Dance & Dancers

Dance & Dancers/浦野芳子

ジャポン・ダンス・プロジェクト2016 ムーヴ/スティル 小池ミモザにインタビュー

日本では「背が高すぎる」から踊る場がなかなか得れない…という現実に気づいた15歳の小池ミモザは、学びの場をフランスに変え、03年からはモナコ公国モンテカルロ・バレエ団で活躍を続けてきた。2010年にはプリンシパルに昇格し、2012年には、有能かつ個性的な4人の日本人ダンサー・振付家らと共に『ジャポン・ダンス・プロジェクト』を発足。2014年、新国立劇場で衝撃のデビューを果たし、今回は2年ぶりの新作発表となる。

5人で振付・構成・演出のすべてを考えるという作品作りは、スカイプやメールを駆使し行われてきたが8月に入ってようやく小池ミモザが日本に合流、新国立劇場のリハーサルスタジオで喧々諤々、言葉と身体が熱いぶつかり合いを見せていた。

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2014年『CLOUD/CROWD』より、photo:Takashi Shikama

 

『ジャポン・ダンス・プロジェクト』の発足には、ミモザがモナコで『Le Logoscope (ロゴスコープ)』の舞台芸術部門・ディレクターを務めていることも大きく影響している。

「ロゴスコープはモナコ公国のバックアップによるアート活動プロジェクトです。さまざまなジャンルのアーティストが参加する場で、互いの技術や個性、表現をクロスオーバーさせることで新たな作品を生み出します。2010年からロゴスコープに参加していますが、異なる技法や個性と出会うことで、自分の枠を超えたものがどんどん生まれていくことに驚きと喜びを感じました」

ミモザは、モナコの舞台芸術界での活動を評価され、モナコ公国よりシュバリエ文化功労賞を授与されている。日本人ダンサーとして初めてなのはもちろん、
「国境・人種を超えて評価していただけたことに感動しました」

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『ジャポン•ダンス・プロジェクト』発足のきっかけは2012年の『オールニッポンバレエガラ』だったという。2011年に起こった震災の復興支援を目的に行われたこの公演で、ミモザは遠藤康行、柳本雅寛とともに作品を創り、踊った。

「そのプロセスがものすごく面白かったんですよ。また、そのステージには青木(尚哉)くんも出ていて、面白い作品を創る人たちだなぁ、って注目していました」

その後、児玉北斗が他のダンサー仲間の推薦により加わり、カンヌに5人が集まり作品を創って発表した『蟻の天国』が評価され、2014年の初演『CLOUD/CROWD』で5人のプロジェクトは新国立劇場にて日本デビュー。

「作品創りの現場ではぶつかり合うことも多いです。濃い人間が集まってモノ創りをするのだから当たり前ですよね。……でもこの4年の年月の中で自然と役割分担が決まってきたように思います。もちろん、ディレクターを立てず5人が自由に自分の意見を言い合うのだから、時間はかかるし,課題もいろいろ。ただ、面白いものを創りたいという思いは一緒です。だから、多少の意見の食い違いはあって当たり前。そこを通らなければいいものは生まれないんだと思うんです」

それを乗り越えると、
「絶対、自分一人ではいけない場所に到達できるんです!!」
モナコでのLe Logoscopeの活動も、この『ジャポン・ダンス・プロジェクト』も、ミモザ自身にとってインスパイアの源に他ならないのだ。

 

振付を行うことで、ミモザの世界は広がったという。
「自分が振付家の立場に立ってみることで(モンテカルロ・バレエ団の)振付家・マイヨーとの関係においてもよい刺激になっています」
振付に関心を持ったきっかけは、踊る場所の空気によって自分が影響を受けていることを発見したことだったという。
「ツアーで出かけた時、面白い、ここ好き!と思った場所で即興で踊って、それを自分で録画してきたんです。イスタンブールの建物の屋上とか、エレベーターの中とか。すると、場所の雰囲気に影響されてか、今まで観たこともない動きが自分から出てくるんですよ。そんな発見から振付に興味を持ちました」

現代美術や文学などさまざまなことから刺激をもらい、インスパイアされるというミモザだが、次のエピソードには思わずにんまり。
「自分が大きくなって、お相撲さんみたいになったイメージを持って踊ることもあります」
なんと、ミモザは日本にいたころは相撲観戦にもよく足を運んでいたそう!(相撲大好きの私としては嬉し涙……)。
「本物のエネルギーは、テレビで見ているのとは全然違うし、あの肉体が空中に舞っていくときの美しさは、まさに神がかってますよ。素晴らしくアーティスティックです」

実は、相撲部屋を訪ねて稽古を見せてもらったこともあるというミモザ。もっと話を聞きたかったけれどそこはぐっとこらえて、話を『ジャポン・ダンス・プロジェクト』に戻そう。

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「もちろん、ひとりで作品を創る事もありますが、他者とコミュニケーションする中で、今まで思いつかなかったアイディアが出てきたり、その時一緒にいる相手によって自分の違う面が出てくることがあることって、誰にでもありますよね?単純な例で言えば、私は日本にいると“でかい”と言われるけれど、ヨーロッパにいると“華奢だ”と言われるし」
同じ自分なのに相手によって見えている“小池ミモザ”は違うのだ。

「何年か前から、“あなたはフランス人みたいね”と言われるようになりましたが、私としては“いやいや日本人ですよ”と主張したくなります。理由は、日本人は素晴らしい文化、習慣、歴史を持っていると思うからです。実際にヨーロッパの人たちには日本文化が好きなひとが多く、“私の前世は日本人だったんだわ!”なんて言う人もいるくらい。でも、人種が同じだからという理由だけでひとくくりにされるのには少々疑問も感じています。なぜなら、国や肌の色が違っても、考えや志向を共有できる人にたくさん出合ってきたからです」

 

さて、今回の『ムーブ/スティル』について。

「いろんな人たちが集まる場所、という意味で“公園”をイメージしていますが、単純に“公園”がテーマになるというわけではありません。というのも、作品創りを進める段階でどんどん新しい意見が出てくるのでいろんなストーリー、テーマがパズルみたいに組み合わさっていく。ですから、伝えたいことはコレ!とは断言できない。日々複雑な作品に成長していて、ある意味わかりにくいでーす(笑)。直前まであれこれやっているので面倒くさいけれど、個性的な人たちの集団っていう意味で、そこが面白いんだと思いますよ」

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2014年『CLOUD/CROWD』より、photo:Takashi Shikama

 

すごいな、日本。
海外にいるとそう思うことが多いという。
「文化や芸術、技術の面はもちろんですが、高度な技術や思想を持った人たちがたくさんいる。外から日本を見つめているとそういうことが見えてくる。日本ではあまり知名度がないけれど、海外で活躍している素晴らしい日本人ダンサーがたくさんいます。そのためにも、このプロジェクトを続けていきたい。前回・今回と新国立劇場バレエ団のダンサーたちにも参加してもらいますが、彼らを通して何かを受け渡せたら嬉しい、とも思っています。とっても素晴らしいダンサーたちで、お互いに刺激をうけて成長していける関係です」

『ジャポン・ダンス・プロジェクト』は、額縁を持っているものの、それはかっちりとした硬いものではなく、ゴムのように伸び縮みできる柔らかなものでありたい、というミモザ。

ふと、渓流が、岩や石にぶつかりながらさまざまな流れを生む、そんな風景が頭に浮かんだ。こういう人たちが、“大河”を創っていくのかも知れない、と。

 

『ジャポン・ダンス・プロジェクト2016 ムーヴ/スティル』
日程 8月27(土)14:00  28(日)14:00
料金 S\6,480  A\4,320 B\3,240
新国立劇場 中劇場 PLAYHOUSE
問 新国立劇場ボックスオフィス 03-5352-9999
http://www.nntt.jac.go.jp/dance/

 

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