ハリウッドの離婚を請け負う「破局の女王」の舞台裏。

Culture 2021.06.01

キム・カーダシアン対カニエ・ウェスト。この離婚案件も彼女の担当だ。この敏腕家族法弁護士の顧客リストには、ブラッド・ピットアンジェリーナ・ジョリー、ブリトニー・スピアーズ、ジョニー・デップらの名前も並ぶ。カリフォルニアの機密情報を扱うキーパーソンの舞台裏に潜入。

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ハリウッドの離婚の女王、ローラ・ワッサー。photo :  AP/Afro

ハリウッドの丘を真正面に見渡す、ロサンゼルスのセンチュリー・プラザ・タワーズ8階。この事務所で彼女はクライアントを迎える。彼女のデスクの前には、鮮やかなグリーンの革張りの椅子がふたつ。そばにはティッシュケースがひと箱。座面にThe Endの文字が大きく入ったクリーム色の大きなソファも置かれている。

ローラ・ワッサーがウエストコーストで最も有名な離婚弁護士であるのを知る人なら、この2ワードに込められたユーモアがわかるだろう。「The Disso Queen」(破局の女王)。アメリカのセレブニュースサイトTMZが彼女につけた異名だ。真っ白な歯を見せて微笑む(ここはカリフォルニア)、身長162mのブルネットの女性にとっては、それも褒賞のひとつ。

25年に渡るキャリアのなかで彼女が離婚訴訟を担当したセレブは、ブリトニー・スピアーズ、ジョニー・デップ、ハイディ・クルム、ジェニファー・ガーナー、アシュトン・カッチャー、メラニー・グリフィス、ライアン・レイノルズ、クリスティーナ・アギレラ、マリア・シュライバー、グウェン・ステファニー…と、枚挙にいとまがない。

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アンジェリーナ・ジョリーとブラッド・ピットは2016年に離婚裁判を開始した。(ロンドン、2014年6月13日) photo : Getty Images

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メディアが注目する破局

2011年にロビン・ムーアとメル・ギブソンの離婚が成立した際、ムーアの弁護に立った彼女は4億2500万ドルを勝ち取った。ムーアとの間に7人の子どもをもうけているギブソンは、ハリウッドで史上最も高額な離婚調停金を支払ったと言われた。

2017年にジェニファー・ガードナーと、アルコール依存症に陥ったベン・アフレックの離婚調停を担当したのも彼女だ。最近では、6人の子どもの単独親権を獲得するためにブラッド・ピットと裁判で争ったアンジェリーナ・ジョリーの弁護を担当している。ただこのときは当事者ふたりの対立があまりに激しくなり、手を引かざるを得なかった。

しかし何と言っても、あのキム・カーダシアンとカニエ・ウェストの離婚調停という困難が予想されるミッションを引き受けたところに、彼女の大胆不敵さがうかがえる。リアリティ番組のスターと野心家のラッパー、夫婦はともにビリオネアだ。4人の子どもたちの親権と、2014年以来、新時代エンタメ業界で最も注目されてきた夫婦が築いた数百万ドルもの資産の分与が争点となる。

1時間950ドル

万事が予定通りに運べば、円満に協議離婚が成立するはずだ。現在52歳のワッサー。彼女は抱えている案件について決してコメントしない。桁外れのカーダシアンファミリー(ほかの3人の姉妹の離婚訴訟も彼女が担当した)と仕事をするのがどういうことなのかさえ私たちには想像もつかない。

有能さと口の堅さという資質を買って、ハリウッドの富豪たちが次々と彼女に仕事を依頼する。それも多額の報酬を支払って。正確に言えば、相談料は1時間950ドル。それに加えて報酬のうち2万5000ドルを手附金として払う。「無駄遣いはやめてください。私は相当高いですから」。ルブタンのハイヒールを履きこなす、生粋のカリフォルニアガールの口癖だ。こうした気の利いた言い方で、自分は弁護士であり、心理カウンセラーでないと伝えているわけだ。

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ローラ・ワッサーはベン・アフレックとジェニファー・ガーナーの離婚訴訟を取り仕切った。(ハリウッド、2013年2月24日) photo : Getty Images

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この父にして、この娘あり

彼女の両親が娘にローラ・アリソン・ワッサーと名付けたのは、イニシアルが LAW(法律)という理由からだ。「でも、大学で弁論の授業を受けるまで、弁護士になることは考えていませんでした」と彼女は語る。名門バークレー大学を卒業後、グロリア・アルレッドやロバート・シャピロ(それぞれO.J. シンプソン裁判で原告側、被告側の弁護に立った)といったスター弁護士を輩出したロヨラ・ロースクールで学んだ。

LAWの才能は父親譲りだ。父親のデニス・ワッサーも、スティーブン・スピルバーグ、クリント・イーストウッド、トム・クルーズ(ニコール・キッドマンとの離婚時)をはじめとする、当時、つまり20世紀のスター御用達の有名離婚弁護士だ。父親は1976年に法律事務所ワッサー、クーパーマン&マンデルズを設立した。父親はいまも現役だが、現在は娘が事務所のスター弁護士として活躍している。

ローラ・ワッサーが最初に担当した案件は、まだ26歳の時、自分自身の離婚だった。「法学部2年目の在学中に結婚しました。大学を卒業してすぐ、一緒に暮らし続けるのは無理だと気づいた」。研修生として父親の法律事務所に勤務していた彼女は、自然と離婚調停を専門分野とするようになった。「正直に言って、とても面白い分野です。法律の世界で人の人生にこれほど深く入り込む領域はありません。日々、人間について学んでいます」。自身の離婚の後、彼女が別の男性に「YES」と言ったことはない。

気まぐれなクライアント

現在11歳と15歳の息子たちには、指に結婚指輪をはめなくても、相手と堅実な関係を築くことができると教育している。カリフォルニア在住の彼らにとって、母親のアドバイスは大きな意義を持つ。

カリフォルニア州では基本的に夫婦共有財産制が採用されているため、離婚の際には夫婦が得たものはすべてきっちり半分ずつ分配されることになる。別の言い方をすれば、ロサンゼルスで離婚する場合、結婚後にあなたが稼いだすべてのお金は伴侶との共有資産とみなされる。そのせいでハリウッドの大金持ちカップルの離婚協議はときにずるずると長引き、そしてその間に離婚費用はかさんでいくことになる。しかしセレブといえども人間。別れの仲裁のポイントは一般の人々と大きな違いはない。

「離婚は素晴らしい“平等主義者”です」とローラ・ワッサーは言う。「私のクライアントは誰もがみな同じ苦しみ、同じ不安を抱えています」。それでもひとつだけ違いがある。「財産も名声も世界トップクラスの人たちは、“ノー”という言葉を聞くことに慣れていない。ですから、その言葉が存在し、彼らの期待していることはまったく非現実的であると思い出させることが必要」

とはいえ、ワッサーはこれまでに、芸術作品の共有管理(それぞれが1年ごとに所有する)という選択肢をクライアントに承諾させたことがある。また、あるバスケットボール選手に、出産後の妻に体重を元に戻すための期限を課すのは違法だと説明したこともある。配偶者を破産させる、あるいは単に相手を困らせることだけを目的とするような執念深いタイプに、そうした考えはお門違いだと親切に諭すのも彼女の役目だ。

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オンラインでアドバイス

オスカー・デ・ラ・レンタのテーラードドレスとプラダのアタッシュケースで身を固め、プライベートの時間にはサーフィンを楽しむワッサー。彼女の夢は、離婚へのアプローチ方法を変革すること。「離婚の進化、それこそが私の人生の目標です」と彼女は言う。

2013年には、『It Doesn’t Have to Be That Way : How to Divorce Without Destroying Your Family or Bankrupting Yourself』を出版。家族を壊さず、そして自分も一文無しになることなく離婚を成功させるためのアドバイスを集めた本だ。

また2年前には、プラットフォーム“It’s Over Easy”(あまりに簡単)を開設した。平均離婚費用がフランスの5倍に当たる1万5000ドルといわれる国で、離婚へのアクセスを容易にすることがサイトの目的だ。ホームページを見ると「弁護士なし。裁判所での調停なし。面倒なし」というフレーズが目に入る。いわばインターネット時代のアンチ『クレイマー、クレイマー』...。

彼女が所属する法律事務所にとって不利益なのでは? 彼女は気にかける様子はない。家族法弁護士は「お金だけが目的だ」と言われるのを彼女は嫌う。「私たちが離婚の種を蒔いているのではありません。反対に私たちは離婚の解決に努めているのです!」

映画的なスタイル

根気強い取り組みで知られる人権弁護士のアマル・クルーニーのように、ローラ・ワッサーは離婚訴訟の分野でのアイコン的存在となっている。映画業界も彼女に関心の目を向ける。ジム・キャリーが嘘つきの弁護士を演じた映画『ライアー・ライアー』(1997年)や、40代の主婦の離婚劇を描いたドラマシリーズ「Girlfriends’ Guide to Divorce」の撮影にコンサルタントとして参加した経験もある。

2019年に公開された映画『マリッジ・ストーリー』を監督したノア・バームバックは、自分自身の離婚協議で何度か彼女と面会したことがある(彼の元妻である女優のジェニファー・ジェイソン・リーがワッサーのクライアントだった)。映画のなかでローラ・ダーンが演じる、高級スーツをまとった獰猛な笑顔の弁護士像のインスピレーション源は彼女だったとか。残念ながら、冷酷でセクシーな女性弁護士というイメージが誇張され過ぎてはいたが...。

カマラ・ハリスとディナー

多くの案件を抱えた弁護士で、人気コンサルタント、思春期の育ち盛りのふたりの子どもを持つ母...。日々の仕事を乗り切るために、ワッサーは毎朝5時30分に起床する。頭にあるのはたったひとつ:「コーヒー!」

ウェスト・ハリウッドがまだ寝静まっている時間帯に、彼女はさっそく外に出て、ラブラドールとピットブルの2頭の愛犬とジョギングをする。限られた自分のための時間だ。そしてビタミン12、ビタミンC、ビタミンEのサプリメントを飲み込み、嵐のような1日のスケジュールをこなす。

夜は友人たちとの食事のために外出する。クライアントではありません、と彼女は付け加える。ちなみに、カマラ・ハリスも彼女の古くからの友人のひとりだ。

離婚専門家とはいえ、結婚式に出席するのは大好きだという。どのカップルが長続きするか予言できるのでは?「それはどうでしょう。扉の後ろで何が起きているかは誰にもわかりませんから」

texte : Marion Galy-Ramounot (madame.lefigaro.fr)

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