原作を敬愛しつつ描く、母と娘の物語『ジュリエッタ』。
Culture 2016.11.16
『ジュリエッタ』
音信不通の娘に宛て、母ジュリエッタは手紙を書く。夫との出会いは夜行列車が興を添え、娘失踪の謎は水面下で情動がうねる。回想を生かした名演出。
カナダ初のノーベル文学賞受賞者、「短篇の名手」アリス・マンローの作品は、行間に物語の真髄が込められていることもあるひと筋縄ではいかない魅力が特徴だ。なかでもマンロー的要素満載の傑作といわれる3つの連作短篇がどう映画化されたのか、半ば失望を覚悟で『ジュリエッタ』を観たのだが、原作の勘所は押さえつつ素晴らしい「アルモドバル映画」となっていて、唸らされた。
原作では、1話目で女学生ジュリエットが列車の車中で漁師と出会い人生の針路を変更、2話目では子連れで帰省した彼女の両親との経緯が語られ、3話目では夫を亡くしてキャリアウーマンとなった彼女が娘に捨てられ、寂しく老いていく。映画は舞台を地味な北国カナダから極彩色のスペインへ移し、ジュリエ
ッタが長年音信不通の娘の旧友と街角で出会うシーンから過去が語られる。女三代の話を母と娘の物語とし、原作にはない娘の事情と新たな悲劇を盛り込み、悲しみを通じた絆復活の希望を漂わせて終わる。
表現のテイストはまるで違っていながら、若いジュリエッタの挑発的な姿は、原作では地味な主人公の挑戦的な内面と重なるし、夫の死を乗り越えて美しい中年女性となる原作主人公の変身は、映画では浴槽での印象的な早変わりで表され、随所で原作への巧みな目配せが見られる。思えばマンローとアルモドバルは、愛や性を軸に人間をリアルに描き出す共通した眼差しを持っている。母と娘、そして親子それぞれの親友との複雑な関係を鮮やかに描き出した濃密な女の物語『ジュリエッタ』は、脚色というものの見事な成功例だ。
文/小竹由美子(翻訳家)
1995年に翻訳家デビュー。『イラクサ』『林檎の木の下で』、本作の原作本となる10/31発売の『ジュリエット(Runaway)』(以上新潮社刊)ほか、アリス・マンロー翻訳の第一人者。
1995年に翻訳家デビュー。『イラクサ』『林檎の木の下で』、本作の原作本となる10/31発売の『ジュリエット(Runaway)』(以上新潮社刊)ほか、アリス・マンロー翻訳の第一人者。
『ジュリエッタ』
監督・脚本/ペドロ・アルモドバル
出演/エマ・スアレス、アドリアーナ・ウガルテ、ダニエル・グラオ
2016年、スペイン映画 99分
配給/ブロードメディア・スタジオ
新宿ピカデリーほか全国にて公開中。
http://julieta.jp/
*「フィガロジャポン」2016年12月号より抜粋
監督・脚本/ペドロ・アルモドバル
出演/エマ・スアレス、アドリアーナ・ウガルテ、ダニエル・グラオ
2016年、スペイン映画 99分
配給/ブロードメディア・スタジオ
新宿ピカデリーほか全国にて公開中。
http://julieta.jp/
*「フィガロジャポン」2016年12月号より抜粋
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