アンジェにて、世界最大のタピスリー鑑賞
ずっと行きたいと思っていたアンジェ。
一番のお目当ては、アンジェ城にあるタピスリー「沈黙の黙示録」
現存する中世のタピスリーとしては世界最古で最大のものと言われています。
さて、世界遺産のアンジェ城は、 ロワール川支流メーヌ川の岬にそびえ立つシックなお城。モノトーンの色合いがロワールならではの石灰岩の白&シスト(板石)の黒で、青空をバックに映えるコントラストが素敵。
要塞形のお城としてはロワール最大とのことで、多くの方がイメージするヴェルサイユなど「シャトー」のような、優美な華やかさとは異なる雰囲気を醸し出しています。
ところで、今回の鑑賞ですが、現地の友人の計らいで、元ハイジュエラーのアーカイブ編纂に携わっていたという方がアテンドしてくださるという、贅沢な機会に恵まれました。
事前にざっくりと予備知識を入れてきましたが、ローカルの方の西洋的視点で解説、解釈を聴き、時差ボケが一気に解消。感覚も研ぎ澄まされてくるようです。
ギャラリーに向かう途中、歴代王の紋章が。
12世紀 盾や紋章旗に描かれるフランス王家の紋章には「フルール・ド・リス」が、正式に取り入れられるようになります。ほとんどの方がさっと見て素通りしていくところ、ゼウスから求愛を受けた虹の女神が語源であることに始まり、革命以後、王党派やブルジョワジーからのオーダージュエリーの多くに、このデザインが選ばれていることなど、あまたのエピソードを披露してくださるではありませんか!
シメントリーで中心が高くなる fleur-de-lisのデザインは、様式美の観点からも完成度が高く、ジュエリーの王侯貴族御用達メゾンでは尊敬と憧憬を持って大切に扱われてきた意匠で、フランス人にとって、いまなお特別の存在なのだとか。
↑は、タピスリー制作の命を出したルイ1世ダンジューの紋章。
思いがけずここで時間を大幅に費やしてしまい、急いで本命のタピスリーのあるギャラリーに向かいます。
タピスリー保存の為完璧に温度管理され、最小限に抑えられた薄暗い空間に浮かび上がる傑作たちとようやくの対面。
あまりの迫力にしばし言葉を失います。
「新約聖書」最後の聖典「ヨハネ7の黙示録」に出てくる70以上の場面が描かれていて、その長さは100m以上。経年劣化で判別不明な個所も多く、ガイドブックの鮮明な画像を見てようやく詳細が分かるほど。
これが描かれた当時は、どれほど神々しく美しかったことでしょう!
室内装飾の歴史を振り返ると、固定の宮殿がなく城から城へと宮廷ごと移動していた中世には、まだ壁紙というものが存在しておらず、タピスリーは巻いて運べる芸術的な室内装飾品であり、寒さの厳しい冬には、石造りの壁を覆う防寒用の家具調度品の役目も担っていました。贅を尽くした織物であり、社会的地位を象徴する多機能便利アイテムだったのです!
さて、タピスリーに描かれているのは新約聖書の最後に登場する預言書ですが、解釈が難解でミステリアス。悪魔と神の戦い "ハルマゲドン(最終戦争)がテーマであるため、実は荒唐無稽、残虐でホラーなシーンがとても多いのです。
まともに見ていたら、ちょっと気分がよくないかも。。というのが正直なところ。
そんな私の気持ちを察するかのように、彼女が
「隠れフルールドリスを探してみて」と。
快くないシーンを相殺するためか、パピヨンの模様などに王家の紋章を入れるというお茶目な演出も施されているのです。もちろん、これもルイ一世の王命。
ほっと、心が軽くなります。
それ以外にも、美術書には掲載されていない様々な仕掛けやエピソードなどたくさん隠されているので、娯楽的にも十分すぎるほどの大作鑑賞となりました。
仕事合間にでかけたロワール城と美術巡り、駆け足でしたがかけがえのない時間を過ごしました。続きは改めて!
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