健全な競争心とは? 社会で活躍するメンタルの育て方。

Culture 2021.05.25

From Newsweek Japan

文/船津徹

「競争」を避けてばかりいても、受験、就職、転職...この世の人生は厳しい競争の連続です。アメリカ人家庭に学ぶ、子どものメンタルタフネスとチャレンジ精神を育てる手段とは?

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アメリカでは初心者であっても試合に出して真剣勝負を経験させる photo:FilippoBacci-iStock

日本で競争心が強い人と聞くと、他人を踏み台にしたり、勝つためには手段を選ばない貪欲な人という、やや否定的なイメージが伴います。一方、アメリカで「competitive/負けず嫌い」といえば、成功や勝利への執着が強い粘り強い人と、肯定的に見られる場合がほとんどです。

アメリカ人は競争が大好きです。自分が競争に参加することも、競争を見ることも好きです。競争が生活のあらゆる場面に浸透しているので、アメリカ人家庭では、ごく当たり前に、子どもを幼い頃から競争に参加させます。競わせてチャレンジ精神を育てるのがアメリカの子育ての特徴です。

初心者でも試合を経験させるのがアメリカ流

アメリカ人家庭の多くは、子どもが5〜6歳になると、何かしらの競技スポーツに参加させます。まだ身体の発達が十分でなく、ルールもよく分からない初心者の子どもであっても、親はお構いなしでサッカーチームやバスケットボールチームに参加させます。

日本では子どもがスポーツチームに入ってもしばらくは基礎練習が中心ですが、アメリカではいきなり試合に出して真剣勝負を経験させます。細かい技能は二の次。まずは実践を通して競争の楽しさを味わわせるのです。

「小さな子どもを競争させるなんて可哀想!」と思うかもしれません。しかし市場原理を重視する競争社会アメリカで生き抜くには、子どもの頃からたくさんの競争を経験させて、競争慣れさせておくことが必要なのです。

競争経験が少ないと、ストレス、プレッシャー、失敗、敗北などのマイナスの刺激を過剰に怖がるようになり「失敗するなら、やらない方がいい」と、物事に対して消極的な態度が形成されてしまうことがあります。競技スポーツへの参加は「チャレンジ精神を育てる」ための手段なのです。

勝者となってトロフィーを手にする成功体験は、さらに高い目標に向かってチャレンジを続ける向上心を育ててくれます。また敗者になった時の悔しい思いは、敗北をバネに飛躍する力や勝つために何が必要なのかを考える力など、勝利以上に多くのことを教えてくれます。

子どもの競技スポーツの目的は、相手を打ち負かす優越意識を植えつけることではありません。勝利というゴールに向かってあきらめずに努力を継続することで得られる価値を教えるためです。競技スポーツは「健全な競争心」を育てる最高のツールとアメリカでは考えられているのです。

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競争文化を支えるジュニアスポーツリーグ

アメリカの競技スポーツを支えるのがジュニアリーグです。コミュニティーごとに、サッカー、野球、バスケットボール、テニスなど、多くのジュニアリーグが存在します。リーグというのは、3〜4ヶ月のシーズン中に、参加チーム同士が対戦を繰り返し、対戦結果を総合した成績によって最終順位を決定する総当たり戦のことです。

一発勝負のトーナメント戦(勝ち抜き戦)ですと、一回負けたらシーズン終了ですから、弱小チームは試合経験を積むことができません。また「勝つこと」に重点が置かれますから、チームのベストメンバーで挑むことが当たり前になり、技能が未熟な選手は試合に出ることができなくなってしまいます。

リーグ戦であれば全てのチームが同じ試合数をこなしますから、技能の低い選手でも試合に出ることができるのです。もちろん初心者であっても、リーグに参加すれば、シーズン中はほぼ毎週試合に参加することになり、たくさんの実践経験を積み重ねることができます。

ジュニアリーグは、年齢別、レベル別に分類されていますから子どもの技能に合った競争を楽しむことができます。まずは初心者リーグで場数を踏み、技能が向上してきたらワンステップ上のレベルへ参加させます。さらにそこをクリアしたらもうワンステップレベルを上げていきます。これを続けていると、いつの間にか、ずば抜けて高いレベルへ到達できるのがアメリカのジュニアリーグの優れた仕組みです。

ジュニアリーグの多くは3〜4ヶ月のシーズン制ですから、春、秋、冬とシーズンごとに異なるスポーツに参加することも可能です。小学生の間はいくつかの競技を経験させ、小学高学年〜中学から徐々に得意なスポーツに絞っていくというのがアメリカのスポーツペアレントの間では定番となっています。

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親は勝敗にはこだわらないことが原則

競争には勝ち負けがあり、順位がつきます。一握りの勝者と多くの敗者が生まれます。子どもを競技スポーツに参加させる際に注意したいのが「親が勝敗に寛容であること」です。結果よりも、100%全力を尽くして努力したプロセスを評価してあげることが大切です。

子どもが試合で負けた時、親が「次にもっとがんばればよい」「もっと練習して次に勝てばよい」「どうしたら次は勝てるのか考えよう」という態度で接していれば、子どもは安心してチャレンジを継続することができます。
一方で親が「失敗は許されない」「やるからには勝たねばならない」と勝利へのこだわりが強すぎると、子どもに恐怖心や不安感を植えつけてしまい、実力を発揮できなかったり、競争を楽しめなくなったりします。

日本のジュニアスポーツには「絶対に負けられない!」という深刻な雰囲気がつきまといます。親やコーチが「勝つこと」を意識し過ぎると、子どものプレーが消極的になりがちです。負けないためはミスを減らすことが重要ですから、どうしても安全な試合運びへと流れてしまうのです。

いつもと違う方法を試してみたり、自分の特性を活かした大胆なプレーをしてみたり、子どもの競技スポーツの素晴らしさは、失敗を恐れず全力でぶつかることで得られる達成感や有能感を味わえることです。重要なのは「競争経験」であり「勝敗」ではないのです。

アメリカの親は子どもを試合に送り出す時に「楽しんできなさい!」と言葉をかけます。一定のルールの中で本気でぶつかり合う真剣勝負を思い切り楽しみなさい、というメッセージです。親が勝ち負けにこだわらなければ、子どもは緊張する場面でも自分のプレーを出し切ることができるようになります。

とは言っても試合で負けてばかりでは子どものやる気は育ちません。理想は手の届く範囲の競争に参加させることです。今の実力よりも少し高いレベル、勝ったり負けたりのきわどい勝負ほど子どもを大きく成長させます。明らかなレベル差がある場合、子どもに劣等感を持たせる可能性もあるので注意してください。

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競争は社会で活躍するためのトレーニング

子どもが自分らしく自己実現を図っていくためには「競争」を避けることはできません。大学受験、就職、昇進、転職、子どもの未来は厳しい競争の連続です。もちろん敗北や挫折を経験することもあるでしょう。しかし、次の目標に向かって立ち上がり、自己研鑽を怠らないメンタルタフネスを備えていれば、どんな困難も力強く乗り越えていくことができるはずです。

子ども時代に競技スポーツを通して真剣に競争と向き合う経験を積むことは、子どもの人生に必ず「プラス」の影響をもたらしてくれます。「負けたら可哀想だから」と子どもから競争を遠ざけるのでなく「社会に出すためのトレーニング」と捉え、子どもに競技スポーツを経験させることをお勧めします。

船津徹 TORU FUNATSU
TLC for Kids代表。明治大学経営学部卒業後、金融会社勤務を経て幼児教育の権威、七田眞氏に師事。2001年ハワイにてグローバル人材育成を行なう学習塾TLC for Kidsを開設。2015年カリフォルニア校、2017年上海校開設。これまでに4500名以上のバイリンガル育成に携わる。著書に『世界標準の子育て』(ダイヤモンド社)『世界で活躍する子の英語力の育て方』(大和書房)がある。

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texte:TORU FUNATSU

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