こんまり流片付け術で変わった、フランスのカップルたち。
Culture 2021.03.19
整理整頓という課題を解決するため、2組のカップルが近藤麻理恵のメソッドを実践。彼らの体験談と、片付けが日常生活にもたらした効果について語ってくれた。なかには驚くべき証言も。精神分析家のフロランス・ロートルドゥのコメントとともに紹介する。
結婚、出産、家族の死…こんまり式はカップルが前進する手助けになる。photo : Getty Images
2015年、雑誌『タイム』が、世界で最も影響力のある100人の中に選んだ日本人女性、近藤麻理恵。彼女にとって、片付けはもはや人生哲学だ。著書、漫画、ブログ、アプリ、ソーシャルネットワーク…。彼女が提唱する「こんまり流」片付け術は世界中で大ヒットし、2020年、Netflixでは考案者自らが一般家庭を訪問して片付けを手伝う番組が配信された。9月には、ベストセラーとなった著書『人生がときめく片付けの魔法』(河出書房新社)のビジネス応用版がフランスで出版されている。
「ときめき」を与えてくれるものだけを取っておく—それが彼女の片付け術の極意。著者によるとこの方法は生活面にも多くの影響をもたらすという。共同生活がより快適になる、時間やエネルギーが節約できる、先延ばし癖を脱して積極的に行動できる、ノンと言えるようになる、などなど。
こんまりメソッド認定インストラクターのサポートを得て片付けを実践した2組のカップルが、自らの体験談と整理整頓が生活にもらたした変化、そしてその驚くべき効果について語ってくれた。
Juan Silva/Getty Images
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1. サシャとドロテの場合
サシャはパリ在住の30代男性。とある週末に友人宅を訪れたことからすべてが始まった。「友人はとてもきちんとした、几帳面な人。彼の自宅のすべての引き出しが、何が中に入っているか一目でわかるように整理されているのを見て、素晴らしいと思ったのです。必要なものがすべて手に届くところにあるので、四六時中ものを探し回らなくてすむと」。
多忙な起業家のサシャはパートナーのドロテとふたり暮らし。300㎡のロフトは年月とともに徐々に増えた様々なもので溢れている。一角にドロテの裁縫用の作業場が設けられた広々としたスペースは、カップルとペットの生活空間であり、そこに友人たちを招くこともしばしば。ほぼ完璧な暮らしを送っているとはいえ、学生気分のまま大人になったようなボヘミアンなこの生活スタイルのせいで、自分たちの幸福が損われているのかもしれないと思い至ったサシャ。
こんまりメソッド認定インストラクターのクリスティーヌ・テシエにコンタクトを取り、1回半日、全4回のコーチングを依頼した。最初はしぶっていたドロテも、説得の末に一緒に取り組むことに。寝室、浴室、台所、居間、すべての部屋の片付けが、いざスタート。
片付けのデトックス効果
前述のように、喜びをもたらしてくれるものだけを残して部屋をすっきりさせ、それからカテゴリーに分けてものを整理するのがこんまり流片付け術。しかるべき場所にものを仕舞ったら、それ以後は場所を変えないのがルールだ。
「クライアントには短時間で多くの決断をしてもらいます。5時間のセッションが終了する頃には、疲れ切ってへとへとになる人もいます。いわばデトックスのようなものです。スペースが空いたことが実感できます。なかには部屋ががらんとして戸惑う人もいるようです」とテシエは分析する。
20時間集中して選別と整理整頓を行った後、カップルは自宅でふたりで時間を過ごす喜びを再発見した。自分たちの家が「そうあるべき本来の姿を取り戻した」とサシャは大満足だ。「クリスティーヌが来てくれたおかげで、携帯の充電器が見つかったということだけでなく、他にも多くの問題が解決した」。
仕事と家庭内のいざこざでストレスを抱えていたサシャは、「人生のコントロールを取り戻した」と打ち明ける。「もっときちんとして、だらしないところを直して、大人になりたいと感じていた。まずは自分の環境を自分の理想の姿に近づけようと思ったのです」
精神分析家フロランス・ロートルドゥの意見:
「素晴らしい!彼はすべて理解しています。ものは単なるものではなく、エネルギーの集合です。あなたに相応しいエネルギーを身の周りに集めれば、家はあなたそっくりになります。逆に、きちんと選別せずに無駄なものや古いものを溜めてしまうと、自分のいる環境と自分自身の間に軋轢が生じてしまいます」
結婚、死別、誕生、引っ越し、新しい職場…。「クライアントが私にサポートを求めるのは、ほとんどの場合、人生に何らかの変化があったときです」とテシエは話す。サシャとドロテのケースでは、結婚が間近に迫ったことで物事が一気に進んだ。
「カップルから依頼を受けたのはこれが初めてでした。彼らにしてみれば、すべてを賭けるつもりで取り組んだと思います」とテシエ。「このことで自分たちふたりの生活が変わったわけではないけれど、ふたりで前に進むために必要なことだった」と結婚を控えたサシャは言う。
自分たちらしい空間を手に入れることができて嬉しいというドロテは、これでベビーを迎える心構えができたと打ち明ける。「作業の半分は済みました。雑然とした家の中が片付いたので、あとは赤ちゃんのために準備を整えるだけ」
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2. ベネディクトとステファンの場合
一生に一度だけの片付け
一度だけ片付たら二度と散らからない。自宅で快適な暮らしを送る喜びを取り戻す。魅了的な謳い文句だが、いざ実行に移すとなると、家の中を秩序の殿堂に変えるという固い決意が必要だ。
結婚16年、11歳と13歳の子どもを持つベネディクトとステファンがパリ10区のアパルトマンに入居したのは10年前。「1度も開封していない段ボールもある」と夫婦は打ち明ける。
「ブルジョワ家庭に育ったおかげで、何でも取っておくのが癖」と話すのはベネディクト。母親の病状が悪化し死期が迫ってきた時に、たくさんのものが遺品として残されることに気づいて彼女は不安になった。「母が遺したものを迎える前に、まず整理をして、いるものといないものを選り分ける必要があると思いました。クリスティーヌ・テシエに来てもらったのは、母が亡くなる数ヶ月前でした」
コーチの手を借りながら、まずはドレッシングルームに取り掛かる。「1日でゴミ袋を9つ満杯にしました。すべて私の服ばかり。居間が私のもので埋め尽くされてしまいました」。溜め込んできたものの量に驚きつつも、仕分けをし、自分の持ち物を「まるでデパートのように」きちんと整理できたことで自信がついた。それだけではない。ずっと仕舞っていた服を再発見する喜びもあった。「前よりおしゃれになったような気がします。今は何でも意識してするようにしています。選別をすることは、判断力という点でも、自分自身を知るという意味でも、実際に効果がある」と彼女は話す。
選別というステップこそメソッドの要だが、人によっては苦痛を伴うこともあるようだ。「最初のセッションの時に、大抵の人が家の中を整理することは自分の頭の中を整理することだと理解します。ときには極端な反応が起こることもあります。泣き出す人もいれば、自分が溜め込んだものを前にして、うんざりしてしまう人も。自分の過去を清算するのと似ているところがあります」とテシエは言う。
精神分析家の意見:
「片付ける、ものを減らす、整頓する、ものをしかるべき場所に収める。こうした行動は身体を使うと同時に、精神にも作用します。ものを片付けている時の精神状態は、問題を解決したり、状況に対処する時と同じ。また自分の身の回りにものが溢れていることに気づき、嫌悪感と不快感の入り混じった気持ちになることもあります。最終的には、”こんなにたくさんものを持っていても、得られる幸福はたったこれっぽっち”と思い知るわけです」
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家の中の重荷を減らす
ドレッシングの片付けを終えたベネティクトは続いて、彼女にとってまさに「天敵」というべき書類の整理に取り掛かった。キャリアコンサルタントを生業とする彼女は、請求書などの各種書類が見つからないと、「不安レベルが一気に上昇する」と言う。強烈なこんまり流の論理のおかげで、そんなプレッシャーがほとんど消え去った。
「ものを探すことに、人は1日平均30分費やしていることを忘れないで。最も深刻なケースでは、3時間以上費やしている場合もあります。時間とエネルギーの無駄ですし、様々な混乱の元にもなります」とテシエは言う。
その後、ベネディクトは子どもたちにも服のたたみ方を教えた。夫のステファンには「コモノ」つまり、服、本、書類以外のすべてのものの選別と整理を手伝ってもらうつもりだ。「子どもの頃に父親を亡くしたので、ノスタルジーからものを溜め込んでしまう傾向がある」と彼は弁解する。ファイナンシャルディレクターから家具職人に転向したばかりの彼は「この片付け術の効果」に驚いているという。
亡くなった母親の家を整理する時、ベネディクトは遺品の選別にこんまりの教えを応用した。「以前は、母のものを処分すると母を裏切っているような気持ちになりました。でも、いらないものを取っておくことで、自分自身を疎かにしているのだと気づきました」。
「このメソッドを実践すると、逆説的ですが、ものからも整理整頓からも解放されます。過去の事物に対する執着がなくなるのです。取っておくものは、私たちが前に進むために必要なものなのです」とテシエは説明する。「物理的なものをどんどん溜めて空間を埋め尽くしても幸せになれるわけではありません」
精神分析家の意見:
「最も美しい遺産とは自分が親から受け継いだ愛であり、それ以外はすべて物質です。取っておく、人にあげる、捨てる。そのことで自分がどんな気持ちになるか、それだけを考えればいいのです」
texte : Stéphanie O’Brien (madame.lefigaro.fr)