【立田敦子のカンヌ映画祭2024 #10】カンヌデビューを果たした奥山大史監督にインタビュー!

Culture 2024.06.13

今年のカンヌ国際映画祭のオフィシャルセレクションとして唯一選ばれた日本映画は、奥山大史監督の『ぼくのお日さま』だ。

雪の降る地方都市。アイスホッケーにいまひとつ身が入らない少年タクヤ(越山敬達)は、フィギュアスケートの練習をする少女さくら(中西希亜良)の姿に目を奪われる。タクヤの恋を応援しようとしたさくらのコーチである荒川(池松壮亮)は、ふたりにアイスダンスのペアを組むことを提案する......。

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フィギュアスケートの練習をするタクヤとさくら。©︎2024「ぼくのお日さま」製作委員会/COMME DES CINÉMAS

2018年、大学在学中に撮影した『僕はイエス様が嫌い』で、第66回サンセバスチャン国際映画祭の最優秀新人監督賞を史上最年少の22歳で受賞し、注目を浴びた奥山監督。6年ぶりとなる長編にして、商業映画デビュー作である『ぼくのお日さま』は、前作同様に監督だけなく、撮影・脚本・編集も監督自身が手がける。

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カンヌ国際映画祭の公式上映後、奥山大史監督をインタビュー。©︎Atsuko Tatsuta

――公式上映も、とても素晴らしい反応がありました。よい批評も出ていると聞いています。カンヌでのこのリアクションをどう受け止めていますか?

自分では追いきれていないのですが、セールスカンパニーのシャレードが批評をまとめた動画を作って送ってくれました。それを見ると、大袈裟だなと思うくらい、よいコメントを書いてくださっていました。カンヌに来ている海外のメディアは忖度などないと思うので、そういう意味でもうれしいですね。 

――作品の意味しているところ、作った意図などがちゃんと届いていると感じますか?

そうですね。そう思います。でも、昨日フランスのTVや新聞などのメディアの取材日だったのですが、日本の人には当然のように伝わることが伝わらない部分もあるのだということもあらためて気づきました。ちょっとした繊細な表現とか、危険な伝わり方をしてしまうこともある。でも、そういう危ない面も持ち合わせている映画だからこそ、何か人の心を動かすのだろうと信じたいですね。 

――日本人なら当然わかるようなニュアンスのあるというのは、どのあたりの部分ですか?

荒川先生とその恋人がベッドで話すシーンとか。日本語は主語がなくても会話が成立するじゃないですか。たとえば、「羨ましかったんだよね」っていうセリフも、"誰が誰に対して"って言わなくても、何の話をしているのか理解できる。でも、字幕にする場合はそれを明確する必要があり、明確にした途端に気になってくることが出てくることがあるということもひとつです。文化的な違いもありますよね。僕としては一般的な親子関係を描いたつもりでも、親子の関係が冷め切って見えると言われたり。

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公式上映後の中西希亜良、池松壮亮、越山敬達をキャッチ。中西希亜良のドレスはセリーヌ。©︎Momoko Suzuki

――『僕はイエス様が嫌い』から本作まで時間が少し空きましたが、商業デビュー作を撮るにあたって慎重になられたのでしょうか?

『僕はイエス様が嫌い』は卒業制作ですから、ぽっと出てきたアイデアで撮りました。映画館で公開されることも決まっていなかったし、映画祭にも"記念応募"という感じで、エントリーしました。「エントリーを受け取りました」というメールをスクショして大満足し、それでおしまいのはずだったんですよね。映画祭で賞をいただいたことで、「次回作は?」とよく聞かれるようになり、「この原作やってみませんか」とか、うれしいことにオファーもいただいた。でも、映画祭で出会った多くの方々に、「2作目がとても大事」と言われたんです。そうなると、やはりオリジナルの脚本で考えようと模索している内に時間が経ってしまいました。 

――奥山監督自身が子どもの頃に実際に習っていた経験から、フィギュアスケートというモチーフが出てきたそうですね。

小学校に入った頃から13歳まで、7年間やっていました。その経験については映画に取り入れたいと長い間考えていました。そろそろオリジナル作品を企画しなきゃと思っているうちに、コロナ禍が始まり、悶々として音楽を聴きながら掃除していたら、(ハンバート ハンバートの)「ぼくのお日さま」が流れてきて、その時の気分にめちゃめちゃハマった。僕の幼少期の体験が思い起こされたんです。この「ぼくのお日さま」の「僕」を主人公に映画撮りたいと強く思いました、それと、以前から考えていたフィギュアスケートの企画を合わせたものはどうだろうと思ったことで、企画がぐっと進みました。

――本作は、厳密には三角関係とは言えませんが、女性ひとりに男性ふたりという恋愛映画における、定番ともいえる人間関係の構図を採用していますが、これはどの程度意識したのですか? 

意識していました。橋口亮輔監督が大好きなんです。『渚のシンドバッド』やグザヴィエ・ドランの『胸騒ぎの恋人』には影響を受けていますね。

――「ある視点」部門の今年の審査員長はグザヴィエ・ドランですが、影響を受けた監督がこの作品を観て評価することはどんな気持ちですか?

ナーバスになりますね。ドランのことは監督として本当に尊敬しています。この作品を観ていただいた方にはわかってしまうと思いますが、絵の作り方を始め、構成の仕方、音楽の使い方、編集の仕方もドランの作品から多くの影響を受けているんです。だからこそ、いまは、少なくとも海外のメディアに対しては「ドランに憧れて映画を撮りました」とは絶対言えないんですよね。ドランの特集をした雑誌にドランへの愛情と嫉妬をただ書き連ねただけのエッセイを寄稿したこともあります。なので、ドランが審査員長の年に、「ある視点」部門に自分の作品が選ばれたということに対しては本当に感慨深いです。でも、もし僕がドランの立場でこの作品を観たら、すごく好きか、めちゃめちゃ嫌いかのどちらかだと思いますね。真似をしていると思われたら思われたで仕方がないですが。

カンヌ映画祭は、基本的には審査員と出品監督は会話をしてはいけないと思うんですけど、先日、映画祭主催のランチ会に参加させていただいた時、接触しちゃいけないと思って適度に距離を取っていたら、突然ドランがこちらに向かってきて、「ところで君何歳なの?」って声をかけられたんです。「28歳です」って答えたら、「そうか、そうか」みたいな感じで立ち去って行きました。実際に会って、本当に個性的な人だな、と思いました。だからこそ、ああいう作品が出来るのだなと納得しましたね。

-―ほかに会った監督はいますか?

公式上映の最後に立ち上がり、スタンディングオベーションを受けていたら、目の前にルーカス・ドンがいてびっくりしました。

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上映後、スタンディングオベーションを受ける奥山組。©︎Momoko Suzuki

――ルーカスは、今年の「クイア・パルム」の審査員長ですよね。

Girl/ガール』も『CLOSE/クロース』も大好きなんです。驚きながら、「本当に会えて光栄です」って握手をしました。ルーカスは「こちらこそ会えて光栄だよ。素敵な作品をありがとう」って言ってくれました。その状況なので、褒め言葉はさておき、彼がこの作品を観てくれたこと、そしてスタンディングオベーションが止むまで帰らずに最後まで席に残っていたことがただただうれしかったです。この作品が初めて観客の前で上映されたあの空間に、グザヴィエ・ドラン、ルーカス・ドンがいて、そして、是枝裕和監督や西川美和監督といった、これまでその背中を追いかけてきた方々が揃って観てくれたことに感激しました。映画は無理してまで焦って作る必要はないかも、という気分になってしまいました。

ぼくのお日さま

●監督・撮影・脚本・編集/奥山大史 ●出演/越山敬達、中西希亜良、池松壮亮 ●2024年、日本映画 ●90分 ●2024年、9月6日より先行公開、13日より全国にて公開

映画ジャーナリスト 立田敦子

大学在学中に編集・ライターとして活動し、『フィガロジャポン』の他、『GQ JAPAN』『すばる』『キネマ旬報』など、さまざまなジャンルの媒体で活躍。セレブリティへのインタビュー取材も多く、その数は年間200人以上とか。カンヌ映画祭には毎年出席し、独自の視点でレポートを発信している。

text: Atsuko Tatsuta editing: Momoko Suzuki

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