どこか不可思議な、動物と少女のポートレート。
Culture 2017.06.28
<15年以上、自分の娘と犬や猫、猿、カンガルーなどの動物を一緒に撮り続けてきた写真家ロビン・シュワルツ。この写真、実に謎である>
動物は、多くの写真家が好んで被写体に使うものの1つ。今回紹介する米ニュージャージー州在住のロビン・シュワルツもそうした1人だ。ただし、彼女の写真は、動物の可愛らしさや、あるいは野生動物に焦点を当てたものではない。人間を含めた動物たちを種としてとらえ、その関係性を探り求めている。
すでに写真集を4冊出しているが、なかでも、自分の娘アメリアと動物たちをポートレート的に一緒に撮影したシリーズがまさにそれだ。娘が生まれた時に始め、3歳の時から本格的に撮影し、以来15年間続けているプロジェクトである。
2008年に『Amelia's World』、2014年には『Amelia & the Animals』としてアパチャーから出版され、2016年にはグッゲンハイム・フェローシップを受賞している。
娘以外の被写体の多くは犬、猫、そして猿だ。加えてカンガルーや虎、象、七面鳥などもあり、多様である。こう書き並べると動物紹介シリーズのように聞こえるが、シュワルツがつくり出している世界の最大の魅力は、アメリアと動物たちとの間に流れている途方もない不可思議な親密感である。
実に謎である。動物たちがシュワルツの娘アメリアを同じ種として眺めているのである(あるいは「扱っている」とも言える)。アメリア自身も、そうした動物たちを人間として見ている観がある。こうした世界を見せつけられると、まれに飛び込んでくる、狼などが人間の子供を自らの子供として育てたというニュースなどは、単なる自然の摂理であるとさえ思えてくる。
こうした親密的な繋がりは、もう1つの親密性を放つ源がなければ存在し得ない。もちろん、写真を撮っている母親のシュワルツである。
>>動物写真を撮るきっかけは。
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実のところ、シュワルツにとっての動物は、写真家としてのライフワークを超えている。これまで、彼女のキャリアのすべては動物たちと共にあった。MFA(美術学修士)を保持しているが、その時の卒論は「ペットと野良猫、野良犬たち」だった。出版した本はすべて動物をテーマにしたものだ。
だが、「動物写真家よりも、動物中心主義者であることが自身の最も大切な核だ」と彼女は言う。生まれた時からそういう気質だったそうだ。動物と人間に違いはない、むしろ人間のほうがエゴがあり残虐である、と考えている。
とはいえ、そうした動物中心主義の気質だけでは、こういった作品は生まれなかっただろう。シュワルツが動物の写真を撮るようになったきっかけは、自身が子供時代、いわゆる鍵っ子だったこと。その寂しさを埋めるために猫を飼うことを許され、10歳からは、猫にドレスを着せて写真を撮るようになっていたという。
また、父親を19歳の時に亡くしている。さらには娘が3歳になった頃、シュワルツの母親と義理の母親が癌と診断され、半年後には共に亡くなってしまった。それが彼女に、いかに人生がはかないか、大切な人と時間を共にすることがどれほど大切かを教えてくれた。
それがきっかけとなり、シュワルツは大学の写真講師の仕事などでどれほど忙しくても、娘と可能な限り一緒に過ごし、動物たちとのフォトセッションを行うようになっていったのだ。
実際、写真という最終的な結果よりも、動物たちに会って関わりを持ち、娘と共に存在し、そうした経験をシェアすることのほうが何よりも大切だと彼女は語る。だからこそ、彼女の作品には、写真そのものさえ超えてしまうような何かがあるのかもしれない。
ちなみに、友人の飼っていた猿――この猿自身が友人でもある――の名にちなんで付けられたアメリアは、この秋からシュワルツの元を離れて大学に行くことになる。だが、彼女と動物とのプロジェクトはまだまだ続けていく、とのことだ。
今回ご紹介したInstagramフォトグラファー:
Robin Schwartz @robin_schwartz
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写真家/ジャーナリスト
1986年よりニューヨーク在住。80年代は主にアメリカの社会問題を、90年代前半からは精力的に世界各地の紛争地を取材。作品はタイム誌、ニューズウィーク誌を含む各国のメディアやアートギャラリー、美術館で発表され、世界報道写真賞や米海外特派員クラブ「オリヴィエール・リボット賞」など多数の国際的な賞を受賞。コロンビア大学院国際関係学修士修了。写真集に『戦争——WAR DNA』(小学館)、"Tompkins Square Park"(powerHouse Books)など。フォトエージェンシー、リダックス所属。
インスタグラムは@qsakamaki(フォロワー数約9万人)
http://www.qsakamaki.com
ニューズウィーク日本版より転載
文:Q.サカマキ