女性の利益は男性の損失ではない! 「ガラスの天井」を破る秘策。

Culture 2021.06.09

From Newsweek Japan

大卒労働者の約半分は女性なのに、経営者は10%以下。職場の男女平等を実現するカギは男性が握っている。

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photo: Deagreez_iStock

アメリカでは、現在も男女の賃金に平均18%の差がある。つまり、男性が1ドルの賃金を得ているとしたら、女性は82セントしかもらっていない。非白人女性に限定すると、この差はもっと大きくなる。

女性が大卒労働者の約半数を占めるようになって久しいが、相変わらずこうした賃金格差が存在し、企業の経営幹部に女性が占める割合も低い。昨年末の段階で、スタンダード&プアーズ(S&P)500種企業のうち、女性CEOがいる企業は7.8%にすぎなかった。

なぜ「ガラスの天井」を破るのに、こんなに長い時間がかかるのか。

ハーバード・ビジネススクールでジェンダー・イニシアチブのディレクターを務めるコリーン・アマーマンと、同校のボリス・グロイスバーグ教授(経営学)は共著『グラス・ハーフ・ブロークン』で、女性の進出を妨げる構造的な問題と、それを取り除く方法を論じている。このうち問題解決に男性が大きな役割を果たせることを論じた部分を、一部編集して紹介する。

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文/コリーン・アマーマン(ハーバード・ビジネススクール ジェンダー・イニシアチブ ディレクター)、ボリス・グロイスバーグ(ハーバード・ビジネススクール経営学教授)

セクハラ被害に声を上げる「#MeToo(私も)運動」が拡大して以来、職場における女性の地位を見直すことは、新たな重要性と緊急性を帯びている。だが大幅な意識向上により企業の組織改革が進む一方で、さまざまな業界の男女双方から懸念の声が上がっている。

ハラスメントの加害者だと疑われることを恐れて、男性が女性と仕事をしたがらなくなるのではないか、というのだ。女性のメンターになったり、アドバイスをしたり、仕事上の友達関係にならないようにするのではないか──。

仕事で女性と密接に協力することを嫌う男性は、当然ながら女性同僚のキャリアにダメージを与える可能性がある。だが男女平等に無関心な男性も、女性の地位向上を妨げる場合がある。その一方で、男性が女性のアライ(味方)として、平等に向けた闘いに加わる場合もある。

現在、この闘いは岐路にある。業界にかかわらず、企業の経営幹部に占める女性の割合は1990年代からほとんど変わっていない。だが女性の進出と専門職に就く機会拡大を求める闘いで、男性は傍観者を決め込んでいたわけではない。

84年の米大統領選で、民主党の大統領候補ウォルター・モンデールは、ジェラルディン・フェラーロ下院議員(当時)を初の女性副大統領候補に指名した。その背景には、連邦下院議長とニューヨーク州とオハイオ州の知事、ニューヨーク市長(全員男性)の「副大統領候補は女性に」という強い声があった。

フェラーロがアメリカで最高レベルの地位に推挙されたのは、長年の女性たちの積極的な運動だけでなく、権力の座にある男性たちによる応援の結果でもあったのだ。この構図は現在も重要な意味を持つ。

2020年の米大統領選で、ジョー・バイデン(現大統領)は、早い段階から女性を副大統領候補に指名する意向を示していた。そして実際にカマラ・ハリス上院議員(当時)を選び、最終的に当選を果たした。ハリスは女性としても非白人としても、初の副大統領だ。

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「男性パネリストのみ」はNG

フランシス・コリンズ米国立衛生研究所(NIH)所長は19年、科学関連の会議で「パネリストが男性のみという伝統に終止符を打つ」ことを呼び掛けるとともに、インクルーシビティー(包摂性)が欠けた会議の講演依頼は拒否すると表明した。後にコリンズは、#MeToo運動の影響で、生物医学の領域でも、女性科学者が平等な機会と待遇を得る環境づくりが急務だという認識が広がっていると、ニューヨーク・タイムズ(NYT)に語った。

これは非常に重要だったと、プリンストン大学のヤエル・ニブ教授(神経科学)は語る。「主催者はみんな、聴衆を呼べるコリンズを招きたがる。そういう人が『会議登壇者の構成が適切ではないから、基調講演は引き受けない』と言えば、巨大なインパクトを与えられる」

男性の声が非常に重要なのはほかでもなく、「彼らが男だから」だ。男性が男女格差や性差別に対して声を上げれば、共に平等を目指す頼もしい仲間だとみられる。さらにそうした男性は、男女の不平等が特殊な関心事ではなくみんなの問題だという意識を高め、普及させる。

私たちは女性の昇進を支援した多くの男性に話を聞いた。食品大手キャンベルスープのCEOだったダグラス・コナントもその1人。01年、経営難に陥っていたキャンベルの舵取りを任されたコナントは、女性の登用(および広い意味での多様性の拡大)を再建戦略の中核に据えた。

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「誰にとっても有効なEVP(従業員価値提案)を作成し、キャンベルで働く価値を示さなければならなかった」と、コナントは語る。包摂性や公平性に対する従業員の意識は低く、また2万人余りの従業員に会社が期待をかけ、投資する用意があることを知らしめる必要もあった。

間もなくキャンベルスープでは「ウィメン・オブ・キャンベル」を皮切りに、性別、人種、性的指向など同じ特質を持つメンバーで構成される従業員リソースグループ(ERG)が立ち上げられた。

「最初は10人ほどだったウィメン・オブ・キャンベルに、1年で世界中から5000人の女性が参加した」と、コナントは言う。「扉を開き、女性の活用は業績向上につながるという考え方を後押しするだけで流れが変わった」

コナントは女性リーダーの育成も買って出た。11年、彼の後を継いでデニス・モリソンがCEOに就任。キャンベル初の女性トップとなったモリソンを、コナントは何年も前から教え導いていた。

「参謀的な役割のグローバル最高顧客責任者として雇い、それから損益に責任を持つポストに就けた」と、彼は振り返る。「モリソンは6〜7年かけて実務でも実力を証明し、取締役会が後継者を検討する頃には貢献も経験も折り紙付きだった」

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現状の打破で男性も恩恵を受ける

取締役会は女性のCEO候補がいないと嘆きがちだが、問題が解消できることはコナントの例が示している。強力な地位にある男性が、女性のために扉を開けばいいのだ。

男性の協力は女性の活躍を阻む慣習や常識を変えるのに欠かせないだけでなく、現状を打破すれば男性も恩恵を受ける。女性に不利なヒエラルキーは、男性にとっても落とし穴になるからだ。

男性の言動には厳しい規範があり、守らなければ罰を受ける。隙を見せたり気さくに振る舞ったり、感情(怒りを除く)をあらわにしたりすれば批判を招く。このような言動はむしろ信頼関係を育み、仕事の成果を高めるのだが(わざわざコーチを雇って習得する幹部もいるほどだ)、実際にそうした男性は能力も好感度も低いと見なされる。

規範から逸脱するのが最も難しく、代償が大きいのは育児における役割だろう。社内では男女格差が男性の出世に味方するかもしれないが、人生全般においては違う。

90年代初頭、ハーバード・ビジネス・レビュー誌は労働観と家庭観の変化を指摘した。新世代の男性は育児に関わり配偶者とより対等な関係を築きたいと考えており、「男が決めた米企業の在り方は、もはやわれわれの生活に合わない」と訴えた。

しかし約30年後の今も、男性は時代遅れの男らしさに縛られ、育児や介護への関わりを制限されている。

15年にNYTは、00年前後に成人したミレニアル世代の男性は前の世代より男女平等の意識が高いが、その生活は父や祖父とおおむね変わらないと報じた。相変わらず労働時間が長く、育児にはほとんど関わっていないというのだ。企業の多くが育児に積極的な男性を、よくて変人、最悪の場合は怠け者と見なすのを思えば、驚くには当たらない。

育児休暇は大企業ではごく一般的な制度だが、男性の取得率は女性に比べて格段に低い。18年の人的資源管理協会の報告によれば、育児休暇を取れる環境にいるなかで制度をフルに活用した人は、女性では66%だったが、男性では36%にとどまった。

19年5月に金融大手JPモルガン・チェースは、育児休暇をめぐり男性社員らが起こした集団訴訟で和解し、原告側に500万ドルを支払うことに合意した。

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女性の利益は男性の損失というゼロサム思考

同社は「育児の主な担い手」に最大16週間の休暇を認めている。しかし、オハイオ州で詐欺調査を担当する男性社員が17年に14週間の育児休暇を申請すると、妻が主な担い手になれないか復職済みでない限り、男性社員は2週間を超えて取得することはできないと告げられた。

上司たちは、彼がそのような役割を自ら選択するかもしれないとは、想像が及ばなかった。さらに自社の育児休暇制度は、建前と違って男性の育児を支援するものではなく、女性だけのためだと考えていた。

ジェンダーに基づく差別との闘いに男性が主体的に参加することが必要であるだけでなく、男女双方にとって有益なら、なぜもっと多くの男性が参加しないのだろうか。

男性は伝統的な期待に背くことに抵抗を感じる、女性の利益は男性の損失になるというゼロサム思考にとらわれている、男女の不平等に関する会話の中で自分の居場所が分からなくなる││といった理由が考えられるだろう。あるいはこれらが重なり合っているかもしれない。

バラク・オバマ元米大統領がイリノイ州上院議員時代に、幼い娘の病気を理由に採決を欠席した際、同僚議員のドン・トロッターは報道陣に言った。「子供を言い訳にして仕事をさぼるとは、彼の人格の貧しさが知れる」。こうした批判があると男性は、仕事を最優先するべきだという考え方に逆らいにくくなる。

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もっとも多くの男性は、職場での男女の不平等を十分に認識しているようだ。ハーバード・ビジネススクールの学生新聞に掲載された19年の調査では、MBAを取得した男性は、不平等の深刻さを7段階で6(非常に大きな問題)と捉えている。同校の卒業生を対象に私たちが行った調査では、40%以上の男性が「男性であること」はキャリアに有利に働いていると思っている。

ただし男性にしてみれば、自分たちが率先して問題の解決を目指すべきなのか、それとも女性が率先して行動できるように自分たちは一歩引くべきなのか、という疑問は当然あるだろう。このような不安感は、男性が女性を擁護する際の「心理的な立場」に関係している。男女差別の問題への取り組みを支持する男性でも、男女の平等を主張する側に自分たちが加わるべきではないと感じるかもしれない。

男性が声を上げにくい心理

職場の男女共同参画の推進に関する一連の研究によると、男性の関与が少ない理由の1つは、ジェンダー問題で発言することは自分の役割ではないと感じているからだ。

一方で、これらの研究はさらに重要なことを明らかにしている。男女平等が男性にとって持つ意味を話し合い、そうした取り組みにおける男性の役割の重要性を強調するだけで、彼らの心理的な立場を変えることができるというのだ。企業や個人が男女平等の促進を集団の重要課題と位置付ければ、男性は推進に参加する社会的な力を得る。

男性の参加にはさまざまな形があり、彼らの声や行動は多くの場面で変化をもたらす。男性が育児休暇を最大限に活用し、他の人にも取得を奨励するだけでも、育児に関する男女の硬直した役割分担を打ち破ることができる。そうした役割分担への期待が女性の選択を制限している。

偏見のある考えや発言に堂々と異議を唱えることは、女性と男性の双方に向けて、自分は同僚女性の尊厳と公正な扱いを支持するというメッセージになる。男性の声は強力で、壊れたシステムを修正できる現実的な力がある。男性は非常に多くの指導的役割を担っているため、雇用や報酬、昇進などのプロセスで偏見をなくす大きな機会をつくり出せる。

男性が積極的に参加することによって、男女平等の取り組みは飛躍的に加速し、女性を苦しめてきたガラスの天井を完全に打ち破ることができるだろう。

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