のうつわにのめり込んだら、テーブルの上でうつわ作家たちがおしゃべりしているようで賑やかで。献立の悩みもワンオペ家事の苦労もどこへやら、毎日が明るくなった。「おしゃべりなうつわ」は、私を支えるうちのうつわの記録です。著書『うつわディクショナリー』(CCCメディアハウス)
Instagram:@enasaiko 衣奈彩子のウェブマガジン https://contain.jp/

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