立田敦子のヴェネツィア国際映画祭レポート2017 #01 ジョージ・クルーニー監督作など今年はジャンル映画が熱い!
Culture 2017.09.11
8月31日(水)〜9月9日(土)に開催された第74回ヴェネツィア国際映画祭。
カンヌ、ベルリンと並んで世界三大映画祭のひとつであるヴェネツィアですが、ここで高評価を受けた作品が、アカデミー賞に直結するケースも多く、近年では2013年のオープニング作品であるアルフォンソ・キュアロンの『ゼロ・グラヴィティ』が監督賞、2015年のアレハンドロ・ゴンザレス・イニャリトゥの『バードマンあるいは(無知がもたらす予期せぬ奇跡)』が作品賞、2016年のオープニングを飾り、エマ・ストーンが最優秀女優賞を受賞した『ラ・ラ・ランド』が監督賞をはじめ6部門で受賞を果たしています。
今年は、コンペティション部門に福山雅治主演×是枝裕和監督の『三度目の殺人』が選出、またクロージング作品として北野武監督の『アウトレイジ 最終章』が上映されるなど日本的にも話題が盛りだくさん。
さて、そんな第74回のコンペティション部門にはワールドプレミアの21本がラインナップされました。
ホラー、サスペンスといったジャンルムービーから、SF、ロードムービー、ドキュメンタリーなど「多様さ」を意識したセレクトが特徴。
オープニングを飾ったのは『サイドウェイ』で知られるアメリカの気鋭アレクサンダー・ペインの『ダウンサイズ』。科学の発達により13㎝に縮むことが可能になった近未来で、豊かな生活を手に入れるために“小さくなる”ことを選択した男が主人公のSFコメディ。主演はマット・デイモンです。
『ダウンサイズ』主演のマット・デイモン(左)とアレクサンダー・ペイン監督(右)。2018年3月に日本公開が決定しています。
『ダウンサイズ』trailer
マットは、ジョージ・クルーニー監督作の『Suburbicon』(原題)でも主演しています。こちらは、1950年代の米国の郊外の住宅地を舞台にしたブラックユーモアが効いたサスペンスコメディ。このテのジャンルを得意とするコーエン兄弟の脚本を元にしています。
『Suburbicon』より、ジュリアン・ムーア(左)とマット・デイモン(右)。 ©2017 Paramount Pictures
『Suburbicon』trailer
『Suburbicon』の監督を手がけたジョージ・クルーニーは妻アマルとともにレッドカーペットに登場。
>>ジェニファー・ローレンス主演のホラーから原題アーティストが手がけるドキュメンタリーまで、まだまだ話題作がたくさん!
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『レスラー』で2008年に金獅子賞を受賞しているダーレン・アロノフスキーの『マザー!』は、ジェニファー・ローレンスを主演に迎えたホラー。
メキシコ出身でハリウッドでも活躍するギレルモ・デル・トロの『The Shape of Water』(原題)は、1962年、冷戦下の米国で政府の秘密機関の研究対象となっている水生クリーチャーと人間の女性のファンタジックラブストーリー。
ダーレン・アロノフスキー監督、ジェニファー・ローレンス主演の『マザー!』は2018年1月19日(金)より日本公開予定。
ギレルモ・デル・トロ監督『The Shape of Water』。主演はサリー・ホーキンス。こちらも2018年日本公開が決定しています。 ©2017 Twentieth Century Fox Film Corporation All Rights Reserved
ヨーロッパの監督が米国で撮った作品も多く、シャーロット・ランプリング主演の『さざなみ』で注目された英国の新進監督アンドュー・ヘイがアメリカで撮ったロードムービー『Lean on Pete』(原題)、イタリアのパオロ・ヴィルズィがヘレン・ミレンとドナルド・サザーランドという大物俳優を主演に迎えた『The Leisure Seeker』(原題)もボストンからキーウエストへと向かう、老夫婦のキャンピングカーでの旅を描くロードムービーです。
アンドュー・ヘイ監督のロードムービー『Lean on Pete』。 ©Scott Patrick Green
『The Leisure Seeker』ではドナルド・サザーランド(左)とヘレン・ミレン(右)が共演。
戯曲家としても評価されている英国のマーティン・マクドーが脚本・監督を手がけた『Three Billboards outside Ebbing, Missouri』(原題)も娘を殺された母親が警察に復讐を挑むというダークスリラーです。
『Three Billboards outside Ebbing, Missouri』の主演はフランシス・マクドーマンド。2018年日本公開。
©2017 Twentieth Century Fox Film Corporation All Rights Reserved
こうしたジャンル映画は、ここのところカンヌ映画祭などでも多くラインナップされていますが、もともと社会派のテーマを高く評価する傾向のあるヴェネツィアが、これらの作品にどのような評価を与えるのか、注目したいものです。
ドキュメンタリーは2本。
北京オリンピックの“鳥の巣スタジアム”で知られるコンテンポラリーアーティストのアイ・ウェイウェイ(艾未未)が22カ国を回り、難民たちの現実を撮った『Human Flow』(原題)、巨匠フレデリック・ワイズマンがニューヨークの公共図書館の裏側に迫る『Ex Libris - The New York Public Library』(原題)です。
ドキュメンタリーは、ジャンフランコ・ロッシの『ローマ環状線、めぐりゆく人生たち』が2013年にドキュメンタリー映画として初めて金獅子賞を受賞していますが、コンペに初登場している巨匠ワイズマンへの評価も気になります。
アーティスト、アイ・ウェイウェイが手がけた『Human Flow』。 ©2017 Human Flow UG
フレデリック・ワイズマン監督の『Ex Libris - The New York Public Library』。 ©Zipporah films
審査長は、米国の大物女優アネット・ベニング。
審査員は以下の8人。
アナ・ムグラリス(女優・フランス)
エドガー・ライト(監督・英国)
レベッカ・ホール(女優・英国)
デビッド・ストラットン(映画評論家・オーストラリア)
ジャスミン・トリンカ(女優・イタリア)
ヨン・ファン(監督・台湾)
イルディゴ・エンエディ(監督・ハンガリー)
マイケル・フランコ(監督・メキシコ)
女優が同映画祭の審査員長を務めるのは、2006年のカトリーヌ・ドヌーヴ以来11年ぶりですが、果たして「女性の視点」はどのように結果を左右するのでしょうか?
●コンペ部門21作品のラインナップはこちら。
※カッコ内は監督の国籍です。
『ダウンサイズ』アレクサンダー・ペイン監督(米国)
『The Shape of Water』(原題)ギレルモ・デル・トロ監督(メキシコ)
『Lean on Pete』(原題) アンドリュー・ヘイ監督(英国)
『La Villa』(原題)ロベール・ゲディギャン監督(フランス)
『Three Billboards outside Ebbing, Missouri』(原題)マーティン・マクドナー監督(英国)
『Custody』(英題)グザヴィエ・ルグラン監督(フランス)
『Mektoub, My Love: Canto Uno』(英題)アブデラティフ・ケシシュ監督(フランス)
『Hannah』(原題)アンドレア・パラオロ監督(イタリア)
『True Love』(英題)アントニオ&マルコ・マネッティ監督(イタリア)
『Suburbicon』(原題)ジョージ・クルーニー監督(米国)
『マザー!』ダーレン・アロノフスキー監督(米国)
『First Reformed』(原題)ポール・シュレイダー監督(米国)
『Ex Libris - The New York Public Library』(原題)フレデリック・ワイズマン監督(米国)
『Sweet Country』(原題)ワーウィック・ソーントン監督(オーストラリア)
『The Insult』(原題)ジアド・ドゥエリ監督(レバノン)
『Human Flow』(原題)アイ・ウェイウェイ監督(中国)
『三度目の殺人』是枝裕和監督 (日本)
『Foxtrot』(原題)サミュエル・マオズ監督(イスラエル)
『Angels Wear White』(英題)ヴィヴィアン・チュイ監督(中国)
『UnaFamiglia』(原題)セバスティアーノ・リソ(イタリア)
『The Leisure Seeker』(原題)パオロ・ヴィルズィ監督(イタリア)
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大学在学中に編集・ライターとして活動し、『フィガロジャポン』の他、『GQ JAPAN』『すばる』『キネマ旬報』など、さまざまなジャンルの媒体で活躍。セレブリティへのインタビュー取材も多く、その数は年間200人以上。
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