Dance & Dancers/浦野芳子
フィリップ・ドゥクフレ カンパニーDCA
世界中で高評価を得た『CONTACT-コンタクト』で、日本上陸
前回、2014年の『パノラマ』では、その名のとおり色彩豊かなパフォーマンスとユーモアに彩られた絶景を見せてくれたフィリップ・ドゥクフレ カンパニーDCA。今回は、その2014年にフランス・ブルターニュで初演された『コンタクト』を携えての来日公演となる。もちろん、日本初演。
物語は、ゲーテの戯曲『ファウスト』のストーリーをベースに、キャバレーで繰り広げられるようなコミカルな出来事が目まぐるしくつなぎ合わされている。
「神に達しようとしている人物を描いてあるところが面白い。ファウストは永久に満足することがないんだ」
それはドゥクフレ自身との共通点でもあると言う。
「幼い頃、両親が大好きだった『天井桟敷の人々』を映画で見て以来、舞台芸術の世界で仕事をしたいと思うようになった。大衆演劇は実に広い芸術であるということを教えてくれたし、何しろ主人公のバティストに共感し、彼のようになりたいと思ったんだ。でも、もう30年以上この仕事をしているけれど、僕もまだまだ満足していない」
フィリップ・ドゥクフレの名を一躍有名にしたのは1992年のアルベールビル冬季オリンピック開会式・閉会式の演出だ。その後、カンヌ映画祭50周年のオープニングセレモニー、ミュージカル『ドラ-百万回生きた猫』、シルク・ドゥ・ソレイユやクレイジーホース・パリのショー、ディオールやエール・フランスなど世界的企業のCM映像などなど幅広いジャンルで活躍している。
それにしても、難解かつダークな側面も持つ『ファウスト』が、ドゥクフレの手にかかるとどんな景色を見せてくれるのか。
「ゲーテの物語は血なまぐさい場面も多いけど、僕の『コンタクト』では殺人のシーンは一つしか採用していません。ミュージカルへのオマージュが第一景にあり、ファウストは幕が開いて40分くらいたたないと登場しません。これを見て、『ファウスト』を理解しようとは思わないでください。つまり、物語ではなく、僕らが与えるイメージからセンセーションを感じてもらうことで、何らかの感情を引き出したい。それが僕のやり方です。例えばミュージカル映画『ファントム・オブ・パラダイス』もベースは『ファウスト』なんですよ。あの映画を見て、僕も自由に脚色してみたいと思ったんです」
そして、今、この作品を多くの人に見てもらうことは意義のあることだと続ける。
「なぜこのようなテーマを扱うかと言うと、現代社会が神を理由にして狂気に走ろうとしているからです」
2014年に初演してから、『コンタクト』は欧米の各地をツアーで回っている。
「最終的には僕がまとめていますが、作品プランの作成に始まり、振り付けや演出にはメンバー全員に加わってもらっています。ですからいざ作品作りの段になると最初のプランはどこかへ吹っ飛んでしまう。新しく生まれてきたアイディアの一コマ一コマを、まるでパズルのように組み合わせて行くんです。だからツアー一年目は常にパズルのピースを動かしているような状態でした。でも、公演のたびに違ってくるというのも、舞台芸術の醍醐味だと思っています」
一期一会である。その場限りの刹那である。
「作品そのものもそうやって変化・成長していくのですが、一年目の時、ふたりのダンサーが妊娠中でした! 妊娠・出産を通して変化していくダンサーそのものの人生と、それに重なるように作品も変化・成長していく。彼女らと一緒に仕事ができたのは、素晴らしい体験でした」
ダンスは抽象的な芸術である、とドゥクフレは言う。何かを意図しながら振付を行っているのではなく、そのほとんどは無意識の中からこぼれ出ているものである、と。
「後から、意識としてつながることの方が多いですね」
『コンタクト』にはダンスだけでなく歌、演奏、空中エアリアル、コント、など多彩なパフォーマンスが散りばめられている。しかも音楽はすべてライブ演奏。
「この作品を創るにあたり、最初に考えたことはいろいろなカルチャー、個性を集めたい、ということでした。結果、年齢差最大30歳(※)、体型・肌の色、髪の色もさまざま、スキルもさまざまな14人が集まりました。ちなみに、11人のダンサーが歌も披露しています。人選で重視したのは、(もちろん高度なテクニックを持っていることを前提に)好奇心が旺盛であるかどうか、オープンマインドで自分とは違うタイプの人とも積極的に仕事をする人、あとは人柄です。多彩で、多才なアーティストが集まったことで、お子様からお年寄りまでリミットのない舞台に仕上がっていると思います。少なくとも、3年の時間をかけてあちこちをツアーしてきた今は、ほぼ完成形に近い状態であると言っていいでしょう」
異なる人種、異なる言葉、国境。そうしたものを軽々と超えて互いを受け入れ合う集団、カンパニーDCAは、空間の魔術師という異名も持つフィリップ・ドゥクフレが創生した理想の国家の姿なのではないかと、ふと思う。ドゥクフレの魔術の基に召喚されたメンバーで構成された、専制君主のいない、自由で笑いと愛に満ちた小さな独立国家。
幼い頃に感銘を受けた『天井桟敷の人々』、その後影響を受けたフレッド・アステアやジーン・ケリー、『ウエスト・サイド・ストーリー』や『ファントム・オブ・パラダイス』などのミュージカル映画、サーカス……。音楽とダンス、そうした言葉を超えたパフォーマンスから得た感動の積み重ねが、ドゥクフレの作品に反映されているとするならば、私たちは今、ドゥクフレの作品世界を通して進化する舞台芸術の感動の凝縮形を楽しむ権利を与えられている、ということでもあるのだろう。
※確認したところ、最年長の俳優が来日しなくなったため、日本公演でのパフォーマーの年齢差はおよそ25歳です。ちなみに、最年長の俳優は長年DCAの作品に出演している人だそう。
あいちトリエンナーレ2016
愛知芸術劇場 大ホール
2016年10月15日(土)、16日(日)
http://aichitriennale.jp/
料金(全席指定) SS\8,000 S\6,000 A\4,000(学生\2,000)
●新潟公演
りゅーとぴあ新潟市民藝術文化会館 劇場
2016年10月22(土)、23日(日)
http://www.ryutopia.or.jp/
料金(全席指定)\6,000 U25\3,000
●埼玉公演
彩の国さいたま芸術劇場 大ホール
2016年10月28日(金) 、 29日(土) 、30日(日)
http://www.saf.or.jp/
料金(全席指定)一般S\6,500 A\4,000 U25 S\3,500 U25 A\2,000
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