パレスチナからはじまるハラハラの旅行譚。映画『天国にちがいない』
Culture 2021.02.05
ささやかながら贅沢な時間と、 故郷の未来へと向けた視線。
『天国にちがいない』
紛争地出身の監督ESは道化にキャラ変し、出資先を探して世界へ。パリは様式美とカオスの街……。カンヌ国際映画祭特別賞&国際批評家連盟賞受賞。
エリア・スレイマンの作品を初めて観た。とっても面白かった。面白いといっても“ハラハラ、ドキドキ”とか“感情を揺さぶられる!”といった印象とは違い、何というか、映画を観ている間はとにかく心地よく、気持ちいい時間が流れている、そんな感じだった。
観る人によってはパレスチナ人の苦悩がなんちゃらかんちゃら……などの社会問題を意識しながらの人もいるかもしれないが、そういった社会情勢に全く疎い自分は“映画とは音の出る動く写真なんだよなぁ”という当たり前のことを思いながら、目の前に映る人の顔やアクション、景色などを“見せ物”として存分に楽しんだ。それと、あんなに美味しそうにタバコを吸う人を久々に見た気がする。ただただタバコを吸っているという時間のなんとも言えない贅沢さ。監督として、タバコを吸うという表現を雑に描いてはいけないと思わされた。
映画はパレスチナの日常から始まり、パレスチナの日常で終わる。そして最後にパレスチナの未来に対して投げかける監督の表情がとても印象深かった。それまではチャップリンやバスター・キートンのようなアクションとしての無表情だったのに対し、未来に対する眼差しは芝居をすることを止め、人としてのエリア・スレイマンが滲み出ていたように思えた。なぜそんな表情で映画が終わるのか? それを知るためにはパレスチナをもっと知る必要があるとエリア・スレイマンに言われているような気がした。普段から社会情勢についてな~んも考えていない自分に、そんなことを思わせてしまうエリア・スレイマンはやっぱり凄い監督なんだなと思った。
1976年、愛知県生まれ。代表作に『リンダ リンダ リンダ』(2005年)、『天然コケッコー』(07年)、『もらとりあむタマ子』(13年)などがある。近作はドラマ「コタキ兄弟と四苦八苦」(20年)。
監督・脚本・主演/エリア・スレイマン
出演/ガエル・ガルシア・ベルナルほか
2019年、フランス・カタール・ドイツ・カナダ・トルコ・パレスチナ映画
102分
配給/アルバトロス・フィルム、クロックワークス
1月29日より、ヒューマントラストシネマ有楽町ほか全国にて公開
https://tengoku-chigainai.com
※新型コロナウイルス感染症の影響により、公開時期が変更となる場合があります。最新情報は各作品のHPをご確認ください。
*「フィガロジャポン」2021年3月号より抜粋