フランス女優に宿る、美しく在ることの意義。
Culture 2021.06.29
ファッション撮影のスタジオで、映画祭のレッドカーペットで、数々の大物女優にインタビュー。美しき女性たちと交流を重ねてきたフランス版マダムフィガロ誌のベテランジャーナリスト、リシャール・ジャノリオがフランス女性の美を語る。
フランスを代表する女優やトップモデルが、毎週土曜日にフランス版マダムフィガロ誌の表紙を飾る。ファッション、美容、セレブリティ部門を司るリシャール・ジャノリオのオフィスは壁一面に歴代の表紙が張り巡らされた、まさに「美しい女(ひと)」の神殿だ。雑誌の表紙は、彼女たちの美しさを求めてカメラが捉えた姿。だが、撮影の舞台裏やインタビューで、カメラに映る姿とは別の、素顔に接してきたジャノリオは、「美とは顔立ちの美しさではない。美しい女性とは、一緒にいて楽しい人、幸せな女性」と語る。フランス女優たちの、その奥に秘められた魅力を見つめると、美しい女(ひと)の生き方とは何か、が見えてくる。
カトリーヌ・ドヌーヴ、極めてフランス的な……。
人を美しくするもの、それは言葉では説明できません。態度やユーモア、エスプリや知性など、表面的な美の奥に、別の魅力がなくてはならない。その意味も込めて、美しいフランス女性として真っ先に頭に浮かぶのは、カトリーヌ・ドヌーヴです。
外見の完璧な美しさ、立ち居振る舞いや精神面までもエレガントで、彼女はフランス女性の象徴といえるでしょう。まず、ライフスタイルがとてもフランス的です。アール・ドゥ・ヴィーヴルを好み、美食を愛し、イヴ・サンローランをはじめとするフレンチモードを擁護する。常に現代的で、決して身を持ち崩したり、ダサくなったりしません。若い女優の中で、憧れの人としてドヌーヴの名前を挙げない人はいない。ドヌーヴは、私生活を守り、神秘性と威厳を保っています。
自由な女性という意味でも、とてもフランス的な人です。一度も結婚せずキアラ・マストロヤンニをもうけ、ロジェ・ヴァディムとの間にも息子がいる。当時、結婚しないことは異例、でもスキャンダルにはならなかった。それは彼女にいかにも自然な威厳とエレガンスがあるからです。一方で、サングラスもかけずに外出し、街角で新聞を買い、週末には蚤の市に行く。有名女優という立場につきまとう制約や重みを超越して、人がなんと言おうと気にしない。彼女は「私は自分のしたいことをしてきた」と言います。インタビューの中には、時代の主流派と反対の意見や、間の悪い意見を述べて損をするようなものもある。しかし、彼女は闘うこと、自分にとって大事なことを話すのを恐れません。
それはキャリアを見てもわかる。ドヌーヴは、演じる人物とともに年齢を重ねています。何としても美しく見せることを選ぶのではなく、リスクを冒す。デビュー作や新人監督の作品、インディペンデントフィルムにも出演する。常に若い映画人をインスパイアする存在なのです。
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それぞれに美しい、フランス女優たち。
イザベル・アジャーニも忘れてはならない存在です。色が白く、ブルーの瞳とサクランボのような口元で、完璧な顔立ちの彼女は、ビューティのアイコン。ある監督が「アジャーニはキャンドルの光でライティングできる」と評したほど肌の色は格別で、光をキャッチします。彼女は古典的な意味のスター。サングラスをかけた神秘的で手の届かないスターです。でも素顔はピエロのようで、この上ないファンテジー(気まぐれ、奔放さ)の持ち主。こちらが怖けづくほど美しいが、ユーモアと笑いがそれを緩和し、より魅力を増しています。加えて知的で自分の意見を持っている。先日のインタビューでは、「SNSの出現でスターの作り方が変わった。光を当てて才能を輝かせるのではなく、光の量とフォロワーの数が価値を決める」と分析して言ってみたり、先の見えない現代の空気感について、「いまの気分はボードレールのよう。憂鬱と理想、『悪の華』のアンフュージョン(煎じ茶)とシャンパンの泡の間を行ったり来たり……」と表現したりします。彼女の言葉にはとても深い意味や、スピリチュアルな部分があるのです。
ファニー・アルダンもシックでアリュールがある女性。そして彼女もファンテジーのある人です。ファンテジーとは他者を魅了すること、これも美しい女(ひと)の要素です。
マリオン・コティヤールはナチュラルにしているとフランス的なイメージ。ですが、メイクをしてドレスを着ると、あっという間にアメリカ風に変身します。このカメレオン的な部分がハリウッドで成功した理由でしょう。彼女は以前からグリーンピースの環境保護活動に参加していることも有名。いまの女優たちにとって、メッセージを体現することも大事です。10歳くらいの頃から見てきているせいか、ちょっと別格な存在なのはヴァネッサ・パラディ。彼女はモードのアイコンでもあり、外見がまるで少女のまま。だからモダンで、若い人にも響く。一方、『ラ・ブーム』(1982年)でデビューして同じようにティーンの頃から知られているソフィ・マルソーは、フランスの大人の女性のイメージ。スタイルアイコンやパリジェンヌのイメージとは違います。ふたりともフランス人がその成長を見てきた、美しい女性ですね。
フランス女優の代表であるジャンヌ・モローは、60年代当時には外見が好まれなかった。本人から聞いた話ですが、ジャン=ポール・ベルモンドと映画を撮っている時、当時のメディアは「最も醜い男と最も醜い女の出会い」とタイトルをつけたそうです。ジャンヌはとても知的で、インテリ。マルグリット・デュラスなど、いつも彼女を上に引っ張り上げる人物と交流していた。ヌーヴェルヴァーグのミューズで、才能を引きつけ、才能を贈り返した。それもフランス女優の美しさの在り方です。
Richard Gianorio
1968 年、パリ生まれ。フランス・ソワール紙でキャリアを開始。30年にわたりカンヌ国際映画祭を取材。15年前に仏マダムフィガロ誌へ。3年前より現職。写真は昨年1月、Sidactionのディナーで、モニカ・ベルッチ、イザベル・ユペールと。
@richardgianorio
interview & text: Masae Takata (Paris Office), photography: Richard Gianorio (Madame Figaro)