アートが身近にあるイギリス、その理由とは?

Culture 2018.07.13

イギリスでこのほど「ミュージアム・オブ・ジ・イヤー」が発表され、イングランド南西部にある「テート・セント・アイヴス」が2018年の最優秀ミュージアムに選ばれた。賞金は、美術館・博物館に贈られる賞の中では世界トップクラスとなる10万ポンド(約1500万円)だ。

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テート・セント・アイヴスの拡張部分の屋上からは、大西洋を見渡せる。photo:©Hufton+Crow

今年の最優秀美術館は、大西洋を望むギャラリー。

1993年にガス工場を改装して造られたテート・セント・アイヴスは、ブリテン島の南西部に突き出た半島にあるコーンウォールという地域に位置する。2015年にいったん閉館し、2年と2000万ポンド(約30億円)かけた拡張&リニューアル工事を経て、2017年10月に再オープン。建築家ジェイミー・フォバートによる地形を生かした拡張部分や、地元コーンウォールにゆかりのある芸術家の作品を中心にした展示プログラムが高い評価を受けた。

美術館の名称「テート」と聞いてピンときた人は、アート好きな人に違いない。「テート」とは、イギリスの4つのアートギャラリーを傘下に収める組織だ。かつてテート・ギャラリーと呼ばれて親しまれたテート・ブリテン(ロンドン)を筆頭に、テート・モダン(ロンドン)、テート・リバプール、テート・セント・アイヴスがあり、それぞれ16世紀から現代にかけてのイギリスのアート作品を展示している。

大航海時代と産業革命を経て、美術品が集積。

イギリスには多くの美術館・博物館がある。イングランド芸術評議会のブログによるとその理由は、17〜18世紀にイギリスが世界の貿易の中心へと発展したことで、世界中からアートが集まるようになったためだ。その後に続く産業革命でイギリスがさらに豊かになると、収集は勢いを増し、19世紀には美術館・博物館の数が爆発的に増えていったという。

イギリスにある美術館・博物館で最も入場者数が多いのは、ロンドンにある大英博物館だ。「タイムアウト」誌によると、1759年のオープン当初、一般公開されている国立のミュージアムは世界でも大英博物館しかなかった。現在も年間約600万人が訪れる人気の観光スポットだ。

そのコレクションは、最も古いもので200万年前の石切用の道具に始まり、800万点にも及ぶ。さまざまな方法で集められた収蔵物は、所有権を巡っての争いとも無縁ではない。たとえば古代ギリシアの彫刻「エルギン・マーブル」は、ギリシャが繰り返し返還を求めており、つい最近もチプラス首相が初めて公式にイギリスを訪れた際、イギリスのメイ首相に返還を求めたことが報じられている。

無料化のおかげで、あらゆる人が芸術に親しむ。

大英博物館をはじめ、イギリスの美術館・博物館は入場無料のところが多い(前述のテート・セント・アイヴスはテート会員以外有料)。誰もが平等に文化を楽しめるようにとの考えから、2001年に政策として国立美術館・博物館の入場料を撤廃したことによる。

国立美術館・博物館の館長たちで構成される評議会(NMDC)によると、入場料撤廃の前後10年で比較すると、それまで入場料を取っていた美術館・博物館の年間入場者数は、710万人から1800万人と約2.5倍に増加した。2001年以前からすでに入場無料だったミュージアムでも、入場者数は22%の増加となっていた。

さらに、美術館・博物館を訪れる人たちも多様になったという。民族的少数派の人たちの入場者数は177.5%の増加(デジタル・文化・メディア・スポーツ省が資金援助をしている美術館・博物館の場合)。また、労働者階級や所得が低い人たちもアートを楽しむように。たとえばリバプール国立美術館の入場者数の26%、王立武具博物館(リーズ)の入場者数の17%を、労働者階級や所得が低い人たちが占めた。

インターネットはおろかテレビも雑誌もなかった時代、アートや他文化に触れる機会は、こうした美術館・博物館しかなかった。現在も、誰にでも無料で公開されているこのような場所は、時間がある時にふらりと立ち寄れる気軽さがあり、芸術を身近なものにしてくれている。

今回、テート・セント・アイヴスが受賞したミュージアム・オブ・ジ・イヤーは、美術館・博物館の発展を目指す「アート・ファンド」という慈善団体が資金援助をしている。あらゆる層にアートが浸透するようにと、美術館・博物館が展示品を購入する際の支援を110年にわたり行ってきた団体だ。誰もが芸術に親しめるイギリスの状況は、このように社会全体で芸術を育て維持する文化がこの国には根づいているからなのだろう。

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海辺に立つテート・セント・アイヴス(写真中央)。セント・アイヴスはバーバラ・ヘップワースをはじめとする芸術家たちに愛された街で、19世紀後半以降には「アーティスト・コロニー」がつくられた。photo:©Hufton+Crow

texte: Satomi Matsumaru

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