わかるわかる!『ほっといて欲しいけど、ひとりはいや。』

Culture 2020.12.28

From Newsweek Japan

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写真:本人提供

<コロナ禍で人間関係に悩む人が増えているが、韓国のベストセラーエッセイ『ほっといて欲しいけど、ひとりはいや。』の著者、ダンシングスネイルは「ただ大人になるだけでも立派」と話す。人との距離感をどう取ればいいか、この息苦しい時代にどう生きていくべきか>

新型コロナウイルスの感染拡大によるライフスタイルの変化で、人間関係のストレスを感じる人が世界中で増えている。

外出自粛、テレワークが推奨されている今、職場や家族、友人や恋人とのコミュニケーションをどう取ったらよいか分からないという声も多い。

そんな悩みを抱える人たちのヒントになるかもしれない書籍が『ほっといて欲しいけど、ひとりはいや。』(生田美保訳、CCCメディアハウス)だ。

「人間関係エネルギーが底をついた人」に向けて書かれたこの本は韓国で、発売2カ月で10刷と瞬く間にベストセラーになった。

著者は『死にたいけどトッポッキは食べたい』(ペク・セヒ著、山口ミル訳、光文社)ほか、多くのベストセラー書籍の表紙や挿絵を手掛ける人気のイラストレーター、ダンシングスネイル。

無気力感や不安感と折り合いをつけながら、うまく生きていくための心のあり方を紹介した前作『怠けてるのではなく、充電中です。』(生田美保訳、CCCメディアハウス)は多くの読者の共感を集め、日本でも8万部を超え売れ続けている。

人との距離感がテーマの今作について、人間関係のあり方やウィズ・コロナの時代、私たちはどう生きるべきかを著者に聞いた。

――前作と今作の違い、ダンシングスネイルさん自身の書いているときのマインドの変化について教えてください。

前作と今作の素材となったアイデアは、いずれも似たような時期に書いた日記がその始まりです。

でも、本格的な執筆作業をした時期には隔たりがあって、最初の本を書いていた当時は、無気力症から脱して、普通の生活に近づこうとしていた時だったので、私だけの特殊な感情に意識を向けて書きました。

だから、極度に内向的な性格だったり、無気力とうつに悩まされている読者の方たちの共感を得やすかったと思います。

それから1年後に今回の本を書き始めた時は、うつを少しずつ克服していく中で心が少し楽になり、視野も広くなっていました。

それで、自分だけでなく周囲の話にも関心を持って、素材として使うことができました。結果的により普遍的な心を扱った話を書くことができたと思います。

――ダンシングスネイルさんにとって「大人」とはなんでしょうか。

この本に「オトナになるっていうのは他人の立体的な姿を発見して受け入れていくこと。」(86ページ)という文章があります。もっと正確に言えば、それが「よい大人」の目指すべき姿だと思います。

「私も正しいし、あなたも正しい。だから共に歩んでいける方法を模索してみよう」。こんなふうに他人を理解する幅を広げていけたら、一番いいですね。

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『ほっといて欲しいけど、ひとりはいや。』86ページより

でも、私たちは「よい」大人にまでなる必要があるでしょうか。ただ大人になるだけでも立派です。そんな脈絡から「大人とはなにか」と聞かれたら、自分の選択に責任を持てる人だと思います。

ほとんどの人たちにとってはそれさえも易しいことではない、ということに、たぶん皆さん共感されるでしょう。

韓国では「自分一人食わせていくのも手に余る」という言葉で、大人として生きることの大変さを表現することがあります。

その大変なことをしている私たちみんな、立派な大人だと思います。

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――今作の中で一番気に入っているパートとその理由を教えてください。

「無条件に自分を抱きしめてあげられるのは自分自身だけかもしれない。」(144ページ)というくだりを挙げたいです。

私は他人への依存度が高めな人間なので、生きていて大変なことがあるたびに、いつも他人のせいにしてきたように思います。どうして私をもっと理解してくれないの、どうしてもっと私の言うとおりにしてくれないの、と責めたり恨んだりする対象を探しました。

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『ほっといて欲しいけど、ひとりはいや。』144ページより

でも、その過程で、私自身より私のことをよく理解してくれと他人に強要することは、まわりの人たちを苦しめるし、自分も苦しいだけだと感じることが多かったんです。

それで、自分自身と世の中への理解を深めるための努力を続けてきたところ、その記録がたまって本も書けるようになりました。

今回の本は「関係」についての話ですが、すべての人間関係は結局「自分」から始まるんですよね。 だから「自分がまず自分を抱きしめてあげなくてはいけない」というメッセージがこの本の核心ではないかと思います。

――今作はどんな方に読んでほしいでしょうか。

私が20代後半から30代前半にかけて感じたことの話なので、その年代の方たちに読んでもらえれば一番役に立つだろうと思っていました。でも、韓国の読者たちの評価を見ると、意外と30代半ばから40代半ばの方たちもたくさん共感してくれています。

どちらの時期も、就職や転職、結婚後の家族の広がり、出産と育児などを通して関係の断絶または変化を経験する時期です。

人間関係の変化が多い時期のせいか、同じエピソードでも各自の状況に当てはめて読むことで、慰められているようです。

日本と韓国は家族文化、社内文化などに似たようなところが多いので、人間関係に難しさや疲労感を感じている人なら誰でもこの本が助けになると思います。

――コロナ以降の息苦しい時代、私たちはどう生きていくべきでしょうか。

そうですね。最も難しい質問ですね。同じ時代を生きていますが、それぞれが置かれた状況によって厳しさが異なるでしょうから。

今はまだ私も方法を模索している段階です。これという答えを出すのは難しいですが、それでもひとつ提案してみるなら、コロナ以降「変化するもの」に焦点を当ててみることが取っ掛かりになるかと思います。

コロナの長期化により、息苦しさを超えて、経済だとか雇用だとか現実的な心配事が増えました。多くの分野で急速に非対面への転換が起こっていることで、私たちの生活にも密接に関わる変化が加速化しています。

そうなればなるほど、息苦しさから救ってくれるのも、日常を取り戻せるようにするのも「人間性」だと思います。

オンライン会議を可能にするのは技術ですが、究極的な目的は、顔を合わせてお互いの目を見ながら話すためですよね。

機械にはできないけれど、人間だけが自発的にできることがあります。疲れたときにちょっと休んで、自分自身を振り返り、補って、さらに前に進んでいくことです。そして、そのタイミングがいつなのかに気づけるのも人間だけです。

これまでやってきたことがコロナによってストップしたのなら、この機会に、ちょっと休みながら次の変化を模索する力を貯めることができるでしょう。

あきらめから来る休みではなく、積極的で能動的な休みになったらな、と思います。

――日本の読者に一言、メッセージをお願いします。

まずはお礼を言いたいです。初めて本を書き始めたときは、海外の読者にまで私の本が届くとは思ってもみませんでした。私の本を読んで、意味を見出してくださったすべての方々に、ただただ感謝しています。

私は文章を書いて絵を描くことで生計を立てているので、本を作ることは、見方によっては極めて個人的なことかもしれません。

にもかかわらず、多くの方が本を読んで慰められたというメッセージをくださったので、そうやって頂いた心をこれからも世の中にお返しし、貢献しながら生きていかなくてはと思います。

なにより最近は生存と健康を脅かされる時代ですから。免疫力が低下すると、コロナウイルスにも感染しやすくなります。体と心の健康はつながっているじゃないですか。

私の役目は、皆さんの心の健康に少しでも役立つ作品を作ることだと考えています。私もいつも気をつけながら、創作活動を続けていきます。

みなさんもそれぞれ自分の場所で、どうか安全に、元気でいてください。

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traduction : 生田美保

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