"フィンランドあるある"があふれる、旅する気分で楽しみたい映画。

Culture 2021.03.25

しあわせな国の町や自然は、どんな味覚と溶け合うか?

『世界で一番しあわせな食堂』

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田舎町のバス停前の小さな食堂がメイン舞台。北欧のローカル色を湛えつつもコスモポリタンな精神に貫かれた、カウリスマキ兄弟の兄ミカの会心作!

フィンランドというと昨今は「しあわせな国」の代表のように語られる。しあわせな国なんて聞くとどこかバラ色のイメージが湧くけれど、本作の舞台となるフィンランド北極圏の町ポホヤンヨキは、バラ色とはほど遠い場所だ。町に一軒しかない食堂で日々ふるまわれるのは味気ない料理ばかり。レトルトのようなソーセージのシチューに、翌日はただ焼いただけのソーセージ。本当にソーセージ好きよね……とつっこみたくなるが、地元のお爺たちは変わらない味に安心する。そう、本作には「フィンランドあるある」がたくさん詰まっている。

ポホヤンヨキは架空の町だが、夜が更けても日が沈みきることはない夏の夜や、鏡のように山を映す湖面、ムーミンの物語に出てきそうなじめじめと湿度を感じさせる森など、ちょっとできすぎなくらいに美しい風景はすべて本物だ。上海からやってきた腕利きのシェフである主人公のチェンとともに、私たちもまた旅をしている気分でこの国ならではの自然に惹きつけられてしまう。

花柄のワンピースに長靴で釣りを楽しむ地元っ子の身のこなしや、新しい味に尻込みをするお爺たちの姿もまた、あるあるだ。「ゲイでもないフィンランド男子の俺に中国料理を食えと?」と乱暴な言葉を口にしながらも目の前の斬新な料理をおいしそうに頰張るお爺たちは、保守的だけれど時に画期的な発想を取り入れてきた、この国の姿にも重なる。料理へのお返しにとお爺ふたりが自慢の場所でチェンをもてなすシーンも最高だ。フィンランド人の魂が宿るあの場所へ、いつかまた行きたい、いや必ず行こうと思わずにはいられない名場面だ。

文/森 百合子 北欧ジャーナリスト

北欧5カ国で取材を重ねる。著書に『北欧のおもてなし』(主婦の友社刊)ほか。新刊『日本の住まいで楽しむ 北欧インテリアのベーシック』(パイ インターナショナル刊)が3月発売予定。
『世界で一番しあわせな食堂』
監督・共同脚本/ミカ・カウリスマキ
出演/アンナ=マイヤ・トゥオッコ、チュー・パック・ホング、カリ・ヴァーナネンほか 
2019年、フィンランド・イギリス・中国映画 114分 
配給/ギャガ 
新宿ピカデリーほか全国にて公開中
https://gaga.ne.jp/shiawaseshokudo

新型コロナウイルス感染症の影響により、公開時期が変更となる場合があります。最新情報は各作品のHPをご確認ください。

*「フィガロジャポン」2021年4月号より抜粋

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