アメリカの祝日となったジューンティーンスとは?
Culture 2021.06.25
文/稲石千奈美(在LAカルチャーコレスポンデント)
アメリカで、今年からいっそう特別な日となった6月19日。ジューンティーンスと呼ばれるこの日は、150年近くもの間、限られたコミュニティ内で祝われてきた記念日であったが、2021年6月17日にバイデン大統領が法案に署名し、やっと連邦祝日として制定されたのだ。リンカーン大統領の奴隷解放宣言からすでに2年半が経過していた1865年、まだ奴隷制が残っていたテキサス州でついに奴隷解放宣言が行われた日で、事実上はアメリカで奴隷制が廃止となった記念日だ。
過去にも奴隷解放記念日を祝日として制定する動きは地道に行われてきたが、アメリカ全土で士気が高まったBLMの追い風も受けてジューンティーンスが大きく注目され、昨年はビヨンセが奴隷解放を記念する特別シングル「Black Parade」をサプライズでリリースしたり、セレブリティによる熱いサポート活動が活発に。SNSでは「#Juneteenth」のハッシュタグを付けた記念日関連の投稿がトレンドになって、認知度が一気に向上した。これまでジューンティーンスに馴染みがなかったアメリカ人が、この記念日の意味や習慣を学ぶ機会となったのだ。
女優ルピタ・ニョンゴは2016年に連邦記念日制定を訴え、テキサス州からワシントンまで毎日2.5マイル(2年半を象徴)歩いたオーパル・リーを称え、94歳の彼女に一緒に感謝を送ろうと呼びかけた。
「誰もが特別で、幸せである権利がある。私たちは自分たちのコミュニティのために、自分たちの姿をはっきりみてもらい、言葉を聞いてもらうために戦うの。この幸せを感じて欲しい。」と語る、女優でミュージシャンのジャネル・モネイ。ジューンティーンスを祝うパーティはオーケストラあり、ラインダンスありの大盛況。
そして、今年。ジューンティーンスを2日後に控えた6月17日に、バイデン大統領が6月19日を奴隷解放記念日として連邦祝日制定に署名した。突然の動きにメディアも活動家も戸惑ったようではあったが、この日を心待ちにしていたコミュニティをはじめ、SNSでは支持者がジワジワと実感を共有、すぐにお祝いモードが拡散した。
ジューンティーンスをどう祝うかはコミュニティによりさまざまだが、奴隷解放宣言を朗読したり、アフリカ系アメリカ人の国歌とも言われる「Lift Every Voice and Sing」を歌い、ブラックミュージックを聴き、BBQを食べて祝うのが定番。もともとアメリカでソウルフードといえば、アメリカ南部のアフリカ系アメリカ人に親しまれてきた料理を指す。そのBBQ以外に、レッドヴェルヴェットケーキ、イチゴやスイカのデザートなど「赤いもの」が振舞われる。一説によれば、西アフリカの伝説が由来で、赤い布は強靭な先祖の精霊を呼ぶものとして、生と死やスピリチュアリティの象徴であると信じられていたからだそう。
長い歴史と複雑な奴隷制とその社会的後遺症を考える機会でもあるジューンティーンス。アメリカ国民全員にとって楽しい祝日となることを願い、構造的人種差別撲滅に向けて戦いを続けていくべきだ。
ミシェル・オバマが共同会長を務める投票運動団体When We All Voteも、ジューンティーンス祝日を祝ってアーティストによるプレイリストをシェア。
在LAカルチャーコレスポンデント。多様性みなぎる都会とゆるりとした自然が当然のように日常で交差するシティ・オブ・エンジェルスがたまらなく好き。アーティストのアトリエからNASA研究室まで、ジャーナリストの特権ありきで見聞するストーリーをエディトリアルやドキュメンタリーで共有できることを幸せと思い続けている。
text: Chinami Inaishi