キャリアに支障をきたすことなく、早く退社するには?

Culture 2019.02.12

与えられた仕事をこなしたのに上司や同僚よりも早く帰りづらい、長く働いている人が評価されがち――これは日本だけではなく、フランスにも存在する傾向のようだ。その背景には、「パフォーマンス」という言葉に囚われた会社という世界で、時間と労働との関係がますます複雑化している現状がある。

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オフィスにいる時間によってパフォーマンスが決まるものではないものの……。photo:iStock

「パフォーマンスと残業は同じ意味なんでしょうか?」――上司にそんな質問をしてみたらどうか。少し想像しただけで、このテーマがフランスではまだタブーであることに気づかされる。夕方、誰よりも早く帰ることで、上司からの評価が上がることにはめったにない。管理職は往々にして、職場にいる時間が長いほど仕事をしていると考えがちだ。

しかし、一般社員、管理職、自由業を問わず、できるだけ早く仕事を切り上げて家族や友人と過ごす時間を取りたい、またしかるべき休息時間を確保したいと思う人なら誰であれ、仕事の効率を上げる必要がある。そこで、「生産的」ということがいま何を意味するのかという、定義の問題が生じる。

各人がこなす仕事の量と質を評価する時に、労働時間はいまなお信頼に値する指標といえるのだろうか? 現代の労働者と時間との複雑な関係を解剖した『Le Silence des cadres, enquête sur un malaise(管理職の沈黙:危機感に関する調査)』(ヴュイベール出版)の著者である、社会学者のドニ・モヌーズに意見を聞いた。

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――労働時間は以前に比べて増えていますか?

「以前」が何を指すかによります。この1世紀に限れば、労働時間は 減少傾向にあります。最近では、1日の労働時間の規定が一切ない雇用形態もあります。これはある意味、諸刃の剣です。これによって、たとえば管理職は以前に比べて労働時間が長くなっています。

多くの労働者に言えることですが、勤務時間は短くなっていますが、仕事はきつくなっています。以前より生産性が求められるようになっているためです。働いている時間が短くなっても、仕事量自体は増えているわけです。その結果、時間に追われて仕事をする傾向が強くなっています。現在はどんな職種であれ、多様な能力が求められます。人員削減があった時は、残った社員は退職者の分まで働かなければなりません。

――休憩時間は時間の損失でしょうか、それとも効率的に仕事をするために必要なものでしょうか。

仕事の質を維持するためには、1時間に少なくとも5分間休憩を取ることが望ましいとされています。人の集中力には限りがあります。昼休みに関しては、フランスではゆっくりと昼食を摂る文化がありますが、さっさと食事を終わらせて、その分できるだけ早く帰宅するほうがいいと考えられている国もあります。

10分間の昼寝は最強の強壮剤ですが、オープンスペースの職場では難しいですね。同僚たちに、これから寝るとはなかなか言いづらいですよ! 勤務時間中の休憩を巡る状況はずいぶん改善されてきています。フランスの大企業では徐々に認識が変わりつつあります。

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――効率的に働いて、遅くまで職場に残ることを避けるために、仕事の後に予定を入れておくという人もいます。

より多くの自由を得るためにあらかじめ自己を拘束するという、オデュッセウスの戦略ですね。セイレーンの誘惑に屈しないために、自分をマストに縛り付けるよう船員たちに命じたという神話の人物に倣った発想です。

この戦略は、子どもを迎えに行ったり、ベビーシッターを帰さないといけない女性たちにとっては、おなじみのものです。こうした拘束があるために、実に効率的に働いている女性たちもいます。残念なことに、彼女たちは同僚と同じくらい、しかも倍の速さで働いているにもかかわらず、必ずしも上司がそのことに気づくとは限りません。管理職側も、遅くまで働いている人に重要なポストを任せる傾向があります。

多くの職場に言えることですが、パフォーマンスというのは評価するのがとても難しい要素です。ですが、オフィスにいる時間によって決まるものではありません。たとえば芸術性が必要な職種の場合を考えてみて下さい。労働時間というのはひとつの要素にすぎないのです。

――やるべきことを終わらせるために、どうやって優先順位をつけたらいいでしょうか?

アイゼンハワー・マトリクスという手法があります。聞いたことがあるとい人も多いと思いますが、内容はあまりきちんと知られていません。緊急かつ重要な仕事と、重要度の高くない、あるいはいますぐしなくてもいい仕事とを区別するのが、このマトリクスの主眼です。ToDoリストを有効に活用している人は、業務によって対応の仕方を変えています。1日のうちで最も活力のある、もっとも集中できる時間帯に、最も重要な業務を行うようにスケジュールを組むというやり方は、賢いToDoリストといえるでしょう。

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――頻繁にメールボックスを確認するのは、時間のロス?

受け取るメールの量が多い、それにすぐ返事をしないといけない、そのように嘆く労働者はたくさんいます。一日中メールをチェックしていると、そのことに多くの時間が取られてしまいます。逆に、メールチェックは1日に2~3回にし、落ち着いて返信を書くために時間を取るようにすれば、メールを処理する効率が格段に上がるはずです。

――メールのせいで、絶えず仕事が中断されてしまうわけですね……。

その通りです。仕事をしている最中に突然メールボックスを開くと、別の案件に頭を切り替えたり、「この件、どこまで進んでいたかしら?」と進捗状況を思い出さなければなりません。そうしたことに、自分で気づいていなくとも多くのエネルギーを使っているものです。

同僚と協力してうまくやっている社員もたくさんいます。この日の午後は忙しいからメールへの返事や依頼への対応はできないと事前に伝えておく、といったことです。これは当然ですね。実に正しいやり方だと思います。

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――テレワーク(場所や時間に囚われない柔軟な働き方)は、自分の時間を自分で管理する新しい方法といえますか?

テレワークには、強制的テレワーク(職場を出た後にメールの返信を書くなど)や、契約上のテレワーク(たとえば週に2日、オフィスに出社しない)といった、複数のタイプがあります。また、テレワークが不可能な職種もありますから、どうしても不公平感が生じてしまいます。電車の運転手は、いまのところ、遠隔で業務を遂行することはできません。また、従業員がオフィスに来ていない時には働いていないのではというマネージャー側の心配も、テレワークが広まらない要因のひとつです。

小さなアパルトマンで、子どもが家の中で遊んでいるような状況では、なかなか仕事に集中できません。新しい働き方もいろいろありますが、それぞれそれなりの制約があります。個人事業主は、勤務時間が自由のように見えますが、実際は、顧客の都合に合わせる必要があります。時間が合わなければ、顧客は別の企業を探しに行ってしまうでしょう。

――キャリアに支障をきたすことなく、早く帰宅したいとはっきり上司に相談することは可能でしょうか。

上司と透明性の高い関係を築くことにはプラスの意味があります。「火曜日は早く帰宅しなければなりません。その代わり木曜日は、1時間残業するか、朝1時間早く出社するようにします」というように、上司に相談してみましょう。子どもの面倒を元パートナーと交互に見ている親であれば、こう言ってみるのはどうでしょう。「2週間に1週間は、会議に出席できません。ですが、子どもが家にいない週は、もっと仕事に集中します」

こうした調整については、事前に余裕を持って周囲に伝えておくのが好ましいです。同僚たちと良好な関係を保ちながら働くためには大切なことです。

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現代の労働者は、効率よく働くことが求められている。photo:iStock

早く退社するために心がけたいこと。

1.休憩を取る。

ほとんどの女性が、早く帰宅するために1日の労働時間を「圧縮」して、パソコン画面を見ながら昼食を摂っている。だが、これは勘違い。むしろ効果的に時間を使うためには、息抜きする術を身に付けなければならない。1時間毎に5分の休憩を取るのが望ましいとされているが、それが難しい場合は、午後少し長めの休憩を取るようにしよう。その時に携帯電話をチェックしないこと! フェイスブックもインスタグラムも忘れなさい。そうしてエネルギーをしっかり充電して仕事に戻ろう。

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2.上司と雑談する時間を作る。

早く退社すると、上司と気軽な会話をする機会がなくなる(歓談が始まるのは往々にして19時以降)。こうした場で、上司とまた別のつながりができることもあるし、昇給や昇進などの話題が出ることもある。このマイナスをカバーするために、昼食や朝のコーヒーに上司を誘ってみよう。上司とより人間的な関係を築くことができれば、あなたの声を聞いてもらうことにもつながるだろう。

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3.頻繁なメールチェックをやめる。

メールはどこまでも追いかけてくる。それも一日中だ。パソコン画面下の受信通知が目に入ると、ついメールを開きたくなったり、すぐに返事をかかなければいけないような気がしてくる。もちろん、緊急のメールを後回しにしろというのではない。ただ、集中力が散漫になるようなことがあってはならない。メールを開くのは1日に2~3回にして、落ち着いてメールを読むようにしよう。

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4.テレワークをする。

上司の許可が得られれば、テレワークは自主性をもって仕事ができる素晴らしい働き方だ。だからといって、夜11時にメールに返信しようと言っているのではない。日中の仕事をオフィス外ですることにテレワークの意義がある。早朝から仕事を始め、休憩を取って子どもを迎えに行くこともできる。つまり、自分の裁量で1日のスケジュールを組み立てることができるようになる。

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5.早めに退社させてほしいとはっきり言う。

上司は(当然ながら)必ずしも部下一人ひとりの事情をわかっているわけではない。あなたから率直に、上司に自分のライフスタイルに合うよう勤務時間の調整を求めれば、多くの場合、理解を示してくれるはずだ。学校に子どもを迎えに行くという理由で会議を欠席する時は、翌日1時間長く勤務するなど、埋め合わせをするといい。少なくとも、事前にきちんと上司の了解を得て、全員に理解が行き渡っていることが大事だ。

texte:Maïlys Khider (madame.lefigaro.fr)

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