ハリウッドで注目される、XXLサイズのヒロインたち。

Culture 2019.04.14

これまで映画でもテレビシリーズでも肩身の狭い思いをしてきた過体重の女優たちが、ようやく表舞台に立つ時が来た。ハリウッドで最も人を呼べる豊満体型の女優、メリッサ・マッカーシーの『ある女流作家の罪と罰』でアカデミー賞にノミネートされたのが勝利の象徴だ。

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 XXLサイズの女優、48歳のメリッサ・マッカーシーは今年のアカデミー賞主演女優賞にノミネートされ、フォーブズの世界で最も稼ぐ著名人トップ10にランクインしている。

キャットウーマン、ワンダーウーマン、スーパーガール、Sサイズのスーパーヒロインたちがたじたじとなるような新しいライバルがスクリーンに登場する。その名は「Faith(フェイス)」。スーパーパワーはもちろんのこと、プラスサイズの身体で溌剌と活躍する姿が印象的だ。つまり、ありのままの自分を受け入れたXXLサイズのヒロインなのだ。原作コミックスの人気が高まる中、大手映画会社ソニーはこの漫画のキャラクターをヒロインにした長編映画の製作を決定した。

「コミックは実験場。たとえば、アフリカ系のキャラクターをヒーローにした『ブラックパンサー』のように、ダイバーシティのために多くの努力をしています。『フェイス』の場合も、ヒロインの設定に体重が問題になることは一度もありませんでした」と、著者のひとりであるフランス出身のイラストレーター、マルグリット・ソヴァージュは言う。「進歩主義的な動きに参加できるのは幸運です。フランスでブランドのためにイラストを描いていた時は、ちょっと異質な容姿の人物を提案しては却下されていました。最後はいつも、バービー体型のにっこり笑ったブロンド女性の絵が選ばれるのがお決まりでしたから」

世界人口の30%近くが過体重または肥満であるという。アメリカでは、成人の40%に当たる9300万人が肥満とされる。ならばどうして、太っている人を広告やスクリーンから締め出して、この大きなマーケットを諦めるのだろう? 

「"太っている”という言葉が悪口になってしまったからです。この言葉は人を罵る時に頻繁に使われます。けれども“太っている”は、小柄、赤毛、筋肉質などと同様に、身体的な特徴を表現する言葉にすぎません」と、肥満・過体重について考える会(GROS)副会長のシルヴィ・べンクムンは言う。「この言葉を適確な意味に戻さなければいけません。批判性を伴わない一般的な形容詞として使い、この言葉にまとわりつく否定的なイメージを取り払う必要があります」

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カリカチュアからの脱却

フィクションの世界ではこれまでずっと、太った人物を風刺的に描く傾向があった。嘲笑の対象にされ、道化として描かれ(『ナッティ・プロフェッサー2 クランプ家の面々』のエディ・マーフィ、「アステリックス」シリーズのオベリックス役、ジェラール・ドパルデュー)、つらい状況に置かれてきた。オーストラリア人女優レベル・ウィルソンが映画『ピッチ・パーフェクト』で果敢に挑んでいるのは、ファット・エイミーという滑稽な役どころだ。

一方、『アイ・フィール・プリティ! 人生最高のハプニング』のエイミー・シューマーが太っている自分を受け入れるためは、頭に怪我を負わなくてはならない。『プレシャス』では、ガボレイ・シディベ扮する主人公の肥満が、貧しさと虐待の反映として捉えられている。シャルロット・ドゥ・チュルケム監督の『Mince Alors!』は、ダイエット治療をネタにしたコメディだ。

「映画で描かれる太った女性には、愉快な独り身の女友達、苦しみを食べることで解消する不幸な女性、仲間外れにされて必死に痩せようとするおデブさん、という3つのタイプがあります」と、肥満の人を支援する市民団体「アレグロ・フォルティッシモ」副会長のパルカス・シャンパーニュは分析する。ビッグサイズの女優にとって、このカテゴリー以外の役を見つけるのは至難の技。主役となると、ほぼ不可能といっていい。

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オーストラリア人女優レベル・ウィルソン。名前からしていかにも因習を打破してくれそうだ。ブランド「レベルウィルソンxエンジェルズ」のミューズでもある。

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規格化された美を見直そうというYouTubeのチャンネル「Coucou les girls」の顔として知られるジュリエット・カッツが、ガブリエル・デディエ著『On ne naît pas grosse(人はデブに生まれるのではない)』を原作とする映画『Biggie, la faim de vivre(ビジー、生への渇望)』の主演に抜擢された。

「ラッキーなことに、映画は体型というテーマに賢明なアプローチをしています。私が演じる主人公は、自分の身体が世間に異物として映っていることを知り、他人の基準に合わせて体重を落とすのではなく、差別に対して立ち上がることにします。実際は、日常のプレッシャーを考えると、そう簡単なことではありませんが。最終的に過酷なダイエットを行った俳優や歌手はたくさんいます。彼らを批判するわけではありません。太った人の存在を軽視する製作の現場で、怠け者、愚か者、道化、鬱、あるいはのけ者として描かれる人物の役ばかり演じるのはつらいことです」

フィクションの世界のさまざまな偏見は、日常的に被る屈辱の延長にある。それが肉体という枷から逃れることを一段と難しくしているのだ。さらにひどいのは、痩せることがストーリーの要となっている場合が多いこと。登場人物は、減量することで標準に達することができ、成功や愛、ファッション性や昇進を手に入れる。「こうした類の話を広めることは、少女たちに自分の価値は容姿で決まると言うのと同じことです。これでは、痩せ型を理想とする考え方や性差別的紋切り型はなくなりません」と前述のシルヴィ・べンクムンは言う。

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インディペンデント映画『プレシャス』でクロトゥルーディス賞主演女優賞を受賞したガボレイ・シディベ。テレビドラマ「Empire 成功の代償」ではセクシーな役柄に挑む。

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フィクションの役柄にも多様性を!

アメリカではこうした多様性を肯定する動きが広まりつつある。その成功のシンボルがメリッサ・マッカーシーだ。XXLサイズの48歳の大人気コメディ女優は、『ある女流作家の罪と罰』でステレオタイプではないシリアスな役どころを演じて今年のアカデミー賞主演女優賞にノミネートされ、『フォーブズ』誌が発表する世界で最も稼ぐ著名人トップ10に、スカーレット・ヨハンソン、ジェニファー・アニストン、アンジェリーナ・ジョリーらと並んでランクインしている。

しかし、#MeToo運動がさまざまな差異の再評価に貢献したとはいえ、メリッサ・マッカーシーだけに注目していては、木を見て森を見ずだ。XXLサイズやそれより大きなサイズの女性が、権力や知性、あるいは行動力のある女性の役柄で映画に出てくるのは依然としてまれだ。一方、俳優側や市民団体・活動家グループは、まさにそのことを要求している。映画の役も、社会で生きる人と同じように多様であるべき、容姿が脚本を構成する要素になるべきではないというのが彼らの主張だ。特に女性たちとっては。

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テレビドラマ「ダイエットランド」でプラム・ケトル役を演じるジョイ・ナッシュ。

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「性別に関わらず、肥満の人が差別を受けているのは残念ながら事実。肥満外科手術を受けた人の82%が女性で、社会的圧力の重さを如実に物語っています」。そう話すのは、活動家のクリスタルだ。彼女はダリア・マルクスとエヴァ・ペレズ=ベロによって創始された、肥満に対する偏見をなくすために活動する政治グループ「GRASポリティック」に参加している。「また、太っている男性が就職活動で差別される確率は標準体型の人の3倍と言われますが、女性の場合は8倍です。彼女たちは人をモノとして扱うモノ化の犠牲者です」

これはフィクション業界にも当てはまる話だ。太めの俳優ジャック・ブラックがロマンティック・コメディの主役を演じたり、映画『ホリディ』でケイト・ウィンスレッドのハートを掴むことはあっても、ガボレイ・シディベがテレビドラマ「Empire 成功の代償」でスリムな若い男を誘惑すると、ソーシャルネットワークでバッシングされる。

「前向きに考えましょう。脚本というレベルでは改善すべきことはまだありますが、これまで見慣れてきた性格パターンに収まらない役柄も現れ始めています」と続けるクリスタルは、アメリカのテレビドラマ「ダイエットランド」「私はラブ・リーガル」「THIS IS US 36歳、これから」などを例に挙げる。「『THIS IS US 36歳、これから』では、体重はクリッシー・メッツ演じるケイトにとって問題ですが、この身体的特徴だけがストーリーの軸ではありません。それだけでも進歩。ドラマ自体にはまだまだ改善点はありますけれど……」

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XSサイズのヒロインたちがトレンドだった時代に、テレビドラマ「GIRLS/ガールズ」の監督で主演女優でもあるレナ・ダナムは丸みのある身体で堂々とカメラの前に立ち、体当たりの演技を披露した。

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肥満についての情報が不足している

「THIS IS US 36歳、これから」は、ケイトの夫トビーを演じるクリス・サリヴァンが“ファット・スーツ”を着ていたことが槍玉に上がっていある。これまで、グウィネス・パルトロウ(『愛しのローズマリー』)、ジョン・トラボルタ(『ヘアスプレー』)、コートニー・コックス(テレビドラマ「フレンズ」)も着用したこの特殊なコスチュームには、有色人種の俳優にしばしば施される“ホワイトウォッシング”に通じるところがある。「つまり身体も衣装のひとつという考えを認めることです」と、GRASポリティックの活動家クリスタルは言う。「太った人の役に痩せた俳優を起用するのは、可視性を高めることとまったく逆。これも肥満嫌悪(fatphobia)の一種なのです」

「肥満嫌悪」という言葉は2018年に初めて辞書に登場し、過体重の人が糾弾の対象になっている事実を公のものにした。「肥満嫌悪が、太っている人が幸せに生きることを妨害する行為としてようやく認められたのです」とシルヴィ・バンクムンは説明する。「多くの人は日常的に侮辱を受けるのがどういうことか、考えていません。バランスのいい食事を摂り、適度な運動をすれば、誰もが標準的な体重を手に入れられると思い込んでいるからでしょう。肥満についての情報が根本的に欠けていて、健康と痩せることが混同されているのです」

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『アイ・フィール・プリティ! 人生最高のハプニング』のエイミー・シューマーは、太っている自分を受け入れるために、頭に怪我を負わなければならない。

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近年盛り上がりを見せている、さまざまな体型を肯定することを目指した#body positivityについてはどうだろう。「残念ながらこの運動はファット・アクセプタンス運動から言葉だけ借りたものにすぎません。どんな身体も美しいと主張することが本来の意図でした。ところが、極端に痩せているわけではないけれど決して太っていない、しかし、大きい方がいいと思われる胸やお尻は肉付きがいい、という体型のインスタグラマーたちがこの運動を広めたことで、メッセージの意味が変わってしまいました。過体重の女性の中には、二重あごだったり、ウエストがくびれていない人だっているのですが……」

SNS、メディア、広告で取り上げられるうちに意味が歪められた#body positivity運動に代わり、最近では自分の身体を好きになることや、人に見せることが最終目的ではなく、ありのままの肉体をただ受け入れようと訴えるボディ・ニュートラリティという動きが生まれている。この運動が、エンターテインメント業界内で男女格差をなくすための闘いや、ダイバーシティを認めるための闘いと並んで展開されている。フィクションが多様な顔を持った社会を反映するものとなり、あらゆる人が同一視できる人物像を提供するようになるためだ。

「映画で過体重の人が否定的に描かれることは、不安材料になる可能性もあります。摂食障害の原因となったり、いやがらせを助長することにもなりかねません」とクリスタルは言う。「こうした人を正当に評価することは、これまでほとんど目を向けられることのなかった才能や、不当な評価を受けてきた才能の価値を認めることにほかなりません。彼らが社会にとっての新しい財産となれば、みんなが得をすると思います」

text : Marilyne Letertre (madame.lefigaro.fr)

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