立田敦子のカンヌ映画祭レポート2022 #06 カンヌ大歓迎! 是枝裕和監督『ベイビー・ブローカー』

Culture 2022.05.28

映画祭最終日を明日に控えて、コンペ作品の上映もあと2本になりました。

終盤の注目作である是枝裕和監督の『ベイビー・ブローカー』も昨夜、無事に公式上映を迎え、予想通り大歓迎を受けていました。是枝監督は、上映後のスタンディングオベーションに応えて、「こんなにたくさんの拍手で迎えていただき、ありがとうございました。コロナの中、すごくチャレンジングなチームだったと思うけれど、一体感のある現場で、スタッフ、キャストが一丸となって作り出した映画が、ここでみなさんに届けられたことをうれしく思っています」と挨拶。

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レッドカーペットにて、是枝裕和監督と出演者たち。©Getty Images

2001年に『DIATANCEディスタンス』以来、カンヌ映画祭への参加は8度目(うち6回はコンペティション部門)。すっかりカンヌの常連となった是枝監督ですが、2018年に『万引き家族』でパルムドール賞(最高賞)を受賞したことによって、ヨーロッパのシネフィルだけではなく、世界中でグンと知名度が上がっています。

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左は是枝監督、右は主演のソン・ガンホ。©Getty Images

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2018年にでパルムドール賞も受賞し、カンヌ常連の是枝監督。©Getty Images

『ベイビー・ブローカー』は、カトリーヌ・ドヌーヴを主演に迎えてフランスで撮った日仏合作の『真実』(19年)に続き、韓国で撮った野心作です。“赤ちゃんポスト”に預けられた子どもを闇で養子縁組させているふたりの男(ソン・ガンホ、カン・ドンウォン)と、一度は子どもを預けた若い母親(イ・ジウン)、そして彼らを追う刑事たち(ペ・ドゥナ、イ・ジュヨン)。家族というテーマや社会問題に対する真摯な視点、トラウマや問題を抱えた登場人物たちに対する優しいまなざしなど、是枝監督の作品に共通する要素は健在ながら、サスペンスフルな異色のロードムービーになっています。

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是枝監督『ベイビーブローカー』

日本を代表する監督の作品ながら、全編韓国語なのでカンヌでも英語字幕で鑑賞するという珍しい体験となりました。本作は、カンヌでパルムドール、米国でアカデミー賞作品賞を受賞したポン・ジュノ監督の『パラサイト 半地下の家族』(19年)の製作会社である韓国のCJエンターテイメントが製作する“韓国映画”。北米配給権は、やはり『パラサイト 半地下の家族』と同じNEONが獲得しているので、「アカデミー賞韓国代表になるのだろうか?」との気の早い噂も耳にします。

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是枝監督『ベイビーブローカー』

さて明日に発表を控えて、これまでのコンペをおさらいすると、現地ジャーナリストの間で評判がいいのはアメリカのジェームズ・グレイ監督『Armagedon Time』、韓国のパク・チャヌク監督『Decision to Leave』、ルーカス・ドン監督『Close』と是枝監督『ベイビー・ブローカー』。

個人的には、ほかに、賛否両論あるリューベン・オストルンド監督『Triangle of Sadnesss』、ポーランドのイエジー・スコリモフスキー監督がロベール・ブレッソンの名作『バルタザールどこへ行く』(1970年)をリメイクした『EO』、イランのサイード・ルスタイの家族劇『Leila’s Brothers』、アリ・アバッシ監督の心理サスペンス『Holy Spider』をとても興味深く鑑賞しました。

とはいえ、昨年のパルムドール賞は、業界誌スクリーンの星取りで4点中1.7と振るわなかった『TITAN/チタン』が受賞しています(ちなみに、トップは濱口竜介監督『ドライブ・マイ・カー』で3.5でした)。フランスの名優ヴァンサン・ランドンが率いる審査員団の議論の行方を楽しみに待ちたいと思います。

映画ジャーナリスト 立田敦子
大学在学中に編集・ライターとして活動し、『フィガロジャポン』の他、『GQ JAPAN』『すばる』『キネマ旬報』など、さまざまなジャンルの媒体で活躍。セレブリティへのインタビュー取材も多く、その数は年間200人以上とか。カンヌ映画祭には毎年出席し、独自の視点でレポートを発信している。
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