日本人に足りない「思考技術」を育てる方法は?

Culture 2021.02.25

From Newsweek Japan

「クリティカルシンキング」とよく言われますが、これこそ「答えのない時代」を迎える子供達に欠かせないスキル。フィジカルな接触を避けるのが当たり前になった世の中で、インターネットの情報がもたらす効果は計り知れません。親から子へ、情報の本質について「検証」する方法を教えましょう。

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氾濫する情報に流されないためにできること(写真はイメージ)photo:Xesai-iStock

2019年にOECDが世界79カ国・地域の15歳を対象として行った国際学習到達度調査(PISA)によると、日本人の子どもの「読解力」は15位と、前回調査時の8位から大幅に順位を落としました。

PISAは「読解力」の定義を「自らの目標を達成し、自らの知識と可能性を発展させ、社会に参加するために、テキストを理解し、利用し、評価し、熟考し、取り組む力」としています。

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ポストコロナで、求められる能力。

「いかに社会が変化しようと、自ら課題を見つけ、自ら学び、自ら考え、主体的に判断し、行動し、よりよく問題解決する能力を育む。」文部科学省が学習指導要領の理念として掲げている提言です。

この文章はPISAの「読解力」の定義とそっくりです。両者が求めている力は具体的に何かと言うと、これまで日本の学校教育でほとんど指導されることがなかった「クリティカルシンキング」と呼ばれる思考技術です。

クリティカルシンキング(批判的思考)とは、思い込みやバイアス(偏見)を排除して物事の本質を見抜く思考、既成概念にとらわれず自由にアイデアを発想する思考、周囲の意見に流されず自分にとって最良の答えを導き出すための思考技術のことです。

新型コロナウィルスのパンデミックによって、世界中の人々が生き方や働き方を見つめ直すことを余儀なくされています。不透明な時代を生きる子どもたちが自分らしく自己実現を図っていくためには、これまでの常識の枠を越えて、自分にとってベストな選択を導き出す思考法を鍛えておくことが不可欠です。

「答えのない時代」を迎える中で「自分が何をしたいのか分からない」「自分はどう生きたいのか分からない」「自分の強みが分からない」など、将来の夢が描けない若者が増えています。私はその一因として「思考技術」を家庭や学校で学んでいないことがあると考えています。

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米小学校に学ぶ、クリティカルシンキングの教え方。

アメリカの学校では、国語(英語)、算数、理科、社会、全ての教科指導にクリティカルシンキングが取り入れられています。先生が一方的に教科書知識を講義する日本の授業スタイルとは異なり、アメリカでは生徒を能動的にディスカッションに参加させ、気づきと理解を引き出していく授業スタイルが主流です。

小学4年生の理科の授業を覗いてみましょう。セキツイ動物について勉強しています。「ハ虫類と両生類、どこが似ているのか教えてください」先生が質問すると、子どもたちが一斉に手をあげます。

「どちらもたまごを生む」「どちらも肺で呼吸する」「どっちも気持ち悪い!」「どちらにも目がある」「どちらにも手足がある」

生徒たちの自由な発言に対して先生は問いを重ねていきます。「本当にどちらもたまごを生みますか?」「本当に手足がありますか?」「本当に気持ち悪いですか?」

すると生徒たちは「かえるには手足があるけど...へびには手も足もない!」「ボクはトカゲは可愛いと思う!気持ち悪いというのは主観です!」というように、直感的に答えに飛びつくのでなく、一度立ち止まって自分の思考について考え直す習慣を身につけることができます。

アメリカの学校で生徒の授業参加が重視されるのもクリティカルシンキングを鍛えるためです。頭の中にぼんやりと存在している思考を言語化し、他者に伝えることによって「クリティカルに考え、論理的に伝えるプロセス」を訓練しているのです。また他者の多様な思考に触れることによって、自分の思考の偏りや思い込みに気づくことができます。

先生の仕事は「答え」を教えることではありません。生徒がクリティカルに考えられるように「問い」を重ねることです。「なぜ?」「本当?」「どうして?」「根拠は?」と問い続けることで、生徒は「自分の思考を思考する習慣」を身につけることができます。

クリティカルシンキングを教科学習に取り入れることで、機械的に知識を記憶するという受動的な学びから、自ら課題を見つけ、自ら学び、自ら考え、主体的に判断し、行動し、よりよく問題解決していく「能動的な学び」を実現することができるのです。

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「クリティカルに考える力」が不可欠。

高度情報化社会で賢く生きていくには、自分にとって必要な情報を取捨選択し、吟味し、活用する「情報活用能力」が要求されます。新型コロナウィルスによって学校における情報メディアの拡充が急務になってきていますが、その一方で、子どもたちが氾濫する情報に流されてしまうことが危惧されています。

インターネットの世界はクリティカルシンキングを鍛える最適の場です。情報を鵜呑みにせず、正しい判断ができるように、インターネットに潜む「ワナ」や「ウソ」について親子で話し合う機会を持つことをお勧めします。

「誰が書いている情報なのか」「情報発信者の背景や経歴は」「その情報は事実なのか、著者の意見なのか」「何を根拠にしているのか」「何を意図しているのか」「著者や媒体に偏見がないか」など、情報の本質について「検証」する方法を子どもに教えてあげてください。

子どもにクリティカルシンキングを教える基本は、「本当」「なぜ」「誰が言っているの」と、「問い」続けることです。自分の考えを言語化し、他者に伝える経験を積ませることで、安易な思考で答えを出すのでなく、立ち止まって冷静に考える習慣が身についていきます。

クリティカルシンキングを教える時に起こりがちなミスが「斜に構えすぎること」です。「絶対にだまされないぞ!」「インターネットはウソばかり!」と、批判することを前提に情報に接していると、結果として大切な情報を見落とすことになります。

クリティカルシンキングは「あら探しの思考」や「あげ足取りの思考」ではありません。課題や目的に応じて情報を選択し、自分の学びや生活に活かすためのポジティブな思考技術です。情報の本質を見極め、積極的に活用する習慣を持つことは、将来、自分の進路やキャリアや生き方を賢く選択していくことにつながります。

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親子でディスカッションをすることの意義。

新聞やインターネットの記事を親子で読み、ディスカッションをしてみましょう。クリティカルシンキングを鍛えるには、思考を言語化する訓練が最も効果的です。子どもは子どもなりの意見を持っています。しかしその思いを人に伝える機会がないと、自分の思考について検証することも、自分の思い込みに気づくことも、ロジカルに説明することもできません。

子どもと意見交換する時は、頭ごなしに否定したり、話をさえぎったり、親の意見を押し付けてはいけません。どんなに突拍子もない意見であっても、子どもの考えを尊重し「なぜそう思うの」「本当にあなたの考えなの」「他に考えはないの」と親は聞き手に徹してください。

親子のディスカッションは、正解がなく、楽しいテーマから入るとスムーズです。たとえば「宇宙人は存在するのか」「死後の世界はあるのか」「超能力は実在するのか」というインターネット記事を親子で読み、クリティカルに意見交換してみてください。

また子どもにとって身近な話題、たとえば「学校に制服は必要か」「学校でコロナウィルスに感染しない方法は」「なぜ勉強しなければいけないのか」「いじめをなくす方法は」というテーマを振ると、面白がって話に乗ってきてくれます。

[執筆者]
船津徹
TLC for Kids代表。明治大学経営学部卒業後、金融会社勤務を経て幼児教育の権威、七田眞氏に師事。2001年ハワイにてグローバル人材育成を行なう学習塾TLC for Kidsを開設。2015年カリフォルニア校、2017年上海校開設。これまでに4500名以上のバイリンガル育成に携わる。著書に『世界標準の子育て』(ダイヤモンド社)『世界で活躍する子の英語力の育て方』(大和書房)がある。

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