求む、専門分野の技能! フランスのベビーシッター事情。
Culture 2020.01.27
親に代わって乳幼児の保育を行うベビーシッターやナニー(教育を含む保育を継続的に行う)。フランスの一部の層ではいま、放課後学習の指導もできる人材が求められているという。ベビーシッティングの現状を紹介する。
親がベビーシッターやナニーに求める能力は、ますます高くなっているようだ。photo : iStock
「子どもふたりの面倒を見る、イタリア語を話せるベビーシッターを募集」「モンテッソーリ教育法に通じている人を募集」――。数あるべビーシッター・マッチングサイトに、新しいタイプの告知が出現し始めた。子どもと一緒に良質のアニメを見たり、タブレットでゲームでもしながら面倒を見てくれる若い人がいれば……などと考えているあなたは完全に時代遅れだ。
いまどきの親は、学校が終わってから自分たちが仕事から帰るまでの時間を、子どもの学習時間として有効活用しようと考えている。英語、ロシア語、北京語(とても人気)など、外国語のできるシッターや、数学やプログラミング言語、ピアノのおけいこも大歓迎。もしアニメを見る場合は、「ディズニー映画のオリジナル言語版オンリーでお願い!」というわけ。
こうした要望を寄せているのは現在のところ、職業的アッパークラスにあたる企業幹部や専門職、あるいは大学教授や医者といった一部の富裕層に限られている。そして次第に増えつつあるニーズに応えるために生まれたのが、「Le Smartsitting(ル・スマートシッティング)」。「何らかの特技のある」ベビーシッターを探す親を対象としたサービスを提供する、2016年創業のスタートアップ企業だ。
音楽、英語、演劇、デッサン、歌、美術鑑賞といった、家族の要望に最も適したシッターを紹介するマッチングサイトを立ち上げたのは、パリ政治学院で学ぶ現役学生3人。「親は子どもの将来をきちんと準備してやりたいと考えています」と、共同創始者のひとりであるマクシム・ギュエは語る。「放課後の時間を、子どもが外国語や楽器を学ぶ時間として活用したいと願っているのです」。子どもの情操教育のためにも、専門分野の技能を持つ「スマートシッター」が学校帰りの子どもの面倒を見てくれるのは心強い。料金は1時間25ユーロだ。
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モンテッソーリ教育を自宅で。
それだけでない。「スマートシッター」として採用されたシッターは全員、モンテッソーリ教育法の訓練を受けており、子どもの面倒を見る時にはその教育法を活用するよう指導されている。「嫌がる子どもに無理やり勉強させることがないよう、私たちはポジティブ教育を奨励しています」とギュエは続ける。「子どもの成長をサポートするのが私たちの使命です。5歳の子どもでも本人が本を読みたいと望めば、そのための学習に取り組みます」。
スマートシッターたちが何よりも重視しているのは、生徒と指導者の間の信頼関係だ。「子どもに向かって『目指すはハーバード大学だ』と言うことではなく、子どものリズムに合わせて、新しいことを学習するための手ほどきをするのが私たちの目的です」とギュエは付け加える。「学校と競争するのではありません。遅くまで働く親ができないアクティビティを、子どもと一緒に行うのが私たちの役目です」
親とベビーシッターのマッチングアプリ「Baby-Sittor」を2013年に立ち上げたポーリーヌ・モンテッソンも、こうした特殊な要望を持つ親が増えていると言う。「多数派ではないにせよ、バイリンガルのベビーシッターへの依頼は増加しつつあります。特に新学期にはその傾向が強まります」
次世代ベビーシッティングのパイオニアは、シッター応募者が資格、特殊技能、外国語能力を書き込めるように、現在アプリの改良を検討中だ。「子どもの世話をしてくれる人を探すのに、インターネットサービスを利用する親は増えています。ですから私たちも、さらに競争力を高めていかなければなりません」
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無駄な時間を過ごさない。
こうした傾向は私立幼稚園にも見られ、近年、課外プログラムを重視するところが増えている。ローラン・ラヴォレ=ポーターが校長を務める名門幼稚園、パリ・モンテッソーリ・バイリンガル学校では、2〜10歳の200人近い生徒たちが、フランス語と英語のバイリンガル教師による授業を受けている。「親は子どもにさまざまな能力を身につけさせたいと考えるものですが、その要望はますます強くなっています。本校では、授業はすべて英語で行なっています」と校長は言う。
同校は6年前から、課外活動や夏季休暇中の研修にも力を入れている。チェス、プログラミング言語、スポーツ、演劇など(やはり指導は英語)充実したプログラムが揃っている。「本校に託児所はありません。時間を無駄に過ごすという考えは、私たちの教育方針とは相容れないものです」。
この言葉にショックを受ける人もいるかもしれない。子どもの健全な成長のためには、遊んだり何にもしない時間が大切なのだと考える人は特に。「それはむしろ反対。幼い頃にさまざまなことを学ぶ機会を与えられた方が、学習のスピードも速く、学ぶ楽しさを知ることで精神的にも成長します。私たちが目指すのはまさにそれなのです」と、前述のラヴォレ=ポーター校長は反論する。
パリ・モンテッソーリ・バイリンガル学校には毎年、同校に子どもを入学させたいという親から何百通もの願書が届く。「入学年齢に達する1年半前、つまり子どもが生まれてほぼすぐに願書を提出する応募者もいます」と校長は言う。子どもはまだ入学年齢に満たないが、モンテッソーリ・メソッドを家で実践したいという家族向けに、学校では出張相談も行っている。
精神的な負担?
スマートシッティングの創始者によると、ベビーシッティング市場は大きな転換点を迎えているという。いわゆる親の精神的負担を軽くするために、細かい現実的な要求に応えることが求められている。「仕事で遅くなる時、子どもを家でひとりにしておくことに罪悪感を覚える親はたくさんいます」と前述のギュエは説明する。「時短勤務の申請や早退も、なかなか簡単ではありませんから」
次世代ベビーシッター&次世代ナニーは、働く親たちを燃え尽き症候群から救う解決策になるのだろうか? くれぐれも、今度は子どもが教育のオーバードーズで倒れてしまわないように祈るばかりだ。
texte:Lisa Hanoun (madame.lefigaro.fr)