元タバコ工場の屋上で、ピアノと夕日に酔いしれる夜。
元銀行を改装したホテル、元は小学校だったオフィス、元公衆トイレのバー……「元●●の△△」って、なんだか心惹かれません? いろんな断片から歴史を感じとれるからとか、古いものを最大限利用する心がけに感心できるからとか、理由はたくさん思いつくのですが、やっぱり一番は、一度役目を終えた建物に吹き込まれた、新たな命を感じられるから、でしょうか。その第二の人生が、以前の役目と大きく違えば違うほど、おもしろく感じます。
そんなスポットが、南仏はマルセイユにもひとつあります。それが、複合文化施設、FRICHE LA BELLE DE MAI(フリッシュ・ラ・ベル・ド・メ)。LA BELLE DE MAIとは、周辺の地域の名前で、1960年代、フランスの主要産業のひとつだったタバコの大きな工場があった場所です。
場所は街の玄関口であるマルセイユ・サン・シャルル駅からすぐ近く。
その跡地(La friche=休閑地)を1990年に市が買い取り、大きなタバコ工場は、まったく新しい施設に生まれ変わりました。ギャラリーやシアター、レストランだけでなく、アーティストの住居や子どもたちのプレイグラウンド、保育所、地域の学校や団体が共有して管理する菜園まで作られ、まさに巨大な公民館。老若男女が集まり、地域の中心になっている場所です。
猫、一匹発見。
なかでも、私が激しくおすすめしたい場所が、8000㎡もの広さがある広大なルーフトップ。遠くに海もちらっと見えるこの屋上で、夏の間は野外シネマや音楽イベントがたくさん催されます。
先週末、このルーフトップで開催されたのは、ジャズピアノのコンサート。毎夏の国際ピアノ音楽祭で有名な村、ラ・ロック・ダンテロン(La Roque d'Anthéron)に招待されたピアニスト(Frank WoesteとBojan Zのおふたり)が、ここで無料で演奏するというのです。
演奏の始まる前に、ごはんと飲み物をゲット。椅子やテーブルの空きがなくても、マルセイエ、マルセイエーズを見習って、地べたに座れば問題なし。
バー。
空間が広いので、生ではなくスピーカー越しの音ですが、なんだかアラビックな雰囲気漂う曲から、ロマンチックな優しい雰囲気のものまで、沈みゆく太陽を背景に、贅沢な時間を満喫しました。
屋内のギャラリーでは夜遅くまで展覧会も開催中。
タバコ工場だった場所が、音楽が鳴り響き、子どもたちが走り回り、大人たちが寛ぐ、誰もが楽しめる空間になるなんて、50年前誰が想像しただろうと思うと胸熱です。まだまだ余白がありそうなこの建物。10年後、20年後も楽しみです。
41 rue Jobin, 13003 Marseille
tel:+33 (0)4 95 04 95 95
www.lafriche.org/en
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