思春期の胸の高鳴りを思い出す、映画『スザンヌ、16歳』。

Culture 2021.09.08

胸が高鳴り心がひりつく、思春期ならではの抒情詩。

『スザンヌ、16歳』

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スザンヌと年上の男との朝食デートは、浮き立つ心の共鳴をパントマイムで表す好演出。脚本と主演を兼ねた当時20歳の監督はシャネルのミューズにも抜擢された。

赤いソーダを白いクロスに滴らして弄ぶ。退屈な日々の最中で、ここではないどこかを想いながら。そうしてできた薄紅のシミをいつか再びなぞるとき、甘酸っぱい記憶を懐かしく思うだろうか。恥ずかしくて目も当てられないだろうか。それとも、卑しい記憶に変わり果てているのだろうか。本当の結末は、自ら描き演じ切ったスザンヌ・ランドン、彼女自身しか知り得ない。

思春期の少女はいつだって、「ここ」よりもっと刺激的な「どこか」を探し求めている。しかし、その「どこか」というイメージはとても曖昧で、もっと言えば「ここ」にいる自分すらも本当はどんな姿をしているのかわからない。それでもあふれるエネルギーに身を任せ、隙だらけの身体で刺激的な方へと駆けていく。ああ、思春期とは確かにそういうものだったと、スザンヌの姿に思わず心がひりつく。

16歳の少女が35歳の男性に恋をする。それも片思いではなく、彼女と彼は次第に惹かれ合っていく。どんなにスザンヌが澄んだ瞳をしていたって、純愛としてむやみにときめくことは私にはできない。一方で、少ない言葉に本心を宿したスザンヌのハスキーな声に、踊りだす身体のしなやかさに、どうしようもなく胸が高鳴ったのも事実だ。理屈や倫理を超えた静かな躍動が、絶えずスクリーンを満たしている。

「何かが起きるのを待ってる」、エンドロールにのせてスザンヌ自身がそう歌う。何かが起きたその先で、彼女はどんな大人になっていくのだろう。思春期はソーダの泡のように過ぎゆくが、喉をかすめる炭酸のひりひりとした感触は、彼女の中に残り続ける。ましてやこんなにも鮮明な形で、映画に刻んでしまったのだ。16歳、アンビバレントな叙情詩を、彼女は歌い続ける。

文:小川紗良/役者、映像作家、執筆家
役者としては、朝ドラ「まんぷく」、映画『ビューティフルドリーマー』に出演。監督作『海辺の金魚』は海外映画祭で注目され、小説『海辺の金魚』(ポプラ社刊)も話題に。8月25日から初主演舞台『演劇の街をつくった男』が開幕。
『スザンヌ、16 歳』
監督・脚本・主演/スザンヌ・ランドン 
出演/アルノー・バロワ、フレデリック・ピエロほか
2020年、フランス映画 77分 
配給/太秦、ノーム 
8月21日より、渋谷ユーロスペースほか全国にて順次公開
http://suzanne16.com

新型コロナウイルス感染症の影響により、公開時期が変更となる場合があります。最新情報は各作品のHPをご確認ください。

※『フィガロジャポン』2021年10月号より抜粋

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