フランスのおかしな慣習? 学校の先生への贈り物事情。

Culture 2021.07.13

1年間、生徒たちに知識を伝授し、(ロックダウン中も)励ましを送り続けた学校の先生たち。フランスでは、年度末、学校の先生にプレゼントを贈るの習慣が広がっている。先生たちにとって、バカンス直前は、チョコレートから陶器の天使の置物まで、さまざまなプレゼントをどっさり受け取るシーズン。そして親は度重なる募金の呼びかけに頭を抱える……。これって本当に必要なの?

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学年末のプレゼントは、年度末のお楽しみ会のような恒例行事となったのか?photo: Getty Images

フランスでは、すでにバカンスシーズンが始まった。そして、夏休みの始まりは、学年末を意味する。休み時間の大騒動に、シラミの流行、鼻水を垂らした子どもたち、生徒同士の喧嘩、そしてパンデミックが1年以上に及ぶという特殊な状況下での学習指導。これらすべてを乗り越えた学校の教師たちには頭が下がる。しかし最後の授業の後、教師が手ぶらで教室を出ることはない。

フランス南部の小学校教師アヌク(1)は、毎年、生徒や親たちから贈られた花束をスマートフォンで撮影する。その数は10を下らない。そして、ギフトは生花ばかりとは限らない。A4の紙に描かれた花の絵のこともある。横には小さなたどたどしい字で「先生は世界でいちばん」とメッセージが添えられていたりする。微笑ましいとはいえ、この学年末の先生へのプレゼントは、いまや年度末のお楽しみ会や通知表の配布と同じ、義務あるいは儀式となったのだろうか?

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学年末の伝染病

件名は「CE2b組プレセント」。41歳のキャロルの元には、またもやクラスの父母から募金の催促メールが届いた。これで何度目だろうか。

「みなさんこんにちは。明日の朝がマダム・ジャルディへのネット募金の締め切りです。これまで集まった金額は280ユーロ。マダム・ジャルディのバカンスのおともにエアパドルをプレゼントするにはあと55ユーロ必要です」とある。ふたりの娘を持つ彼女はため息をつく。「いまや当然といった雰囲気です。ときどき強制されていると感じることもあります。とくに子どもが何人もいると出費はかさむいっぽう」

オンライン募金はともかく、プレゼントには参加しなければいけないという義務感がともなう。「個人的にするか、クラスでまとめて贈るか。金額にかかわらず、学年末の教員への贈り物は社会的慣習のひとつであり、すべての小学校において暗黙の決まりとして定着している」と心理学研究者のマエル・ヴィラ(仮名)は分析する。前述のアヌクは「伝染力のある行為」とも言う。「ひとりのお母さんがほかの母親の前で私に花束を贈ろうものなら、翌日にはほかのお母さんたちも花束を持って来る」。

こうした過熱ぶりに対して、親失格とみなされるのを覚悟しない限り、慣習に参加しないことはほぼ不可能と言っていい。「プレゼントに貢献するのは学校行事に積極的に参加する姿勢を見せる手段のひとつ」と50歳のアンヌは説明する。3人の息子を持つ彼女は勤務時間の関係で、学外活動で子どもたちを引率したり、朝教室に残って先生と話をしたり、ほかの親たちとお茶を飲みに行く時間を取ることができない。「集金袋が回ってくると、自分も父母のひとりとして参加しないといけない気持ちになる」と彼女は明かす。「参加しないと、ほかの生徒の親から白い目で見られる」

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象徴的な報酬

単に自分のすべき仕事をしている人になぜお礼をするのか? よく議題に上る疑問だ。「一般的に、親が小学校の教諭に贈り物をするのは、”数学の授業をしてくれてありがとう”という意味ではありません。むしろ”気持ちを理解してくれてありがとう、話を聞いてくれてありがとう、時間を取ってくれてありがとう、子どもが転んだとき手当をしてくれてありがとう”という意味なのです」とアヌクは言う。彼女が教えているのは、教育特別区。貧困層の家庭にとって、子どもが学校に通うことは、基礎学習という次元を超えた意味合いを持っている。

「毎朝子どもを教師に預けることは、子どもにいまの状況から脱するチャンスを与えることに等しいのです。昨日もスーパーで、非正規滞在でホテル住まいをしている生徒の母親とすれ違った時、彼女は躊躇なく自分が買ったものの半分を私に差し出しました」と彼女は感動した様子で話す。とても断れなかったという。

小学校では子どもの方から学年末のプレゼントを先生にあげたいと言い出すことが多い。「教えるということは、ある意味で利他的な愛情を与えることです。教師の熱心さを感じることは、子どもが安心して学習に励めるということ」と前述の心理学者のヴィラは言う。正の連鎖はさらに続く。「学年末の贈り物のような形で感謝の気持ちを伝えることが、教員にとってやる気につながることはいくつもの研究によって明らかにされています」とヴィラは続ける。「アメリカの社会学者、ダン・ローティはこれを”象徴的な報酬”と呼んでいます」

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好意を伝える、ただし個人的すぎるものはNG

白雪姫のイラストの傘や4色ボールペンをプレゼントされたら先生も困るだろうと、子どもたちのかわりに贈り物を選ぼうとする親もいる。しかしこれは控えるべきだ。「子どもが選んだものを子ども自身が先生に渡すことが大切です。子どもにとって、役割を逆転して、大人の立場に身を置く機会になります」というのは、臨床心理士で家族問題を専門とする心理セラピストのジュヌヴィエーヴ・ジェナティだ。低学年の子どもにはお金の価値の概念がないので、店に連れて行ってアドバイスを。クラスで贈り物をする場合は、それぞれ一言メッセージやデッサンを添えるといい。「愛情のこもった贈り物です。教師に自分のことを覚えていてもらいたいという気持ちの表れです」と心理学者は言う。

企業も学年末のプレゼントという鉱脈に気づき始めている。あらゆる要望に応えるべく、教師への1年間の感謝の気持ちを込めたオリジナルのマグカップやキーホルダー、ポスターの制作を提案する。「私はサッカーが大好きなのですが、背中に私の名前と年度の数字がプリントされたサッカーフランス女子代表のユニフォームをもらったことがあります」と、クローディアは微笑む。彼女は、ロワール=アトランティック県アンドルで幼稚園の教員兼校長を務める59歳だ。

しかしカスタマイズもやりすぎは禁物。教師へのプレゼント選びは、叔母さんや学友、あるいは恋人へのプレゼントを選ぶのとはわけが違う。「真紅のパンティを贈られた同僚がいました」とアヌクは笑う。困惑するのは下着だけではない。「スカーフや香水は、贈り物としてかなり個人的な部類に入るものです。教師という立場にある人とその人個人を混同しないように気をつけましょう」と心理セラピストのジェナティはアドバイスする。

「教師への贈り物は、愛情、好意、教育という、学年の初頭から生徒と教師の間で築かれた関係の範囲内に収まるものであるべき」と心理学者のヴィラは強調する。アンヌの息子が通った幼稚園では、生徒の父母から教諭に絵画を贈ろうという提案が持ち上がった。「2015年の連続テロ事件の後で、学外活動が制限されていた時期に、先生はストリートアートの課外授業の企画に奔走してくれた。子どもたちのためにグラフィックアーティストを招待して、ワークショップを開いてくれました。感謝の気持ちをこめて、そのときのアーティストの作品を購入して先生にプレゼントしました」とアンヌは語る。そこまで高価ではないが、手作りが得意な42歳のファティマのように、クラスの生徒たちのデッサンをひとつの額縁に収めてプレゼントしたという親もいる。「こういう贈り物には感動して涙が出てしまいますね」とアヌク。

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プレゼントの第二の生。

教師たちはもらったプレゼントをどうするのだろう。とくに天使の置物や、性差別的な食器洗い用具セット、変わった匂いのお香、セクシーすぎるナイトウエアといった、悪趣味なプレゼントをもらった場合は?

「あまり口にはできませんが、捨てることも多い。お菓子は夫が喜んで食べていますが」とアヌクは打ち明ける。「教師をしている友人のひとりで、恐怖の博物館と名付けたコーナーを戸棚に設けていた人もいます」と、心理セラピストのジェナティは語る。

アンドルのクロディアは誰も傷つけない解決策を見つけた。「数年前、他校の教師たちとプレゼントを交換し合おうということになりました。それぞれが持ち寄ったものを学校祭で商品にしたのです」と彼女は明かす。「誰にも知られずに、最終的にみんなが得する名案でした」

(1)Anouk F.著『Merci Maîtresse!』Cherche Midi出版刊
(2)Mael Virat著『Quand les profs amient les élèves』Odile Jacob出版刊

 

text: Tiphaine Honnet (madame.lefigaro.fr)

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