トランス状態とは何なのか? 女性シャーマンが語る。

Culture 2021.05.16

肩書は民族音楽学者、作家、そしてシャーマン。意識の限界を広げるこの古来の技術に秘められた治療効果について、研究者や医者と連携し探求を続ける女性が、ジャーナリストのエリザベート・カンとともに私たちを直感の世界に導いていく。現実がいつもと違って見えてくる。

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コリンヌ・ソンブラン。 photo : Marechal Aurore/ ABACA Press

2001年は人間の進化にとって記念すべき年となるのだろうか? ちょうど20年前のこの年、徹底的に構造化された思考回路を持つ、あるヨーロッパ女性が、シャーマンの儀式でトランス状態を体験した。

その後、彼女は長いイニシエーションの旅に出る。トランスは認知現象であり、科学や治療に応用すれば無限の可能性が広がると確信するコリンヌ・ソンブラン(1)は、現在、世界中の研究者と連携して実証を進めている。

命あるものと新しい関係を結ぶために、土着のアニミズム的世界観は多くの示唆を与えるだろうと彼女は言う。自分自身の経験を語った著書『喜びの対角線』の出版を機に、インタビューを行なった。

●40歳、音楽家からシャーマンに

——自分にシャーマンの力があることをどうやって発見したのですか?

2001年、シャーマンの儀式を録音するために、モンゴルのシベリア国境付近に行きました。民族音楽学者としてBBCワールドの番組作りに携わっていたのです。当時シャーマンは外国人に対して不信感を抱いていました。ソ連の崩壊後に迫害され、儀式が禁止された時期があったからです。数日かけてシャーマンのバルジルを説得し、儀式に参加することになりました。

でも儀式が始まり、太鼓の音を聞いたとたん、震えが走り、その場で飛び上がって、私は自分の身体を叩いていました。大声で叫んだり、狼のような唸り声を上げて。自分の口元が前に突き出しているように感じました。シャーマンに体当たりして格闘しました。彼が持っている太鼓を奪いたかったのです。普段の10倍もの力が出ました。バルジルが2時間かけて私を正気に戻してくれました...。それから、彼は、精霊が私をシャーマンに選んだと告げたのです。

——その時はどう反応しましたか?あなたは40歳で、ロンドン在住のキャリアを積んだ音楽家でした...。

衝撃は相当大きかった。恥ずかしさもありました。私にとってこの出来事はコントロールの喪失に相当するものでした。当時私は死や不可視のものに対して恐怖を抱いていた。でも、精霊つまりongodに従わなければ、私の精神生活は地獄のようなものになると説明されました。調和が絶たれて、buzarすなわち不調和に支配されると。

——シャーマニズムのイニシエーションを受けるために数年間を捧げると決心したのはどんな動機からでしょうか?

もしかしたら、心の底から愛し、5年間耐え難い苦痛と闘った後に私の腕のなかで息を引き取ったあの人が、扉の向こうで待っているかもしれない。いつかその扉を開け、その人に会えるかもしれない...

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●シャーマンの役割とは

——どなたからイニシエーションを受けたのですか?

モンゴルの女性シャーマン、タマリの母でドゥジの妻のアンケチュヤです。トランスは変容であり交感であるということを、彼女は経験を通して教えてくれました。トランス状態にある時、脳は意識が受容しない情報をキャッチしているのだと気づくまでに、長い時間がかかりました。私が質問をしたり、理屈をこねたりすると、彼女は「精霊が教えてくれる」とだけ答えるのです。私は chichi kochkonok、お尻の穴と呼ばれていました。1年のうち4ヶ月間をモンゴルの彼女の元で過ごす、それを7年間続けました...。

——人類学者のフィリップ・デコラによれば、アニミズムは人間と人間以外のすべての存在に同種の内面性や主体性、志向性を認めています。シャーマニズムはアニミズムの儀礼的実践のひとつですが、アニミズムをどう定義しますか?

アニミズム信仰者は、万物、つまり石も、葉も、動物も、すべてに生命があり、私たちと交信していると考えます。すべてが尊重に値し、すべてが魂を持っていると。人類学者は「非物質的な霊魂」という言葉を使います。伝統的な社会の大半で実践されているトランスを介して、この霊魂、この精霊との交信が可能になる。イニシエーションの過程で、すべてが振動していて、すべてが周波数であり、情報であることに気づきました。トランスによってそれが感じ取れるようになるのです。

ある晩モンゴルで、私は宇宙全体との一体感を感じました。ひとつの全体に自分が溶けていくようでした。どこまでも空っぽであると同時に、宇宙で満たされている感覚に浸りながら、見えるものと見えないものというカテゴリーの境界が崩れていくのがわかりました。まさに啓示でした。

——シャーマンはどういう役割を担っているのでしょうか?

シャーマンは精霊の世界と人間との仲介役。不調和がある場合には調和を取り戻すために精霊にコンタクトします。何か大きな決定を下す前には必ず精霊に意見を求めます。

——どういう方法でトランスに入るのですか?

最初は儀式の太鼓の音が誘導になりました。いまは自己誘導でトランス状態に入ります。立ったまま行いますが、必要だと感じたら、腰掛けて行うこともあります。

20年前の私のトランス状態はかなり強烈なものでした。怒りを覚えていたのだと思います。時とともに徐々に制御できるようになり、いまでは安定した状態になりました。最初は私は狼でした。それからバッタになり、クマになり、リス、石...。オーガズムがトランスを誘発するきっかけとなることもあります。最初はとても奇妙でした!

トランスがオーガズムを誘発することもありますが、これは私には一度も経験がありません。ただ、これまでトランスを指導した経験から言うと、トレーニングの初期にはさまざまな反応が見られます。なかにはオーガズムを経験する人もいました。本人はとても恥ずかしがりますが、これは単に生命の力がコントロールも検閲もされないまま表出しているだけ。トランス状態にある間は、力が増し、痛みの知覚が弱まり、時間認識が変化します。「考える」のではなく、「感じる」ようになります。

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●トランスの効用とは?

——シャーマニズムのトランスが一種の変性意識状態であること、別の言い方をすると、ひとつの認知現象であり、単なる文化現象を超えるものであることを西洋世界に知らしめるべく15年近く貢献されてきました。ベルギー、カナダ、フランスなど複数の国で、身体的あるいは精神的な苦痛を和らげる、あるいは神経疾患患者と別の形で意思疎通を図るといった目的のために、研究者と共同でトランスを利用した様々な実験に着手しています。長い闘いでしたか?

2007年にパリに来た時に、ある医者に自分のトランス体験について話したことがありました。医者は悲しそうな表情で、精神科医の連絡先を差し出したのです! 統合失調症か、多重人格障害と思われたのです。

幸いにもその後、偏見を持たない多くの男女に出会いました。素晴らしい科学者、ピエール・エトヴノンもそのひとりです。1970年代から禅僧の弟子丸のような偉大な瞑想家たちの体験をもとに変性意識状態の研究を行っている人です。そのエトヴノンの計らいで、カナダのエドモントン臨床診断・研究センターのフロール=アンリ博士が、休息状態とトランス状態の時の私の脳波の記録を行いました。頭にびっしり電極をつけて、自己誘導でトランス状態に入りました。

診断が出たのは2008年でした。「コリンヌには精神疾患に合致する症状は一切見られない。彼女の脳はトランス状態から戻った後、通常の状態に復帰している」。これで大きな峠を越えました。脳波検査によって、トランス状態になると脳活動が変化することが明らかになりました。つまりトランスは単なる劇的演出ではないことが証明されたのです。またトランス状態から脱した私の脳に後遺症なども確認されませんでした。

——トランスは苦痛の緩和に効果があるかもしれない?

ベルギーのリエージュ大学病院で苦痛に関する実験が始まりました。10月にはパリの2つの大学でセラピストの養成課程が開講されます。ここまで来たかと信じらない思いです。私自身は、トランスを精神病患者や解離性障害の治療に役立てたいという精神科医たちに訓練を行っているところです。トランスは発作を起こしている患者にアクセスする手段となる、と彼らは考えています。

——どうやってトランスを教えるのですか?

音楽学者と共同でループミュージックを開発し、ナント芸術大学の学生たちの協力でテストをしました。被験者は20人。音を流したところ、16人の学生がトランスに入りました。

——被験者を必ず元の状態に戻せる自信がありますか?

はい。長い間トランスを実践してきましたから。

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●トランスは全ての人が体験できる

——私たちはみな「トランサー」で、自分でそのことに気づいていないということでしょうか?

トレーニングを受けた人の95%が、程度の差はありますが、容易にトランス状態に入れるようになります。深度は人によって違いますが、すべての人が認知機能が増幅した状態を体験します。

——直感や知覚といったトランス状態で覚醒する能力を私たちがより活用するようになったとしたら、集団的なレベルでどのような影響あるいは利益がもたらされるでしょうか?

そうなれば私たちと生命がふたたび結合されるでしょう。人間以外の生命に敬意を払わないことが、人間という集団の存続を危うくしていることを、私たちは理解するでしょう。新しいエコロジーが到来するでしょう。それは体験と、私たちを取り囲むものとの共鳴を基盤にした、生命への愛にほかなりません。

——「論理より、響きを尊重せよ」と唱えた詩人フランシス・ポンジュの言葉を思い出させます...。

自然の中でトランスを体験していると、木の前に立って、木に向かって「私に何を伝えたいの?」と問い掛けることがあります。私はよくありました。アマゾンとモンゴルで暮らしていた時にわかったことがあります。向こうでは自然は過酷で、そして遍在しています。

21世紀の人間の脳のおかげで、私たちには火星表面の鉱物を採取するロケットを作ることさえ可能だけれど、この超分析的な脳が変性意識状態に移行して、木を抱きしめたいと感じるには、ただ、森を歩くだけでいい。合理的な知性が私たちを閉じ込め、私たちを生命から切り離しています。瞑想やトランスによって、誰もがあらためて自分自身を開放するのです。

——芸術家はこの変性意識状態を体験によって知っているのでしょうか?

もちろんです! マルグリット・デュラスは「生命以前の野蛮、森の野蛮」という言い方で、書くことがいかに自分を野蛮にするか語っています。

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●宇宙規模のプロジェクト

——厄介者扱いされることはありますか?

はい。医師のなかには私を脅迫したり、私を怖気づかせようとする人もいました。最初の頃、つまり10年前、私は彼らの邪魔をしていたのです。治癒現象を強化するために自分の潜在的な能力を掘り起こしたいという人たちのためにトランスを指導しようとしていただけなのですが。

——「サイコノート」、つまり意識状態の航行者とご自身を定義していますね?

初期の頃に使っていた表現です。宇宙飛行士に憧れていたので。

——フランス国立宇宙研究センターと共同で実験を行うそうですね?

国立宇宙研究センターの宇宙観測所、リエージュ大学病院、パリ第8大学精神病理学教授のアントワーヌ・ビオワと共同で、無重力状態でのトランスの効果を測るプロジェクトを進めています。私自身が実験室に改造したエアバスZERO-Gに乗り込み、そこでトランス状態に入るわけです。

宇宙飛行士たちが孤独や、限られた空間での隔離生活に耐え、自己治癒のプロセスを促進させるのに、トランスによる認知機能の増幅という効果が役立つのではないかと私たちは考えています。あくまでもちょっとした痛みに対してということですが...。

——近いうちに宇宙飛行士にトランスを訓練する日が来るかもしれませんね?

その時、私はこう言うでしょう。これは、芸術家、精神科医、救急医、言語学者、私の訓練に参加するすべての人に言っていることです。「精神年齢が4歳になった時に、喜びとは何かがわかるでしょう」と。

(1)Corine Sombrun著『La Diagonale de la Joie』Albin Michel社刊

texte : Elisabeth Quin (madame.lefigaro.fr)

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