愛とベッドは別問題!「夫婦別室」を決めたワケ。

Culture 2021.05.03

愛のあるカップル。でもベッドも寝室も別。彼らが寝室を別にする理由は? 生活リズムのズレ、いびき、不眠など……。証言を集めた。

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愛は分けあっても、ベッドや寝室は別々のカップル。photo:Getty Images

アナイスは40歳。毎晩、パジャマを着てナイトクリームをつけたら娘の部屋へ駆けつけ、絵本の続きを読み聞かせる。次はベッドに潜り込む前の最後のステップ。夫の部屋の扉をノックし、愛情を込めてキスをする。それから隣にある自分の部屋へ。11年間ひとつのベッドで、肘のこづき合いや毛布の取り合い、歯ぎしりを挟みながら一晩中共に過ごしてきたカップルは、睡眠離婚に踏み切った。つまり寝床を別々にすることにしたのだ。

フランスでは夫婦同室が多数派だが、2015年にフランス世論研究所と「ファム・アクチュエル」誌が共同で行った調査によると、カップルのうち8%が別室で寝ると回答し、6人のうち1人がカップルは同室で寝るという「主流パターン」に違和感を感じると答えている。

イギリスではベッドを別にするというこのスタイルが大ヒット。グウィネス・パルトロウをはじめ、セレブにも実践者は多い。昨年6月に「デイリー・テレグラフ」紙が報じた調査によると、イギリスではこの10年で「睡眠離婚者」の割合が7%から2倍の15%に上昇したという。布団を別々にすることが夫婦円満の鍵なのか?

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睡眠戦争

「僕の愛しい機関車」ーーこれはクリスチャンが妻のサビーヌにつけたあだ名だ。40代のサビーヌはフランスに1500万人近くいるいびきをかく人のひとり。最初は些細な欠点として夫に笑われるだけで済んでいたが、すぐにそれはいざこざの原因に変わった。「私のいびきで起こされるたびに、彼は夜中に私のことをつねったり、押したり。そのせいでイライラして、私も息を吹きかけたり、蹴ったり」とフローリストの彼女は振り返る。「ちょっとした戦争でした! そのせいで、翌日は私も彼も睡眠不足で、朝食からさっそくお互い仏頂面」

睡眠専門医のフィリップ・ボーリウは、診療所を訪れる患者からもよく同じ相談を受けると言う。「いびきの音量が大きいと再入眠の妨げになることもあります。ノンレム睡眠のうちの浅い眠りのステージに差し掛かる夜中は特に」

カップルが寝室で直面する問題は他にもある。そのひとつが不眠。「女性に多い症状で、不眠症の人は周囲のちょっとした物音などの刺激に反応して、警戒心が高まっている状態にあります」とボーリウは説明する。

モルガンの場合がまさにそれだ。ソーシャルワーカーの彼女は、30代。自分で覚えている限りずっと寝つきが悪かったという。自分の家以外の場所、たとえば友人や恋人の家で寝るときは、その傾向がさらにひどくなった。「大抵の場合、相手の方が先に寝つくので、よけいにストレスになります。自分はどこかおかしいのではないかと考えてしまう」と彼女は言う。

「眠りに注意を集中させることで、テスト不安と呼ばれる不安感が生じ、徐々に睡眠のリズムが狂っていく」と『薬にもハーブティーにも頼らずに眠る』(1)の共著者であるボーリウは説明する。

モルガンにとって幸運だったのは、2年前に恋人と一緒に住みはじめたとき、ふたりの勤務時間がずれていたことだ。そのため快適さを優先して寝室を分けることにした。28歳のポールとパートナーも、同じ状況、同じきっかけで別寝室を選んだ。「ジャンヌはコンサルタントで、夜遅くまで仕事をして翌朝9時からまた仕事という日が多く、せめて4時間は効果的な睡眠を取ることが必要だった。僕のようにいびきをかく人と同じベッドに寝ていたら、それは難しいですよね」

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プレッシャーから解放される

重度の不眠症を抱える40代のローランス(仮名)の場合は、子どもが誕生した後の夜間授乳が夫婦の寝室を分けるきっかけになった。「単に快適かどうかの話ではなく、生存に関わる問題だった」とオート=アルプ県ブリアンソン在住の彼女は言い切る。「自分の睡眠が中断されたり、パートナーの睡眠を中断させる心配をする必要がなくなりました。明かりをつけて、薬を飲んだり、読書をしたり、ベッドで広々と大の字になって眠ることもできます」

世間一般の通念とは逆に、寝室を別にしても必ずしもカップルのプライベートな時間やセックスライフが完全になくなるわけではない。「子どもたちがぐっすり眠った後で、彼にちょっとエロティックなメッセージを送って、部屋に行っていいかどうか探りを入れることも。それから家をこっそり抜け出す思春期の女の子みたいに、彼の部屋に潜り込む」とアナイスは笑う。

神経科学博士で性科学者のオロール・マレ=カラによると、この一種の家庭内別居は欠乏感を生み、そのことで欲望がかき立てられやすくなるという。「夫婦同室は“こっちはいつでもいいよ、あとはそちら次第”と言われているような気分になる。寝室を分けるとだいぶプレッシャーから解放されます。女性にとっては特に」とカラは指摘する。

モルガンとパートナーはこの状況を楽しんでさえいる。「“今夜はそっち? それともうちに来る?”というような誘いのメールを送る」と彼女は話す。「確かに自発性に欠けるところはありますが、その気があるか、そういう気分かどうかお互い考える時間が持てます」

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妥協する

快適とはいえ、寝室を分けるのはぜいたくなことでもある。不動産価格が高いパリ圏では特に。「ふたりとも最低賃金で働いているのですが、このもう一部屋は私たちにとってどうしても譲れない点でした」とモルガンは言う。「すごく大変」だった半年間の部屋探しの末に、ふたりは理想的な賃貸物件を見つけた。「それに家賃もルームシェア並みだった」と彼女は付け加える。

しばらく賃貸暮らしをした後、ポールとジャンヌはアパルトマンを共同で購入。経済的な理由から、ベッド共有問題が改めて議題に上った。相談の上、今回は妥協案を取ることに決めたふたりは、書斎に小ぶりの補助ベッドを入れ、共同の寝室には奮発して形状記憶マットレスの高級キングサイズベッドを置くことにした。「反対側に到達するには泳いで行かないといけないくらい大きい」とポールは冗談めかす。「就寝時間がそれぞれ違うときや、遅くまで起きていたいときは書斎で寝ます」とポール。ベッドにかけた費用は総額2500ユーロ。「アパルトマンの中で一番予算をつぎ込んだ部分です」とマーケティング責任者のポールは言う。

ただしひとたび自宅の外に出ると、ことは複雑だ。「バカンスの前や友人の家で週末を過ごす予定があると、死ぬほど不安になる」と、不眠症に悩む40代のローランスは嘆く。「ホテルで別々の部屋に寝るというのは、経済的に難しい。ツインの部屋を選ぶか、Airbnbで借りる場合は寝室と別にソファベッドが付いている物件を選ぶしかありません。片方は招待を断って、ひとりだけ友人の家に行くこともありました」というのはモルガンだ。

ポールは、こうしたアクロバティックなやり方を続けていると、時々フラストレーションが溜まると告白する。でも、と彼はすぐにこう続ける。「ジャンヌが睡眠障害になったのは彼女が自分で選んだことではない。彼女の健康のためと思えば、これくらいの努力はしかたありません」

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規範に囚われない

「ここはポンパドゥール夫人の家?」身近な人たちが寝室を分ける意義を理解してくれたとしても、世間一般の人たちは安易な解釈しかしないものだ。中世以来「ベッドは夫婦の象徴であり、夫婦は同じベッドで寝るという規準があまりに強固なので、別の間取りを目にすると、人はすぐに夫婦仲に何か大きな問題があると想像してしまう、とジャン=クロード・コフマンは著書『ふたりでひとつのベッド』(2)の中で分析している。「夫婦のベッドはいまでも神聖なものと考えられており、それを拒否することは冒瀆(ぼうとく)に近い」

モルガンもアナイスもサビーヌも、こうした考え方を視野が狭いと一蹴する。「寝室を分けることで、共同生活のあり方を問い直し、それぞれが自分だけの空間を持ちながら、親密な関係性を築いていくにはどんなやり方があるか、いろいろと想像するきっかけになる。ヴァージニア・ウフルが“自分だけの部屋”と呼ぶあれです」とモルガン。

「自分だけの部屋はかつて自律性を保持するための道具であった。現代において、仕事と家庭というふたつの日課に追われる女性たちにとって、ベッドはストレスと闘うための道具となりつつある」とコフマンは著書の中で分析している。

最終的には、睡眠障害に悩まされていないパートナーも、実際にベッドの共有をやめてみると、別寝室の利点に気づくようだ。ローランスのパートナーは「快適に読書ができる、まさに独身男のアパルトマン」風に部屋を改装した。どちらかというと「だらしない」モルガンのパートナーは、自分の部屋で「自由にやって」いる。

ポールはおかげで一息つける場所ができたという。新型コロナ感染症の流行で、同居を「余儀なくされた」彼にとって、そうした空間はなおさら不可欠だ。「制約というより、こうして寝室について改めて考えてみることで、カップルの絆はより強くなる」とモルガンは断言する。

(1)Philippe Beaulieu, Dr Olivie Pallanca共著『Dormir sans tisanes ni médocs』Marabout出版刊
(2)Jean-Claude Kaufmann著『Un lit pour deux』JC Lattès出版刊

texte : Tiphaine Honnet (madame.lefigaro.fr)

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