【立田敦子のカンヌ映画祭2025 #4】中間報告!前半戦で評価が高かった5作品。
Culture 2025.05.21
映画祭も折り返し地点を迎え、コンペティション22本中の10作品が上映された。このタイミングで、前半に上映された作品で評価が高い映画を5作を紹介したい。
まずは、ブラジルのクレベル・メンドンサ・フィリオ監督による『The Secret Agent』。1970年代のブラジル軍政下を描いたポリティカルスリラーで、(おそらく今年最長の)13分に及ぶスタンディングオベーションを受けた。監督の出身地であるレシファ、カーニバル、音楽などディープなブラジルカルチャーも興味深い。演出・脚本・演技すべてが高く評価されており、おそらくなんらかの賞に絡むと思われる。フィリオ監督は『バクラウ 地図から消された村』で2019年のカンヌ国際映画祭で審査員賞を受賞したブラジルの気鋭。『シビル・ウォー アメリカ最期の日』(24年)のヴァルネル・モグラが、抑圧的な国家の下、逃亡生活を余儀なくされる主人公を演じた。フィリオ監督の常連である怪演俳優ウド・キアーも共演。

スペインのオリバー・ラクセ監督の『Sirât』は、モロッコのレイヴ文化を背景に、失踪した娘を探す父親と幼い息子が砂漠を横断するサバイバルスリラー。壮大な砂漠や荒涼とした山岳地帯といったランドスケープは幻想的で、ベルトリッチ監督の『シェリタリング・スカイ』を彷彿とさせる詩的な側面もある。

前評判の高かったイギリスの女性監督リン・ラムジーの『Die My Love』は、母性と欲望の狂気を描く心理スリラー。なんといっても主演のジェニファー・ローレンスが圧巻。MUBIが配給を獲得するなど、商業的期待も高い。

リチャード・リンクレーター監督の『Nouvelle Vague』は、ジャン=リュック・ゴダールの初期の傑作『勝手にしやがれ』(60年)制作の裏舞台を通して、ヌーヴェルヴァーグ運動の精神を描く野心作。ゴダールをはじめ、フランソワ・トリュフォー、クロード・シャブロル、アニエス・ヴァルダ、エリック・ロメール、ロベルト・ロッセリーニなど、当時のヌーヴェルヴァーグ界隈の映画人役がこれでもかというほど、次々に登場する。しかも、みんなそっくり。アスペクト比は4:3モノクロ映像と徹底している。映画史へのこのオマージュは、カンヌは無視できないはず。

早川千絵監督の『ルノワール』もいい位置につけている。短編がシネフォンダシオン部門、前作『PLAN 75』が「ある視点」部門と"カンヌ育ち"の早川監督だが、本作はより個人的な視点を取り入れた作風が好意的に受け止められている。舞台は1980年代、11歳の感受性豊かな少女フキのひと夏を繊細な人物描写で綴る。相米慎二監督の傑作『お引越し』を彷彿とさせるという声も多い。主演の鈴木唯が女優賞を受賞すれば、史上最年少受賞となる。

映画ジャーナリスト 立田敦子
大学在学中に編集・ライターとして活動し、『フィガロジャポン』の他、『GQ JAPAN』『すばる』『キネマ旬報』など、さまざまなジャンルの媒体で活躍。セレブリティへのインタビュー取材も多く、その数は年間200人以上とか。カンヌ映画祭には毎年出席し、独自の視点でレポートを発信している。
text: Atsuko Tatsuta editing: Momoko Suzuki