世界の職人技が集結、ロエベ財団 クラフトプライズ2023
Culture 2023.06.20
ロエベ財団が主催する第6回クラフトプライズ2023がニューヨークで開催された。 オープニングセレモニーでは、建築家、デザイナー、批評家などからなる 10人の審査員が選んだ受賞作品が発表され、 日本人アーティスト稲崎栄利子が大賞を受賞。その様子をレポート!
ロエベ財団 クラフトプライズ2023 の会場は、1920 年代の工業用建物を再利用し、アーティスト自身の手で1985 年に開館したノグチ美術館。彫刻家として知られる日系アメリカ人イサム・ノグチが、晩年に制作に使っていたスタジオが展示会場として使用された(スタジオ部分は一般初公開)。©nkubota
今回で6回目となるロエベ財団 クラフトプライズは、古くから受け継がれてきたクラフトマンシップを見つめ直し、現代における工芸作品の芸術的な素晴らしさを称えて、未来への可能性を追求するために2016年にロエベ財団によって設立された。クリエイティブ ディレクターのジョナサン・アンダーソンが考案した同賞は、170年以上続く卓越した革工房の職人技という伝統を守り、進化し続けてきたロエベというブランドの神髄に呼応している。
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毎回開催国を変え、趣向を凝らした会場も話題となっているロエベ財団 クラフトプライズ展。23年度は、ニューヨーク州クイーンズ区にある彫刻家、イサム・ノグチの作品を展示するノグチ美術館で開催され、117カ国2700人の応募者の中から選ばれた30人のファイナリスト(うち6人は日本人アーティスト!)の作品が一堂に集まった。
ノグチが数々の名作を生み出すインスピレーション源となったコンクリートや木を使ったミニマルな空間。©nkubota
ファイナリストによる30点の作品は、約1カ月の間、一般公開された。©nkubota
「ジョナサンの情熱により始まった同賞は、回を重ねるごとに応募作品数も増え、レベルも上がり、工芸作品への注目も高まっています。ノグチ美術館の協力を得て、ノグチが生前使用していたスタジオを会場として利用できたことをうれしく思います」と語るのは、ロエベ財団を率いるシーラ・ロエベ。今回は、希代のアーティストが晩年を過ごしたスタジオが、ファイナリスト作品の展示会場として一般初公開されることでも話題になった。
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緑豊かな美術館の庭園で開催されたオープニングセレモニーのハイライトは、30人のファイナリストの作品の中から10人の審査員が選んだ受賞作品の発表。大賞作品に選ばれたのは、稲崎栄利子の『Metanoia』。何百もの小さなパーツを組み合わせて作られた陶磁器作品は、その圧倒的な存在感がプレビューに訪れたプレス関係者の間でも話題になっていた。
大賞に輝いたのは、制作に1年を要したという稲崎の『Metanoia』。丹念に作られた小さなパーツを集積した複雑な陶器の造形物は、見る人々に驚きを与える。©nkubota
左より、ジョナサン・アンダーソンと稲崎栄利子、そして特別プレゼンターとして登壇した作家でニューヨークのスタイルアイコンともいわれるフラン・レボウィッツ。
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「この作品は、私がいままで見てきたどの作品とも違います。つまり、技術と優れたアイデアによって、簡単には理解できないほど緻密で複雑、そして見事な作品に仕上がっています」と、アンダーソンは稲崎の作品を絶賛。また、特別賞には、渡辺萌の『Transfer Surface』が選ばれた。東北地方で集められたクルミの木の木肌を丹念に剥がして箱型を形成した作品で、生け花の花器を想起させる研ぎ澄まされたデザインに多くの票が集まった。もうひとつの特別賞は、無数の人間をかたどった木片を繋ぎ合わせた、ドミニク・ジンクぺの『The Watchers』
渡部萌は、東北地方に自生しているクルミやアケビの木の樹皮を使用した木工作品を主に制作している。自然素材を生かしながら、力強く現代的なコンセプトを表現していると評され特別賞に輝いた。
アフリカ、ベナン共和国をベースに活動するドミニク・ジンクぺによる双子の木製人形を組み合わせた作品は、故郷の伝統的な信仰彫刻を再解釈した力作として特別賞を受賞。
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審査員たちが2時間激論を交わしても結論が出なかったほど、最終選考に残った作品はどれも力作揃い。「今回のファイナリストの多くは、素材の特性を限界まで生かすことに挑戦していた」と、多くの審査員が感想を述べている。奇をてらったものではなく、地元に自生する木や草などのありふれた素材を技術で芸術の域に高める。伝統的な技術や素材を違った解釈で表現している意欲作の数々は、私たちが持つ「工芸品」という概念を遥かに超えるものばかり。
「世界中から応募作品が集まるロエベ財団 クラフトプライズを通して、さまざまな国の工芸に対する価値観を知るきっかけになります。残念ながら、継承されずに消えてゆく伝統工芸もありますが、このプライズを通して優れた作品やアーティストを称賛し、作品を一般公開することで、工芸作品そのものの価値を広く世の中の人々に理解してもらえると考えています。ロエベ財団としては、今後さらにクラフトマンシップに関する教育や研究にも力を入れていきたいと考えています」
幼い頃、コレクターでもあった祖父から工芸作品の薫陶を受けたアンダーソンの、クラフトプライズに込めた情熱は、とどまるところを知らない。
年々参加者が増え、注目度が高まっている「ロエベ財団 クラフトプライズ」は、来年度の応募作品を受付中(2023年6月20日~10月25日)。国内外で、プロフェッショナルとして活動するアルチザンであることと、応募時に18歳以上であれば、国籍問わず、個人でもグループでも応募可能。
https://craftprize.loewe.com/ja/craftprize2023
photography: LOEWE text: Junko Takaku