予期せぬ妊娠は自己責任か? 17歳の少女の葛藤。

Culture 2021.07.06

わが身と向き合う旅を、映画は物静かに直視する。

『17歳の瞳に映る世界』

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ペンシルバニアは未成年の中絶に親の許可が必須。心もとない生に落とし前をつける旅は、痛いほど肌身に沁みる。ベルリン国際映画祭銀熊賞(審査員大賞) 受賞。

冒頭、17歳の主人公オータムが学園祭で、切実な歌を熱唱中にヤジが飛ぶ。こちらもつい若かった頃の不安と生きづらさを思い出すが、近年ありがちな学生時代のトラウマを回顧する映画ではないし、そんな暢気なものではない。まもなくオータムの妊娠が判明し、ペンシルバニアからニューヨークまで、従姉妹と“堕胎の旅” に出るのが、おおよそのストーリーラインだ。

まるで伝説の写真家ラリー・クラークの題材のようだが、彼の一連の監督作品のようにセンセーショナルを売り物にしていないし、作品自体リズムが良く、巧みだ。これ見よがしな被害者ぶりをアピールするわけでもなく、じっくり物静かに、そして理知的に、作り手は観客のリテラシーを信頼しているかのように伝える。

だがしかし、主人公に対して「自己責任」と冷淡なジャッジを下す受け手も少なからずいると聞いた。先日も公衆便所で赤ん坊を出産後、嬰児(えいじ)を殺害した女性が逮捕されたニュースがあった。ネットでは女性に対して中傷の書き込みが散見された。しかし誰も妊娠させた相手の男を責めることはしない。本作も妊娠させた男は描かれない。観る側の想像力が試される。

途中まで「娘を持つ親はたまらないな」と思って観ていたが、すぐに改めた。すべての人が観るべきなのだ。若い世代は予習として。年配なら改悛の機会として。覚えがある男はスクリーンを直視に堪えないだろう。

楽しいはずのニューヨーク観光で、オータムと従姉妹が経験したことを対比させる心の動きもお見逃しなく。

観終わってからしばらく経つが、主人公のことを考えずにはいられない。息詰まる101分。彼女たちの小さな旅の同行者は、他ならぬあなただ。

 

文/樋口毅宏 作家
2009 年、『さらば雑司ヶ谷』(新潮文庫) で作家デビュー。続く著作に『民宿雪国』(祥伝社文庫)、『テロルのすべて』(徳間文庫) ほか。2017 年には育児エッセイ『おっぱいがほしい!男の子育て日記』(新潮社刊) で新境地を開拓。
『17歳の瞳に映る世界』
監督・脚本/エリザ・ヒットマン 
出演/シドニー・フラニガン、タリア・ライダー、セオドア・ペレリンほか
2020年、アメリカ映画 101分
配給/ビターズ・エンド、パルコ 
7月16日より、TOHOシネマズ シャンテほか全国にて公開
https://17hitomi-movie.jp

新型コロナウイルス感染症の影響により、公開時期が変更となる場合があります。最新情報は各作品のHPをご確認ください。

*「フィガロジャポン」2021年8月号より抜粋

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