【立田敦子のカンヌ映画祭2025 #1】映画芸術と社会が交差する、カンヌ国際映画祭が華やかに開幕!

Culture 2025.05.14

5月13日、南仏カンヌにて第78回カンヌ国際映画祭が開幕した。今年の映画祭は、映画の芸術性のみならず、社会的・政治的メッセージへの意識がかつてなく強く反映されているように思う。CANNES 2025_AN_300x180mm_RVB_300dpi.jpg

オープニングセレモニーのハイライトは、ロバート・デ・ニーロへの名誉パルムドール授与だった。プレゼンターを務めたのは『キラーズ・オブ・ザ・フラワームーン』で共演したレオナルド・ディカプリオ。壇上でのデ・ニーロは、ハリウッドのレジェンドらしい存在感とともに、民主主義や表現の自由について言及し、観客から大きな拍手を受けた。映画祭は芸術の祭典であると同時に、時代の鏡でもあることを強く印象づけた。

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映画祭の核とも言える公式コンペティション部門には、著名監督から新鋭のクリエイターまで、さまざまな顔ぶれが揃った。今年の特徴は、ジャンルも出自も異なる作品が多く、映画がもつ多様性と地球規模の視野を実感させるラインナップとなっている。

たとえば、アリ・アスター監督の『エディントン』は、科学的理論と人間の情動を交差させる実験的なドラマ。スペインのカルラ・シモン監督による『ロメリア』は、内戦後の記憶と家族の絆を描き、ラテン系映画の情感を鮮やかに浮かび上がらせる。オリバー・ラクスが手がけた『シラート』は、モロッコの若者文化を軸にした親子の物語で、グローバル・サウスへの視点を映し出す。

日本からは、早川千絵監督の新作『ルノワール』がコンペティション部門に選出された。1980年代の郊外を舞台に、重病に侵された父と多忙な母の間で揺れ動く11歳の少女のささやかな反抗と連帯を描いた本作は、カンヌが近年好むリアリズムと詩情の融合を体現している。また、深田晃司監督の『恋愛裁判』はカンヌ・プレミア部門、川村元気の『Exit 8』はミッドナイト・スクリーニング部門に選出。李相日監督の『国宝』や壇塚唯我監督の『見はらし世代』が監督週間に並び、若手の田中美紀監督による『ジンジャーボーイ』はシネフォンダシオン部門での上映される予定だ。

さらに、押井守のアニメーション映画『天使のたまご』(1985年)が、4Kリマスター版としてカンヌ・クラシックスに選ばれたことも注目に値する。アニメーションとカンヌの関係はこれまで限定的だったが、ここにきてその芸術的価値が再評価されつつあるのは、日本のアニメ文化にとっても新たな地平を示す。 

ジェンダーの観点でも、今年は進展が見られる。コンペティション部門において、女性監督の作品が7本も選出されたのは歴史的といえる。映画祭は以前から男女比是正に取り組んできたが、その成果がようやく現れ始めている。特に、俳優から監督への転身が続くなか、スカーレット・ヨハンソンやクリステン・スチュワートらの初監督作品もサイドバー「ある視点」部門で注目されており、新しい語り手たちの登場に期待が高まっている。

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また、VRや没入型インスタレーションといった映像技術の革新も進んでおり、カンヌは今なお「映画の未来」を考える場であり続けている。

映画ジャーナリスト 立田敦子

大学在学中に編集・ライターとして活動し、『フィガロジャポン』の他、『GQ JAPAN』『すばる』『キネマ旬報』など、さまざまなジャンルの媒体で活躍。セレブリティへのインタビュー取材も多く、その数は年間200人以上とか。カンヌ映画祭には毎年出席し、独自の視点でレポートを発信している。

text: Atsuko Tatsuta editing: Momoko Suzuki

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