パリ、恋のエトセトラ

世界を揺るがすセクハラ問題、フランスでの反応は?

私は渡仏する前、フランスは日本よりもセクシャルハラスメント(※以下セクハラ)なんてずっと少ないのだろうと思っていました。女性の権利に敏感で、何かあれば公にしても支障はなくそれは当然に周囲から認められ、悪は駆逐され、また日は昇り全米は泣き続けると。

何て牧歌的で無知だったのだろうと今では思います。あるに決まってる。

私個人についていえばむしろ、フランスの方がより深刻な被害に遭いやすかったといえます。それはなぜかというとやっぱり私が外国人だからです。この国についてものごとをよく知らなかったり、相手の方が雄弁だったり、そもそも外国人は立場が弱くなるのが一般的だからです。日本よりずっとセクハラに厳しそうな、アメリカやイギリスからきた女性が、やはりフランスでセクハラに遭い、仕事を辞めてしまったり帰国してしまったりということもありました。女性上司もたくさんいる職場の男性たちが寄り集まってこっそり「女と働くのは目の保養になるけど、能力的にいうと男だけで働く方がいい」と言い合ってるのを聞いてしまったときはもう、「うひょー」としか思えませんでした。ウワサでしか聞いたことのない幻の「蓬莱の玉の枝」がそこらじゅうに転がってたみたいな気分でただただ「うひょー」としか思えません。フランスのセクハラ土壌はまあ、何ていうか、バッチリだと思います。

171227_paris_etc_01.jpg

今回の「#MeeToo」運動はハリウッドからはじまったわけですが、私はフランスにもこの波がきちんと押し寄せてデモや告白が相次いだことをじつは少し意外に思ったし、ホッとする気持ちもありました。セクハラはそれが職場であるなら業種によってそうであるように、国によっても頻度やとらえ方が大きく違うのが普通です。性暴力被害を告白したイタリアの女優アーシア・アルジェントは、国内の男性だけではなく女性からもバッシングを受けてドイツに移住するというよく意味の分からない、でも日本でもおなじみの事態に追い込まれました。イタリアはわりとマッチョ成分の強い国なので、「うーんなるほど」と思った人も多いのではないかと推測します。

私は思うのですが、どこの国でもセクハラ加害者側の動機や手口や思考回路はどれも似ています。国による違いを感じるのは、「どんなふうに背中から撃たれるか」ということです。要するに「セクハラを助長する言動や行動をとる同性」のことです。

日本でセクハラを助長する同性の発言には、日本人の「他人に完璧を求める気質」が根底にある気がします。「なぜだかよくわからないけど被害者のことが気に入らなくて攻撃してしまう」のはだいたいこれが原因で、「隙があったのでは」「私ならそんな状況にならないようにする」などの批判に発展していきます。

一方フランスで私が遭遇するのは圧倒的に「ちょっと触るくらいはセクハラじゃない」「あんまり厳しくするとデートにも誘えない」というようなもの。新卒の女性が「まったく色気のない職場なんてさびしいでしょ」と遊びくたびれた有閑マダムみたいな発言をしていてびっくりしたこともあります。

これらの発言は「恋愛大国ゆえ……」ととらえることもできますが、私は「人間はみんな完璧じゃない」というフランス社会に満ち満ちている定義からきている気がしてなりません。この「完璧じゃない」から生じる「ゆるさ」によって長蛇の列ができているレジ係が同僚と延々世間話をしたり、1週間で処理できる書類仕事に10カ月を要したり……するんでしょうかね? 

フランスには、日本とはまた違うセクハラを指摘しにくい雰囲気があると思います。フェミニストとして活動している人ははたくさんいるけど、一般レベルではよほどグロテスクな内容でない限り「細かいことは気にしない」または「嫌なこと言われたらその場でバーンと言い返してやればいいのよ!」みたいな反応が多いからです。「ゆるさ」と「私は強い」信心によって、結果的にセクハラを許してしまっている。恋愛をしたくない人、性的なものに嫌悪のある人、生真面目すぎる人、繊細な人や弱い人の入る余地がない。そして「#MeeToo」はそういう人たちのための運動だと思うのです。

ここまで被害者=女性という書き方をしてしまいましたが、男性にもセクハラの被害者は多くいます。女性でも気持ちを分かち合えない人はいるし、男性でも被害に遭ったことのある人はその暴力から逃れることがいかに難しいかをよく知っている。「#MeeToo」を批判する人もいるし、被害者なのに批判されたり、これはセクハラだとかセクハラじゃないとか、みんながいろいろなことを言うし、今はどこに触れてもやけどしそうな状態です。

でもそれでこそきっと意味があると思います。水気が飛んで固まったそうめんをイライライほぐすみたいな感じで、ゆさぶって、ねじって、持ち上げて、落とされなければ何も変わらないからです。そして社会だって個人だって、常に変化し続けなければあっというまに終わりがきてしまう。私もまだ終わるわけにはいかないから、ちゃんと手を突っ込んで考えたいなと、今は単純にそう思っているところです。

シロ

パリの片隅で美容ごとに没頭し、いろんな記事やコラムを書いたり書かなかったりしています。のめりこみやすい性格を生かし、どこに住んでもできる美容方法を探りつつ備忘録として「ミラクル美女とフランスの夜ワンダー」というブログを立ち上げました。

パリと日本を行き来する生活が続いていますが、インドアを極めているため玄関から玄関へ旅する人生です。

ARCHIVE

MONTHLY

清川あさみ、ベルナルドのクラフトマンシップに触れて。
フィガロワインクラブ
Business with Attitude
2024年春夏バッグ&シューズ
連載-鎌倉ウィークエンダー

BRAND SPECIAL

Ranking

Find More Stories