乳幼児の発育に、スマホが害とは限らない?

Culture 2021.06.22

From Newsweek Japan

210614_sp19zero_28mo01-thumb-720xauto-252674.jpg最新機器があふれる現代では画面を見せないのではなく、どう使わせるかが重要に。photo: TIPLYASHINA EVGENIYA/SHUTTERSTOCK

いまやテレビやスマホは子育てと切り離せない存在。悪影響を避けつつ、交流や学習に生かす利用法とは?

育児支援の米NPOゼロ・トゥ・スリーが18年10月、「スクリーン・センス」という手引の最新版を公表した。乳幼児の発達において、画面型メディアが果たす役割や影響を調査し、3歳以下の子どもたちの電子画面との付き合い方を指南したものだ。

育児の専門家たちは長年、赤ちゃんが電子画面を見たり、電子機器を使ったりすることに強く反対してきた。しかし21世紀の社会では、親がそれを守ることが次第に難しくなっている。

「タブレットはいまや、子どもを取り巻く環境の一部になっている」と、バンダービルト大学のジョージーン・トロセス准教授(心理学)は言う。「現実世界でさまざまな人や物と接しているのなら、限られた時間を画面の前で過ごしても発達に害が及ぶとは考えにくい」

デジタル端末やタッチパネル、インタラクティブなビデオゲームがあふれる世界において、画面の視聴を絶対に認めないことは時代遅れなだけではない。子どもの未来にテクノロジーが果たす重要な役割を無視している。大切なのは節度を保つことだ。

テレビやパソコン、スマートフォンなど端末の画面を見る時間(スクリーンタイム)とそれ以外の時間のバランスを取るようにしよう。画面を通して学ぶ知識が、現実世界での交流の代わりになるとは期待しないことだ。

テレビがつけっ放しなどは望ましくない。

「画面型メディアの中には、発達途上の脳にとって有益なものもある。双方向性や相互交流は、子どもの学びを助ける重要な鍵になる。それによって、情報が『自分に向けられた』ものだと認識できるからだ」と、トロセスは説明する。

「たとえばビデオチャットなどで画面に映った人が実際に話しかけてきたり、何らかの反応を示したりすると、子どもはその人の言っていることを現実世界に結び付けやすい」

こうした画面型メディアについての新しい見解は、2歳未満の乳幼児にはテレビやゲームなどの画面を見せないほうがいいというアメリカ小児科学会(AAP)の長年の指針とは異なるものだ。AAPはこれまで、スクリーンタイムは現実世界における親子の交流を減らすという前提に立ってきた。そこでは、親子が一緒に機器を見て楽しむケースが想定されていない。

常にテレビがつけっ放しになっているのが望ましくないことは、研究が示唆している。両親と赤ちゃんの気を散らし、互いにもっと有意義な方法で触れ合うことを妨げるからだ。

しかし現実世界での交流に加えて、受け身ではない能動的な画面型メディアの利用であれば、情報と現実の状況をどう関連付けたらいいかを赤ちゃんに教えることができる──専門家たちはそう考え始めている。

---fadeinpager---

両親と遊び、おもちゃや本と触れ合い、砂場で過ごすことは赤ちゃんの脳の発達にとっては不可欠だ。しかし最近の複数の研究から、子どもはビデオチャットを通して語彙や語学力を向上させられることが分かっている。

AAPも16年10月になって、時代にそぐわない厳格な指針を改め、新たなガイドラインを発表した。そこでは、2歳までの幼児は脳の発達や健全な親子関係のために、できるだけデジタルメディアの使用を避けるべきだとしているものの、利用する場合は「良質な番組を親子で見る」などし、「子どもが何に関心があるのかを理解するのに役立てる」よう促している。

AAPメディア委員会のアリ・ブラウン委員長は「すべてのテクノロジーは同じではないし、すべてのメディアは同じではない」と語っている。「消費もあれば、創造も、コミュニケーションもある。2歳未満の子どもにとって、YouTubeで延々とアニメを見続けるのと、祖母とビデオチャットするのとでは大きな差がある」

では、画面型メディアを見せるか見せないかを決める時に、両親は何に気を付ければいいだろうか。目安となるのは、画面に現れたイメージが現実の物ではなく、記号であると子どもが理解できるかどうかだと、トロセスは考えている。小さな子どもが、画面の映像が現実とはどう違い、どう似ていて、どう現実を表しているのかを理解するのはかなり難しいことだ。

これが学齢期前くらいになれば、隣の部屋にいる両親と自分が接触できないのと同じように、画面の2次元映像と接触することはできないという基本的な考え方を学ぶようだ。
 

罪悪感を持つ必要はない。

ただし、子どもがこの能力を獲得する時期には個人差がある。

「分岐点となる『魔法の年齢』まで、子どもを画面から完全に遠ざけておくことは間違っている」と、トロセスは言う。「絵本を読み聞かせる時と同じように、子どもが画面上のことと現実世界の関係を理解しているかどうかを見守っていればいい。子どもの側も、両親がビデオやタッチスクリーンのような情報源をどう使っているかを見ることで使い方を学んでいる」

それでも親たちにとって、スクリーンタイムは危険な坂道のようなものだと言える。激しい議論は続いているし、賛否両論あるテクノロジーについて正しい決断を下さなくてはという重荷は、大きなストレスになる。しかし、最も重要なのはパニックにならないことだ。

子どもが親のスマホで遊んだり、遠くで流れているテレビを目にしたりすることについて母親や父親が罪悪感を覚えるのは、不必要な重荷でしかない。

子どもと親が一緒に視聴したり遊んだりする、またはよく工夫されたアプリやビデオを子どもが熱中して楽しんでいるのなら、きちんと管理されたスクリーンタイムは素晴らしい恩恵になる。親子が共に楽しみ、触れ合う良い機会になるからだ。

こうしたメディアの有意義な活用法を学ぶことは、親にも子どもにも不可欠だ。どうすれば安全に自転車に乗れるか、どうすれば栄養のある食事を賢く取れるようになるかなどを学んでいくのと同じだろう。

0e123ac85a74225410c5c6f32b0ba4809aea2460.jpg

Share:
  • Twitter
  • Facebook
  • Pinterest

フィガロワインクラブ
Business with Attitude
キーワード別、2024年春夏ストリートスナップまとめ。
連載-パリジェンヌファイル

BRAND SPECIAL

Ranking

Find More Stories