立田敦子のヴェネツィア国際映画祭レポート2017 #02 福山雅治、是枝裕和、北野武、ヴェネツィア日本勢は豪華。

Culture 2017.09.13

今年のヴェネツィアは日本勢で賑やかでした。
まず、コンペティション部門には、是枝裕和監督の『三度目の殺人』が選出されました。裁判に勝つことを最優先する現実的な弁護士、重盛(福山雅治)が、ほぼ死刑が確定していると思われる殺人犯、三隅(役所広司)の弁護を引き受けることになるが、三隅のとらえどころのないキャラクターに翻弄される……という心理サスペンスです。

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『三度目の殺人』で弁護士役を演じる福山雅治。 ©2017 FUJI TELEVISION NETWORKAMUSE INC. GAGA CORPORATION  All rights reserved.

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福山(左)と、彼が弁護する殺人犯を演じる役所広司(右)。 ©2017 FUJI TELEVISION NETWORKAMUSE INC. GAGA CORPORATION  All rights reserved.

是枝監督は、デビュー作『幻の光』(1995年)が金のオゼッラ賞を受賞して以来、22年ぶりにヴェネツィアのコンペに登場しました。
海外では、家族の物語の語り手というイメージが定着しているせいか、記者会見では「これまでの是枝作品とは違った作風になっている。ジャンルムービーを撮ろうと思ったきっかけは?」との質問も出ました。

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『三度目の殺人』の是枝裕和監督。

是枝監督「この10年ぐらいホームドラマを続けて人間のデッサンを鉛筆で描いていたような感覚でした。今回はやや『家』から『社会』へ視野を広げたことで、油絵で描くようなタッチを変えた作画をしています。スリラーをやろうと思っていたわけではないですが、社会に目を向けた時に、人が人を裁くことについて考えてみたいと思ったことがスタートとしてありました。日頃お付き合いのある弁護士さんと話をする中で、『法廷は真実を追求するところではない、利害の追及をするところだ』というひと言を聞いたのが今回のモチーフ、きっかけになりました。脚本作りも実際の弁護士たちに入っていただいて一緒に作っていったプロセスがあるので、そういう意味では自分の記憶、家族をベースにして書いていたストーリーとは違う作り方をしました。そしてそれはとても刺激的でした」

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レッドカーペットにて、『三度目の殺人』是枝監督とキャストたち。

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『三度目の殺人』出演の福山雅治(左)と広瀬すず(右)。

主演の福山さんとは、カンヌ国際映画祭で審査員賞を受賞した『そして、父になる』(13年)以来、4年ぶり2度目のコラボ。作品ごとに、新たな展開を生み出す、相性のいいコンビといえそうです。

>>映画関係者にも人気の音楽家、坂本龍一を5年にわたり撮影したドキュメンタリーとは。

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「アウト・オブ・コンペティション」部門では、日本を代表する音楽家、坂本龍一さんを追ったスティーブ・ノムラ・シブル監督の『Ryuichi Sakamoto: CODA』がプレミア上映されました。
アーティストとしてだけでなく、環境問題などの活動家としての顔ももつ坂本氏ですが、映画の中では現在住んでいるニューヨークでの9.11、母国である日本での3.11というふたつの大きな出来事や、がん闘病などを経験しての新たなる思いが自身の言葉で語られます。

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坂本龍一を5年もの間密着取材して制作されたドキュメンタリー映画『Ryuichi Sakamoto: CODA』。

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『Ryuichi Sakamoto: CODA』ではアーカイブ素材や貴重なプライベート映像も。

また、『戦場のメリークリスマス』(1983年)、『ラストエンペラー』(87年)、『レヴェナント 蘇えりし者』(2015年)など多くの映画音楽を手がけ、『ラストエンペラー』ではアカデミー賞作曲賞を受賞。前2作品では俳優として出演もしている坂本氏は、映画関係者や映画ファンの間でも人気が高く、正式上映でも盛大な拍手を浴びていました。
また、ヴェネツィア映画祭は、古いフィルムを修復し上映する「クラシック」部門にも力を入れていますが、今年ラインナップされた小津安二郎の『お茶漬けの味』(1952年)の上映前にも登壇し、小津について、また実父のお茶漬けの逸話などを披露しました。

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『Ryuichi Sakamoto: CODA』のスティーブ・ノムラ・シブル監督(左)と坂本龍一(右)。

若手監督の登竜門としても知られる「オリゾンティ」部門では、五十嵐耕平ダミアン・マニヴェル共同監督の『泳ぎすぎた夜』が上映されました。青森を舞台に、少年が自分の描いた絵を見せるために父親を訪ねる“冒険”を描いた静かながら美しい作品です。

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『泳ぎすぎた夜』

ロカルノ映画祭での出会いがきっかけで共同監督に至ったというふたり。こうした国際的なコラボが生まれるのも映画祭の素晴らしいところです。

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『泳ぎすぎた夜』監督の五十嵐耕平とダミアン・マニヴェル。

>>クロージングは、ヴェネツィアに縁の深い北野武監督作品!

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クロージングを飾ったのは、北野武監督の『アウトレイジ 最終章』

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クロージング作品『アウトレイジ 最終章』。

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『アウトレイジ 最終章』の北野武監督。

北野監督といえば、22年前に『HANA-BI』(1997年)でヴェネツィア国際映画祭金獅子賞を受賞し、イタリアをはじめとするヨーロッパで人気に火がつきました。それ以来、9回もさまざまな形でヴェネツィア国際映画祭に参加している北野監督ですが、「それまで作った映画は当たらず、交通事故も起こして、もうエンターテイメント界では終わったともいわれた。そんな時、『HANA-BI』で金獅子賞をもらったことで、またこの世界で上がることができた。毎回、来るたびにそれを思い出し、感謝している」と、北野監督にとってヴェネツィアがいかに特別な場所であるかを語りました。

『アウトレイジ 最終章』は、『アウトレイジ』(2010年)、『アウトレイジ ビヨンド』(2012年)に続く3部作の完結編。自身が演じる主人公、大友の“幕引き”と重なり、クロージング作品としての上映は、またとないワールドプレミアの場となりました。

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レッドカーペットにて、北野監督(左)と森昌行プロデューサー(右)。 © Kazuko Wakayama

記者会見では、この作品でバイオレンスものをやりきった後、どこへ行くのか、についての質問に対して、自身が9月末に出版する小説をベースにした恋愛映画を準備中と明かしました。
北野作品には、『あの夏、いちばん静かな海』など恋愛映画の傑作もあるだけに、70歳になった巨匠がどんな愛を描くのか楽しみです。

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北野武監督も登壇! 編集KIMのフランス映画祭レポート。

立田敦子(映画ジャーナリスト)
大学在学中に編集・ライターとして活動し、『フィガロジャポン』の他、『GQ JAPAN』『すばる』『キネマ旬報』など、さまざまなジャンルの媒体で活躍。セレブリティへのインタビュー取材も多く、その数は年間200人以上。

© La Biennale di Venezia - foto ASAC

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