末永く...は大きな誤解!? 長続きするカップルの秘訣。

Culture 2021.03.11

アムールはパラドックスだらけ。2021年のいま、30代の男女は結婚に憧れる一方で、長続きしないかも、と考えて怖気づいている! 彼らの証言と専門家の解説を紹介する。

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長続きするカップルの秘訣とは? photo : Getty Images

セリーヌとボブは愛の言葉をささやき合う恋人同士だった。この30代のカップルが結婚を固く誓い合い、その幸せを噛みしめていたのは、ほんの3ヶ月前。「それなのに今は、本当に結婚したいのかよくわからない」とカウンセリング室でボブは打ち明ける。「このことで一晩中泣いたわ」とセリーヌも言う。ふたりは突然、家族を必死で喜ばせようとする子どものような気分になったのだそう。「それどころか、いまや家族にせっつかれて苦しい」とセリーヌは続ける。こんな状態で本当に結婚して大丈夫なのか? 「ふたりの物語をどういう形で続けたいか、ふたりでじっくり考えてみるといい」とカップルにアドバイスするのは、心理療法士のカロリーヌ・クリューズだ。

30年前からパリでカップル向きのカウンセリングルームを営むクリューズは、クリニックを訪れたカップルが繰り広げたシーンを、近著「愛を生きる知恵」(1)にまとめた。広い視野に立って、カップルとは何かを問いながら、それぞれが「既成の観念やお手本から自由になって、愛を育むものを見つける」ために役立つヒントを提供する。それがこの本の狙いだ。

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カップル、時代にそぐわない概念

2021年の最新トレンドは、彼女のクリニックを訪れるカップルの年齢層が下がっていること。結婚予定日を直前に控えた20~30代の若い男女が、パニックに襲われたかのように助けを求めにくる。私たち、長く一緒に暮らして行けるでしょうか? と。別の言い方をすれば、長続きしない夫婦が多いこのご時世、わざわざ結婚する意味はあるのでしょうか? ということだ。

共同生活の最初のステップ(最初のソファ選び、最初のアパルトマン選び、第1子の出産)を無事に乗り越え、そろそろ結婚したいと考えるこの世代にとって、これから待ち受けている日々はパラドックスでいっぱい。「30代の若者たちの多くはスピード社会に慣れています。仕事やパートナーを次々と変え、コミュニケーションのスピードも速い。彼らは、目の回るような速度で変化する今の時代に、長く続く、という幻想で対抗しようとしているのです」と話すのは哲学者のマリ・ロベールだ。「この世代の若者たちは、両親の世代の離婚や夫婦喧嘩、"別れないのは子どものため"といった言い訳を繰り返したくない、と考えています」とクリューズは説明する。「今の30代は生きた絆を維持したいと望んでいる。必ずしもふたりの仲がうまくいっていないわけではありません。ただ、いざ結婚する前に安心が欲しいのです」

ところで、いまどき長続きする幸せな結婚生活を信じるのは突飛なことだろうか? フランスでは、国立統計経済研究所(Insee)が毎年数字を公表している。2016ー2017年では、婚姻件数が22万8000件であったのに対し、離婚件数は12万8000件。結婚したカップルの半分が離婚していることになる。2017年に相互同意離婚の手続きが簡易化され、裁判所に出向く必要がなくなったことで、さらにこの傾向に拍車がかかった、とクリューズは指摘する。選択の自由が当たり前になり、手本になるモデルやカップルの形態も多様化している。「このことが逆説的に、カップルを脆弱にし、過度の期待を招いている」とクリューズは言う。長続きするカップルを理想とする古い結婚のイメージは、統計を見ればたちまち粉々に砕け散る。やはりInseeが2015年に公表した調査では、結婚したカップルの20%が5年後に離婚しているという結果が出ているが、1980年代の若い世代を見ると、15年以上共同生活を続けているカップルは70%にのぼっている。

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アルゴリズムの問題?

子育てが嵐を巻き起こし、欲望は時によって変化し、出会いアプリのアルゴリズムがリビドーをくすぐる。こうした危険を乗り越えていくにはどうしたらいいのだろう? 家電の寿命さえプログラミングされている時代に、結婚生活が長続きするかどうかにこだわる意味はあるのだろうか?

一生添い遂げる夫婦という強迫観念は根が深い。シアトルにあるワシントン大学ゴットマン研究所のLove Lab(愛のラボ)というれっきとした研究機関では、愛が長続きする秘密を解き明かすために、1986年から、3000組のカップルを対象に研究室のマウスのような綿密な観察を行っている。「革新的な数理モデルによって、私たちはカップルの関係の行方について、確実性の高い予測ができるようになった」とLove Labは主張する。「さらに重要なポイントとして、いまや私たちはカップルが円満な生活を送っていけるよう、データに基づいた様々な提案をすることが可能になった」と。アムールもアルゴリズムの問題になったというわけだ。

情熱的なポッドキャスト「Philosophy is Sexy」の中で、ロベールは夫婦生活の肥やしになる(あるいはだめにする)様々な概念について分析している。例えば、"愛"とは、強迫観念のなかでもっとも非合理的なもの、"夫婦喧嘩"は、カーナビの誘導ミスか洗濯機が原因、"運命の出会い"は、日常に埋没する、などなど。

では、持続期間についてはどうか。長続きするカップルとは? 「年数はまったく関係ありません。ベルグソンは時間には2種類あると言っています。時計の時間、つまり客観的な時間(1年経てば1歳年を取る)と、持続、すなわち個人に属する主観的な時間です」とロベールは説明する。「楽しいバカンスの日々は、あっという間に過ぎてしまう。退屈な会議に出席していると、永遠に終わらないように思う。長続きするカップルとは、こうした質的な時間に属する概念です。年数を数えて思い悩むより、相手と自分を結びつけるものについて考えてみてはどうでしょう。たとえば、相手に対する関心を失っていないか? 相手を称賛する気持ちがまだあるか? まだ一緒にいたいと思っているか? と」

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実践的アドバイス

理想のお手本は存在しない! それがカロリーヌ・クリューズが著書の中で提示している最初のアドバイスだ。「クリニックにやってきた何組ものカップルからこんな言葉を聞かされました。"もう何もかもうまく行かない。周囲からは理想のカップルと見られている。もし別れたら、自分たちよりむしろ周りの方が大混乱しそう!"」。理想を手放すのは簡単ではないとクリューズは言う。「理想こそ最も厄介な罠だというのに。理想を定めるとはそもそも決して到達できない目標を目指して努力することですから」

これまで多くのカップルを観察してきたクリューズはこう断言する。「恋愛の初期は素晴らしい時期です。相手には自分が求めるものがすべてあると思い、相手も自分に対して同じように思ってくれる。自己愛を互いに満たし合っている状態です。ところがある日魔法がとけると、お姫様はただの女に、王子様はただの男に戻ってしまう。長く続く関係を構築するには、愛の幻想から抜け出さなくては。自分の欠点を相手に曝け出し、相手の欠点を受け入れることです」

カウンセリング歴30年の経験から、心理療法士クリューズは長続きするカップルの秘密を探り当てたのだろうか? お察しの通り、彼女の著書『愛を生きる知恵』は秘訣を教える手引書ではない。その主眼は、自分と違う人間としてパートナーを尊重することの大切さを伝えることにある。カップルとはそれぞれ特殊なふたつの物語が交わって織りなされるものだから、どのカップルも違うのは当然のこと。とはいうものの、どのカップルにも有効な教訓もある。

「まず、長続きさせなければ! と繰り返し唱えて、自分で自分にプレッシャーをかけることは避けるべき。それはパートナーを信頼していない証拠です。ふたつ目の落とし穴は、夫婦を既定のものと考えてしまうこと。夫婦生活を継続することは、ふたりで調整を加えていくことにほかなりません。航海の間にすべての部品が修理交換されたアルゴー船のように。また、毎日一緒にいても飽きない関係を築くこと。愛は磨いていくもので、それぞれにやり方があります。3つめに難しいのは、全てを話し合うこと! 一夜限りの浮気なら、パートナーに話すのは無益です。浮気は毒ですから、わざわざふたりの関係にダメージを与える必要はありません。でも、もしそれが二人の関係に深く関わる問題をはらむなら、話し合ったほうがいい」

多くの場合、問題はそこにある。クリューズのクリニックだけでなく、多くのカウンセラーによれば、カウンセリングに訪れたカップルの2組に1組が「互いに話をしなくなってしまった!」と愚痴をこぼすという。そんな状況をどうやって切り抜けたらいいのだろう? このテーマを扱った『時という試練に立ち向かう愛』(2)の著者である精神科医のジャン=ポール・ミアレは、今の人々はカップルという形態に多くを求めすぎていると言う。特に、カップルであることはわくわくすること、という思い込みはその一つ。

「カップルであることは、本当は、創造力や相手への配慮を必要とする困難な共同事業です。いつまでも新鮮な気持ちでいるには、努力が必要です。患者のひとりが3つのCのルールという秘訣を教えてくれたことがあります。つまり"妥協(Consessions)、妥協、妥協"、です!」とミアレは話す。「危機を恐れてはいけません。危機が起きたときに、折れたり、我慢したり、こらえるのもよくありません」とクリューズは言う。「むしろ波が来たら乗ってしまうほうがいい。より遠くへ行くには、潮目が変わるポイントをしっかり捉えることです」

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長続きするカップルの秘訣

その1 こだわらない

フランス語教師のマリアンヌ(46歳)と建築家のフランシスコ(42歳)の場合。
結婚15年の夫婦。コロンビア在住。子ども1人。

ふたりは結婚1周年を祝ってドーヴィルでロマンチックな週末を過ごす予定だった。ところがこれが大失敗。「延々と言い合いが続いた」とマリアンヌは打ち明ける。海岸で「絶対に離婚する!」と心に誓った。

14年後のいま、夫は彼女が「世界で一番」愛する人だ。フランシスコとマリアンヌは言うなればお互い「違う星」からやってきたもの同士。フランシスコはコロンビア生まれ。マリアンヌはパリ生まれ。この異質性が出会いの瞬間からふたりを強く結びつけたとはいえ、たくさんの喧嘩の原因にもなった。夕食のテーブルで議論になると、必ず意見が食い違う。家庭のことで彼女がイライラしている時も、彼には彼女が怒っている理由がまったくわからない。「素晴らしい」心理療法士のもとでセラピーを受けたおかげで、ふたりは強固な絆を築くことができた。「フランシスコは私に反発しているわけではないし、私は彼を変えようとしているのではないことがわかった」

ふたりの秘訣は? こだわらないこと。週に1度、ふたりで美味しいお酒を飲み、話をし、楽しむ。周りからは「無愛想」と思われているフランシスコだが、寝起きで髪も整えていないパジャマ姿のマリアンヌに向かって、不意に「きみはとても美しい」と言ってくれることが今でもある。交際の最初の頃は身体のつながりを重視していたが、いまはそうでもない。「お互いそれが普通だと納得しているので、家庭は円満です」

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その2 "遊び相手"を見つける

ともにシナリオライターのルイーズ(47歳)とガブリエル(48歳)の場合。
カップル歴22年。パリ在住、子ども2人。

アパルトマンを買い、子どもを作り、犬を飼う…。ルイーズとガブリエル(仮名)は将来の設計を立てようと思ったことは一度もない。「そんなことをしたら、すぐにうんざりするでしょうね」とルイーズ。「私の場合、長続きの秘密は遊び相手を見つけたこと」。宿題や買い物に追われるマンネリ化した日常の中で、炎を保つための強力なカンフル剤となってきたのはフィクションだった。学生時代に出会い、共同でシナリオを執筆するふたりは、これまで数々の物語を一緒に作り上げてきた同志だ。「お互いに相手を楽しませようと努めています。マンネリを感じたら、正直に認めます」と続けるルイーズのもとに、ガブリエルからこんな着信が。「思いついたシーンがあるんだ。きみに話さないと!」

仕事ではまさに「共同体」のふたりだが、必ずしも一心同体のカップルというわけではない。お互いの独立性を尊重し、仕事以外では別行動。ガブリエルが編集作業で外に出ている間、家のことはすべてルイーズが担当する。彼女にとってはいつものこと。自分のパートナーが食器洗い機恐怖症であることは重々承知している。「私はきちんとしたい性格なので、この役割分担に不満はありません。カップルは薬のようなもの。効能とリスクのバランスが肝心です。時々かなり激しい言い合いになることもあるけれど、そういうときもユーモアが緊張を解きほぐしてくれます。ガブリエルが冗談を言って、それでお互い気持ちを切り替えるようにしています」

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その3 "すべてを共有するべきではない"

ヨガ講師のエリーズと元技術者で年金生活を送るクリスチャン(ともに74歳)の場合。結婚53年。エロー県在住、子ども2人。

彼らの運命の出会いは産院。エリーズとクリスチャンはリヨンのオテル・デュー病院の産婦人科で6日違いで生まれた。「夫はいつも私に、ゆりかごの中でさっそく私に目をつけていたと言うのよ!」とエリーズは笑う。実際は16歳の時、青年クラブでふたりは出会った。21歳で結婚。型に嵌らない生き方を求める彼らは、娘たちを置いてトーゴや南アメリカをふたりで旅するなどパンクな時期も過ごした。

エリーズは神秘的なものにひかれる内向的なタイプと自己分析する。クリスチャンは合理主義者で超がつくほど社交的。一体というより、お互いの足りない部分を補い合う関係だ。家ではそれぞれ自分のスペースを持ち、浴室も別々。「何でもかんでも共有するべきではない」とエリーズは言う。「相手をしつけようとするのもよくないわ。仕事の時はぴしっとスーツを着て出掛けるのに、家でジャージ姿でぶらぶらしている夫に、小言を言わないようにするのは簡単ではなかったけれど!」

ちょっとした悪癖が原因で諍いが起きないよう、二人は夫婦円満のために普段から策を巡らせる。花を買う、相手の好きな料理を作ってあげるなど、「ちょっとしたことで愛情を伝える」とクリスチャン。ふたりだけで閉じこもって暮らすのではなく、友人や家族、孫たちを家に招く。それでもこれだけ長く一緒に生活していれば、欲望がさび付くこともある。若い頃はもてたというエリーズは「よそ見」したくなったことがある。契約違反を犯した。彼女はそのことをクリスチャンに打ち明けた。「一か八かだった」。相手を失うかも、という恐怖によって、ふたりの絆はさらに強くなった。「あの障害を乗り越えたことが再出発のきっかけ。自分たちの関係を見直すことで、自分たちに本当に大切なものがわかった。74歳になった今も、外を歩く時は手をつないでいるのよ!」

(1)Caroline Kruse著  « Le Savoir-Vivre amoureux » Editions Le Rocher Poche刊
(2)Jean-Paul Mialet 著 « L’Amour à l’épreuve du temps » Editions Albin Michel刊

texte : Marie Huret

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