#MeTooで再注目された傑作小説の待望の続編『誓願』。

Culture 2021.01.08

仕組まれた「女の敵は女」を、見破り、サバイブせよ。

『誓願』

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マーガレット・アトウッド著 鴻巣友季子訳 
早川書房刊 ¥3,190

作者のアトウッドが「これまでの歴史上や現実社会に存在しなかったものは一つも書いたことがない」と語るとおり、80年代のディストピア小説が、いまだに「3歩先の奈落」に感じられる現実がある。女性が仕事も名前も財産も奪われ、代替可能な出産装置として奉仕することを強制される近未来を描いた『侍女の物語』は、2017年の#MeToo運動前夜、女性の身体の権利について守旧的な態度をとるトランプ政権が誕生した米国でドラマ化され、エミー賞を総なめにした。

戦後まで女性が家父長の所属物とされ参政権も財産権も認められず、いまなお女性の性と生殖の自己決定がないがしろにされがちな日本にとっても、男性優位の独裁国家ギレアデの残酷物語は決して対岸の火事ではない。

34年ぶりの続編となる『誓願』は、『侍女の物語』の15年後を舞台に、出自も価値観も異なる3人の女性の視点が交錯するサバイバルエンターテイメントだ。

特に惹き込まれたのは、前作で男性権力者の手先となり女性迫害の急先鋒を担った、リディア小母が綴る手記のパート。冷徹な現実主義と人心掌握術を武器に、とんとん拍子に出世した彼女の来し方と腹の内、そしてギレアデの統治構造のからくりが、小気味よいブラックユーモアとともに明かされる。読者は、典型的な「名誉男性」リディア小母を、絶対悪として切り捨てられなくなるはずだ。

「石を投げつけられるより、投げる側にまわった方が良い。少なくとも、生き残る確率を考えれば、その方が良い」状況下に投げ出されたらどうするか、きっと自分の身に置き換えて想像する羽目になる。思いどおりになる女性を持ち上げるいっぽうで、都合の悪い女性を徹底的に貶めるシステムを構築し、高みのキャットファイト見物をする権力者たち。彼らの思う壺にならず手綱を譲らないよう、託されたヒントを読み取ってほしい。

文/長田杏奈 ライター

美容ライターとして雑誌やwebメディアで多くの記事を執筆。著書に『美容は自尊心の筋トレ』(Pヴァイン刊)のほか、「エトセトラVOL.3」(エトセトラブックス刊)の責任編集も。

*「フィガロジャポン」2021年1月号より抜粋

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