南仏プロヴァンスで猫さがし。

猫愛のかたまり、『タマ、帰っておいで』。

私の数少ない自慢話レパートリーのなかに、「横尾忠則さんの“Y字路”の側で育った」というのがあります。それと、「通学に横尾さんデザインのラッピング電車を使っていた」というのも。

ですが当時、無学な田舎娘がその価値に気付くことはなく、正直、人の目が無数に描かれたラッピング電車については、不気味なものを見る目で眺めていた記憶があります。

横尾さんの偉大さを知ることになるのは、地元を離れ上京してから。大学二年の夏、中国は内モンゴルの草原のど真ん中で、華麗なる芸大生たちから「横尾忠則氏とは非常に有名でキテレツな芸術家である」と聞かされ、その瞬間を境に、私のなかであの電車が「アート」となり、「自慢」に昇格したわけです。自分の浅はかさには呆れています。

すみません、自慢話が長引きました。

さて、今年4月に発売された横尾さんの画集『タマ、帰っておいで』はご覧になりましたでしょうか。amazonでは速攻売り切れ、緊急事態宣言下で本屋にも気軽に探しに行けないなか、数週間待って私は手に入れました。

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横尾 忠則著 講談社刊 ¥2,420

2014年5月31日、息を引き取った元野良猫タマ。ある日ふらりと現れ、それから15年もの歳月をともに過ごしたタマへのレクイエムとして、91点の絵が収録されています。

食べるタマ、寝るタマ、紙袋に入るタマ、自転車の上に乗るタマ、Y字路の前に佇むタマ……「猫への愛を描いた」という言葉どおり、タマへの愛しかない画集です。そして、絵に添えられているのは、横尾さんの猫への思いを綴った日記。どれだけタマの存在が大きかったことか、タマの死がいかに大きな喪失感をもたらしたか。猫を飼う人でなくても、失いたくない大切な人が1人でもいる人にとっては、ぐっとくる日記です。1ページ1ページめくるごとに、胸に迫る絵と言葉。私もいつか、この悲しみに向き合わなくてはならないのか。ずーーーん。

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でも安心してください。この「泣ける画集」、最初の1ページでうるっときます。そしてスムーズに中盤まで泣けます。しかしその後だんだんと涙が乾いていくのに気付くはずです。最後に心に残るのは悲しみや苦しみではなく、愛と優しさ。だから、恐れることなく手にとって開いてみてください。きっと、大切な人、大切な猫をもっと愛したくなるはず。私も、私の運命の猫ミャウをもっとしっかり甘やかそう、可愛がろう、という気持ちになりました。最近さぼりがちだったけど、ちゃんと毎晩とっつかまえて歯磨きしよう、とか。

10月には日本橋の西村画廊で展覧会も開催されるそうですよ。

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中川史恩

都内在住、猫好きエディター。フランス生まれの保護猫ミャウと暮らす。好きな食べものは帆立の貝柱とチップス全般。苦手なものは直射日光。将来の夢は鶏と暮らすこと。@chez_miaou

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