コンドルズ埼玉公演2016新作 LOVE ME TenDER ~近藤良平氏インタビュー
もしかしたら、笑いについて専門的に研究している人には、「面白い」の作用機序を論理的に説明できるのかも知れない。しかしほとんどの場合は「なんだかわかんないけど笑っちゃった」ってことになっているのではないだろうか。"なんだかわかんない"=無意識、が刺激されて笑ってしまうのだと仮定すると、これはほぼ、本能に近い部分で反応しているから起こる現象、と言えなくもない。笑う、ということは、本能を解放して、満足させてあげることなのだ、きっと。
ということを考えていて、
「だからコンドルズは面白いんだ!」ということに気づいた。
ダンス集団でありながら、生演奏・映像・人形劇・コントも展開し、
とにかく客席を飽きさせない。
疲れていると、昼間の公演でもうとうとしてしまう私が、
1か月に及ぶ断食入院生活から復活し
ヘロヘロの身体で客席に座った時ですら、
居眠りするどころか笑うのに忙しく、
終演後、笑い疲れた私の顔にはなぜか涙の跡。
「生きててよかった」強く、心がつぶやいた
上:2013年『アポロ』 Photo:HARU
どうして、こんなに飽きさせないのだろう、
その理由は、主宰する近藤良平氏に会って話すと、
軽妙な語り口調と気さくな人柄、独特な風貌も手伝って
これまた"なんとなく"納得させられてしまう。
近藤氏は日本生まれ・南米育ち。
学校でもさぞかし個性的な存在だったのでは?と思いきや、
「中学生のころ帰国したんですが、
不良たちとも、オタクたちとも仲良くしていた、
いわば調整役的存在でしたね。
でも、高校くらいからは"みんなとは違う"という姿勢を示したくて、
変わった趣味に手を出したり、
ひとりでマイナーな映画見たりしてました」
変わった趣味......それは自転車の改造、ねじへのこだわり、
無銭旅行、などなど。
「スポーツ大会で優勝する、という王道からナンバーワンを
目指すのではないにせよ、何らかの、特殊な分野でナンバーワンにはなりたいと思っていましたね。たとえば象の飼育係とか」
大学に入るとますますメジャーなものには背を向け、
第三世界、ヒッピー、サイケデリック革命、
そうした少数派の世界にどんどん魅かれて行ったそう。
「その延長線上で自然に似たような志向のメンバーが
集まってできたのが、コンドルズかな」
つまり、
コンドルズはマイナー思考の平和主義者の集まり、ってことだ。
写真: 2014年『ひまわり』Photo:HARU
ところで、今回の公演は、
コンドルズ結成20周年と、さいたま公演10作目=10周年
のダブル・メモリアルとなる新作公演だ。
「20年の活動を通して一番変わったのは
メンバーのモチベーションかな。
特に発足してからしばらくの間は、
コンドルズという存在自体もふらふらしていて、
ゆるーい空気の中でメンバーが参加していた。でも今は、
たとえ毎回稽古に参加できなかったとしても「絶対やる」という
決意を感じられる。客席の笑顔、評価に育てられたんだと思う」
ここ数年は、コンドルズの活動だけでも忙しいというのに、
メンバーの多くは、それぞれ独自の舞台活動も行うようになった。
「メンバーがそれぞれ他の生業を持っているのは
昔からなんだけど、最近は
コンドルズの舞台に向かうモチベーションが全然違う」
コンドルズを有名にした理由のひとつに
全員学ラン姿のダンス集団、ということが挙げられるが、
近藤氏はじめ主要メンバーはとっくに
40歳のハードルを超えて激走中。
白髪になってもやっぱり学ラン姿のママなのだろうか。
「別に学ランで売りたい気持ちはもう無いんだけれど、
脱げなくなっちゃったし、脱ぐ必要も感じない。
むしろ僕なんか、いつの間にか学ランがフォーマルになっちゃって、
パーティとか、お葬式とか、
そういう特別なときに着るものになってきてますね」
爺さん学ランダンサー集団、絶対見たい!!
2015年『ストロベリーフィールズ』 Photo:HARU
ところで。彩の国さいたま芸術劇場と言えば、
ピナ・バウシュやアクラム・カーン、バットシェバなど、
世界屈指の芸術家たちとの所縁も深い劇場だ。
「10年前、僕らにチャンスを与えてくれたのがまさしく、
ピナはじめとするコンテンポラリーの才能を
日本に紹介してきたプロデューサーの佐藤まいみさん。
一流を見つめてきた彼女のその視線が僕たちを選んでくれた、
というのが何より嬉しかった。
しかも、毎回、新作をこの劇場の稽古場を使って
作ることができるんだから、創造力も養われる。
予算をやりくりして必死に探した狭い稽古場で作るより、
稽古の時から思う存分、情熱を注いで動き回れる
空間的キャパシティがあるし、
回を重ねるごとに、劇場スタッフの皆さんが
積極的に技術的なアイディアを提供してくれるようになった。
本当に良い時間の重ね方ができているし、
劇場に育てられた、ってこういうことなんだなと今、
実感しています」
実は、今日本の劇場はうまく機能していないと言って
差し支えない状況であると思う。
さまざまな原因が挙げられるが、中でも
安定した利潤を確保するために新たなことに挑戦することを
躊躇する劇場は少なくない。
「そこを考えたらコンドルズに新作を10年続けさせる、なんて、
冒険中の冒険ですよ」
いま、コンドルズがいちばん大切にしていることは
"観客との距離" 。
「僕らと客席が劇場の空気を介して
コミュニケーションできているかどうか。
それは直接的な言葉のやり取りというより、
空気を介した体温のやり取りというか、そんなものなんだと思う」
コンドルズの舞台はかしこまって、
ありがたがって観るものではなく、
増してや"俺たちってすごいでしょ"と
舞台から見下ろされているような雰囲気も感じさせない。
隣同士雑談したり笑ったり、そんな自由な雰囲気の中で
自然に客席の皆の心が一つになっていく、
だからリラックスして楽しめるんだ、と納得。
2006年『勝利への脱出 SHUFFLE』 Photo:HARU
「僕たち、誰ひとりとしてまともじゃないよね、
ってこないだ皆で確認し合ったばかりなんだよ(笑)。
スタート時間はあってないようなものだし、すぐ怠けるし。
会社員としてきちんと組織で機能できそうな人間なんて
居やしない。個性も、得意なことも、バラバラ。
ただ、メンバーの共通項を上げるとしたら
"面白がり"ということかも知れない」
この"面白がり"な17人が、今回の新作では
"分厚い"感じになっているという。
「活動20周年とさいたま10作品目、が重なっている
ことはもちろん、芸術監督の蜷川さん逝去の
ニュースもありましたから。
節目、劇場としても新たな出発のこの時期です、
しっかり舞台を務めたい。そんな気持ちが
僕はもちろんメンバーのモチベーションを
上げているのだと思います」
ラブ・ミー・テンダー。
有名すぎるこの曲名を公演タイトルにした理由は
"やさしく、突っ走っていく僕たちを見せたいから"だそう。
ストレスフルな今だからこそ、
心のフタをほんのちょっとでいいから開けて、
抑圧している本能をやさしく激走させてみませんか?
☆コンドルズ埼玉公演2016新作『LOVE ME TenDER』
彩の国さいたま芸術劇場 大ホール
2016年6月18日(土)14:00/19:00、6月19日(日)15:00
料金:前売 一般S席¥5,000 学生席¥3,000ほか (当日券は+500円)
問:SAFチケットセンター ℡0570-064-939
http://www.saf.or.jp/
※9月には、コンドルズ20周年記念特別大感謝公演(9/10完売、9/9追加公演あり。会場:NHKホール)があります。
ななんと、今年にちなんでの2016YEN 追加公演含め2日限りの史上最強の挑戦です!楽しみだ―――
http://www.condors.jp/stages.html
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