大人になる、母になる、若返る。辛辣なメルヘン映画。

Culture 2016.12.09

『五日物語 3つの王国と3人の女』

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古来の女性の欲望が誘う最果ての景色を見よ! 秘薬・海竜の肝をむさぼる王妃の出産を寿ぐ間もなく、眼下は地獄の展開に唖然。これぞ原型的おとぎ話。

 海に眠る白い竜から取り出した生きた心臓によって、一日にして妊娠、即出産というハイスピードで、ようやく待望の息子を得た王妃。問題は竜の心臓を調理した生娘の使用人にも瓜二つの子が生まれてしまったことだ。次なるは、若く美しい歌声に酔わされ、これはもう引きこもった恥じらいの美
女にちがいない、と思い込んでしまった好色な独身王。声の主の老婆(姉妹で生活)は、王からのベッドへの誘いに<美声の乙女>として応じなくてはならない。さて困った。はたまた、せっかくお父様のためにリュートをつま弾いて歌ったのに、父たる王といえば愛しいノミの捕獲に気もそぞろ、上の空。そろそろわたしも旦那様がほしい、なんとかしてという王女の嘆願に王様は婿募集のおふれを出すわけだが、それには奇妙な条件がついていた!
 以上、3つのお話のそれぞれのイントロを紹介してみたが、あとは度肝を抜く展開となる。確かにメルヘンというしかないお話だが、黒いという形容詞が必要なのだ。原作は、グリム兄弟などに先行して17世紀に書かれたバジーレの『ペンタメローネ(五日物語)』(大修館書店)である。余興ライブとして王に捧げる5日間の面白話全50話というスタイルでまとめられたもの。
 マッテオ・ガローネはそこから古びることのない3大テーマ、母(妊娠)、若さ、結婚をピックアップ、犯罪実録『ゴモラ』の監督らしくよりハードに辛辣に脚色し映像化してみせた。遊び心十分の無敵女優サルマ・ハエック(王妃役)が出演快諾という時点で、物語の皮肉と暗黒は保証されたようなものだ。髪型、髪飾りに注目。

文/滝本誠(映画評論家/美術評論家)

出版社勤務を経て独立。著書に『きれいな猟奇 映画のアウトサイド』(平凡社刊)『映/画、黒片 クライム・ジャンル79篇』(キネマ旬報社刊)ほか。映画と美術の垣根を越えて活動する。
『五日物語 3つの王国と3人の女』
監督・脚本/マッテオ・ガローネ
出演/サルマ・ハエック、ヴァンサン・カッセル、トビー・ジョーンズ
2015年、イタリア・フランス映画 133分
配給/東北新社、STAR CHANNEL MOVIES
11月25日より、TOHOシネマズ六本木ほか全国にて公開
http://itsuka-monogatari.jp/

*「フィガロジャポン」2017年1月号より抜粋

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