演劇経験者は「学力」と「自己肯定感」が向上するってホント?

Culture 2021.03.01

From Newsweek Japan

演劇経験者は、未経験者に比べて英語(読解力)のスコアが平均65ポイント高く、算数のスコアが平均34ポイント高い──台本を読む作業は、想像力や感性を磨きながら読解力を向上させ、学力の土台づくりに役立ちます。

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写真はイメージ photo:Richard Lewisohn-iStock

皆さんは「演劇」にどのような印象を持っていますか?「文化部の代表」「地味」「個性的な人が多い」など、あまりポジティブな印象を抱かない人が多いかもしれません。日本ではまだ地位が確立されていない演劇ですが、欧米では子どもの教育に役立つ優れたツールとして演劇は広く認知されています。

演劇を学ぶと、コミュニケーション力が高まる。

イギリスの学校では演劇が必修科目になっていることが珍しくありません。また演劇の技術を駆使して歴史や国語などの教科を教える「ドラマ教育」がカリキュラムに組み込まれており、どの子も学校生活の中で大なり小なり演劇を経験します。

アメリカでも演劇はスポーツに並ぶ人気を誇る課外活動(部活)です。2002年にアメリカの舞台芸術研究連合(PARC)は、学齢期の子どもを持つ親を対象に演劇やドラマについての調査を実施しました。その結果、回答者の「90%以上が演劇が子どもの教育に役立つ」と考えていることが分かりました。

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なぜ欧米で、「演劇」が人気なのか?

いちばんの理由は、演劇を学ぶことで「人と関わる力=コミュニケーション力」を鍛えることができるからです。伝わりやすい発声・発音方法、目力や表情の効果的な作り方、身振りやジェスチャーなどで人を魅了する技術など、演劇を通して言語と非言語、二つのコミュニケーションスキルを同時に向上させることができるのです。

舞台演劇を作る過程では、参加者同士がコミュニケーションを密にすることが要求されます。互いの思いを伝え合い、互いを尊重し、団結を深め、息を合わせて演じることによってひとつの舞台を作り上げていきます。

また舞台は、演者だけなく、台本作り、照明、音響、舞台美術、衣装、監督などたくさんの人たちの支えによって成立しています。舞台を作るという共通のゴールに向かって、多様な人たちと関わり、協力し合う経験が、子どものコミュニケーション力を豊かにしてくれるのです。

グローバル化が進んだ現代社会では、一部の気の合う仲間だけでなく、多様な価値観を持つ人たちと協力し、共存することが求められます。実社会の中でよい人間関係を形成していくトレーニングとして子どもに演劇を経験させることは、欧米社会では「当たり前」なのです。

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演劇を経験すると、学力が高まる理由とは?

演劇の効果はコミュニケーション力に留まりません。演劇経験者は「学力」が高くなることが多くの研究によって明らかになっています。

アメリカ大学入学共通テストを実施する「カレッジボード」が2001年から2005年にかけて実施した調査では、演劇経験者は、未経験者に比べて英語(読解力)のスコアが平均で65ポイント高く、算数のスコアが平均で34ポイント高いことが分かっています。

米国ジョージア州アトランタで演劇教育プログラムを提供する「アライアンス・シアター」が行なった調査では、教科学習と演劇教育を組み合わせることで、子どもの学力、特に単語力、文章構成力、感情表現力などの英語力が向上することが分かりました。

演劇では、単にセリフや動きを覚えるだけでなく、この人物はどんな性格だろう、どんな表情や仕草をするのだろう、どんな言葉使いやアクセントで話すのだろうと、想像力を働かせながら台本を読む作業が要求されます。

演劇を経験することで、言葉や文章に対する感性が磨かれ、より深く、多面的にテキストを読み込む力=読解力が向上するのです。読解力はあらゆる教科学習の土台です。読解力が向上すれば学力に良い影響を与えることは明白です。

米国ユタ大学ユースシアターの監督を務めるペネロウプ・ケイウッド氏は、演劇が学業にもたらす効果について次のように述べています。

「舞台演劇はYouTubeやNetflixのように一時停止したり、巻き戻したりすることはできません。演劇を経験することで、周囲の言葉、動き、表情に注意を払う習慣が身につき、聞く力を高度に発達させることができます」

勉強が苦手という子どもの多くは集中して人の話を聞くことができません。自分の言いたいことや他のことが頭をよぎってしまうのです。子どもの集中力を高め、聞く力を改善する手段のひとつとして、演劇は有効です。

演劇で「自己発見」すると、「自己肯定感」が向上する。

日本の若者の「自己肯定感」の低さが多くのメディアで取り上げられています。自己肯定感とは「自分のよさを肯定的に認める感情」ですが、演劇には自分のよい面を発見し、自己肯定感を高める効果があります。

米国ケンタッキー州の「シアターワークショップ・オブ・オズワルド」が舞台演劇に参加した子どもを対象に行なったリサーチによると、演劇を経験したことによって、84%が「自分自身をより尊重するようになり」78%が「自分自身により満足している」と答えています。

その理由として「よりよい自己規律が身につき(80%)」「同時に多くのことを処理できる能力が向上し(82%)」「やるべきことがスムーズにできるようになった(78パーセント)」と回答しています。

舞台演劇に参加し、たくさんの新しい仲間たちと、新しい活動に取り組むことで、子どもはそれまで気づかなかった自分のよい部分に気づき「自分はできる!」という自信を高めることができるのです。

舞台演劇は、安全な環境(周囲の目を気にすることなく)の中で、子どもが思い切り自己表現する機会を提供してくれます。参加者同士がお互いのよさを認め合い、支え合い、あるがままの自分を表現することで、新しい自分を発見することができるのです。

演劇経験すると、英語が短期間で身につく!

演劇のもたらす効果について、最後は英語です。私は25年以上英語教育に携わっていますが、稀に超特急で英語を身につける人に出会うことがあります。そんな語学の達人の多くは「演劇経験者」なのです。

ハリウッドで活躍する渡辺謙さんや真田広之さんは「英語上手」で知られていますが、英語を本格的に習い始めたのは大人になってからだというから驚きです。

なぜ演劇経験者は英語習得が早いかと言うと、ここまで述べてきた通り、コミュニケーション力が高く、言葉を聞き取ったり、セリフを覚えたり、発音や喋り方を真似たり、表情や身体を使って表現する力を鍛えているからです。演劇を通して身につけたテクニックはすべて英語習得に役立つのです。

日本の学校では英語が「教科学習」として組み込まれていますから、どうしても英語を「学問的に学ぶ」習慣が身についてしまいます。すなわち単語の意味を覚え、文法ルールを覚え、英語を日本語に翻訳して理解します。

しかし英語は教科書を翻訳して学問的に学ぶよりも、スポーツや音楽のように、身体全体を使って「コミュニケーションの手段」として学ぶ方が、子どもにとって楽しく、短期間で上達するのです。

事実アメリカの学校では。外国人の子どもたちの英語指導(ESLやELLと呼ぶ)に「リーダーズシアター」「ロールプレイ」「ドラマ」など、演劇の手法を応用することで英語力向上に大きな成果を上げています。

「演劇が子どもに役立つことは分かった。でも本格的にやらせるのは少し不安」という方のために、今は半日や一日単位で気軽に参加できる子ども向けの演劇ワークショップが多く開催されています。まずはそこからスタートすることをお勧めします。きっと子どもが「新たな自分」を発見できるはずです。

[執筆者]

船津徹
TLC for Kids代表。明治大学経営学部卒業後、金融会社勤務を経て幼児教育の権威、七田眞氏に師事。2001年ハワイにてグローバル人材育成を行なう学習塾TLC for Kidsを開設。2015年カリフォルニア校、2017年上海校開設。これまでに4500名以上のバイリンガル育成に携わる。著書に『世界標準の子育て』(ダイヤモンド社)『世界で活躍する子の英語力の育て方』(大和書房)がある。

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texte:TORU FUNATSU

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