想像力の先にある〈未来〉へ、MIYAVIの新作『Imaginary』。
Culture 2021.09.16
MIYAVI 40歳の誕生日である9月14日に合わせ、9月15日にリリースされる13枚目のアルバム『Imaginary(イマジナリー)』。そこには、MIYAVIが東京で作り上げた新しいサウンドとともに、先の見えない未来へ進む私たちへの示唆が多分に含まれている。国内外で音楽制作を手がけ、俳優活動を行い、難民支援に従事するなど、世界をまたにかける男が日本で考えたこと、伝えたいこと。現在を照らす想像力にあふれた楽曲と、チャレンジに満ちたアルバム制作について聞いた。
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完璧にやらなくていい。
ルールに縛られず進むことが大切。
──タイトルである“Imaginary”は「想像上の」という意味ですが、どのような意味やコンセプトを込めたのでしょうか?
MIYAVI(以下、M):2020年に出した前作『Holy Nights(ホーリーナイツ)』は、気候変動や紛争、難民問題、人種差別、そしてコロナなど、いろいろな問題が起こっている混沌とした世界の中で、僕たちミュージシャンが何を歌うべきかをテーマに作った作品でした。特に去年から、誰もが「この先どうなるんだろう」とリアルな恐怖を感じていると思います。僕も感じました。そして、僕を含めて世界中の表現者たちが、あらためて何を発信すべきかを考えさせられました。そこで僕が強く感じたのは、音楽をはじめとする文化や芸術は、未来への希望を示す役割があるということ。いままでも僕たちは、未来を想像して、その想像を具現化することを繰り返して文明を発展させ前に進んできました。この想像力さえ枯渇しなければ、どんな状況であっても明るい未来を作り出せるんじゃないかと信じています。
──いまのMIYAVIさんの、音楽に対するスタンスが入っているんですね。
M:はい。僕たちは、思い描く力をもっともっと意識をして歌っていくべきだと思いましたし、それが僕たちの未来への道を切り拓く唯一のキーなんじゃないかと。僕もそういうスタンスでこのコロナ禍を乗り切ってきました。正直、生き物としてただ生き延びることだけ考えるのであれば、文化や芸術はなくても生きていける。ただ、これがあることで生きる活力になったり、インスピレーションを受けたり、人としての尊厳や命の喜びを感じることができる。そこに文化の存在意義があると思います。
──ライブができない間も、いままでにない、サプライズのようなバーチャルライブを配信して、ファンやリスナーに喜びを与えてくださいました。
M:どんな状況でも、与えられた環境の中で、少なからず前進し続けることが大切。そのアティチュードこそが、僕たちが生きていく上で、未来を感じるために必要なことなんじゃないかなと思うんです。決してコロナ禍があってよかったなんて思わないし、たくさんの人が犠牲になって、いまも苦難に直面している人たちもいます。そういう方々へ最大限のリスペクトを持った上で、でもだからこそこの状況でしかできないことを、この状況だからこそできることを模索して、方向転換していく。それしか打破できる道はないし、どこに向かえるのかっていうことを、特に僕たちアーティストや発信できる立場にいる人間が意識していかないといけないのかなと思っています。
youtubeにアップされている、MIYAVIのヴァーチャルライヴ映像。
──方向転換していくために、今作の中に意識して入れたメッセージは何でしょうか?
M:一曲目の「New Gravity(ニューグラヴィティー)」のテーマでもありますが、新しい重力を感じてほしいと思っています。
──“新しい重力”とは……?
M:いま、多くの人が通勤からリモートワークに切り替えたり、ソーシャルディスタンスが当たり前になったり、俗に言うニューノーマルな生活を送っています。僕たちがコロナで失ったものはたくさんあるけれど、逆に得たことや気づいたこともあるんじゃないかって。いままで当たり前と思っていた経済活動や習慣が時には必要なかった、なんてことも挙げられます。「これ、ぶっちゃけ、いらんかったよね」って。これは非常に大きいことだと思うんですよ。ここでの重力とは、自分たちがいままで作ってきた世界のルールやルーティンのこと。デジタル化も進んで、これからマテリアル(物質)にとらわれない世界になっていく中で、そこでいかに自分らしくいられるのか。それが問われてくるような気がしています。
──従来の常識や既存の文脈にとらわれずに価値観を更新していく。それがクリエイティビティに繋がるということでしょうか?
M:新しいものを作るには、既存のものを壊すことが必要。またはキャパシティを増やすかのどちらかでしかない。自分はこうでなきゃいけない、こうあるべきだ、という勝手に思い込んでいるルールやルーティンに、人は無意識のうちに縛られてしまうものです。前に進むためには、古いやり方を捨てて新しいやり方を構築していかざるをえない。不安は付きまといますが、同時に壊した先に新しい出会いや発見があると思うとワクワクします。
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2021年の東京だから作れる、
いまを感じられる楽曲を作りたかった。
──そんなMIYAVIさんの思いを宣言しているように、今作について「進化系のMIYAVI、全部ぶっ込みました」と語っています。すごく前向きで、印象に残る言葉ですね。
M:僕は今年40歳になりますけど、昔は自分が40になってこんな髪型でロックしているなんて思ってなかった。でも僕は、「学び、成長し続ける限り、それは老いではなく進化だ」と考えていて。老いは、単なる老いではなくて進化だと思っています。そう考えると、老いは怖くなくなるんですね。僕も、いま現在去年と比べても確実に成長している。自分なりにどれだけ成長できたかを確かめる日が、僕にとっての誕生日です。ただテキーラを飲むだけの日じゃないんです。まあ、結局飲むんですけど(笑)。
──ロサンゼルスで音楽制作をされていましたが、曲作りの面ではどういった新しい試みがありましたか?
M:国を行き来できないという壁はありましたが、今回アルバムを作るにあたって、“東京で作るしかなかった”ではなく、逆に“東京でしか作れなかった”というものにしたかった。東京にも、グローバルな温度、動きを感じている人間がたくさんいますし、そういう意味でサウンド面では、Jeff Miyahara(ジェフ・ミヤハラ)をプロデューサーに、ビジュアル面では、クリエイターチームのPERIMETRON(ペリメトロン)に加わってもらって作品を作り上げました。これは、僕が東京にいたからこそ新たに得ることができたことでもあり、自分にとっても非常に大きなステップになりました。サウンド面においては、言葉の詰め方、響かせ方といったボーカルアプローチや、音のミックス、奥行きといったサウンドキャンバスの描き方。MIYAVIサウンドなんだけど、また一段とスケールアップしたサウンド構築にトライしました。ビジュアル面では、制作チームのフレッシュな感性にインスパイアされましたし、彼らの創作に対する姿勢にも学ばされました。あと、スキンヘッドもそうですけど、自分が被写体としていままでにない挑戦をすることもできたと思っています。
──一方で、コロナ禍だからできたこと、表現できたことはありますか?
M:冒頭の話と重複しますが、この作品自体はこの状況でないと作れていないと思います。リリックも今年にはいって書き直しました。もともと去年リリースしようと思っていて、曲ができて歌詞を付けたのですが、発表時期が延期になったので、完成前に一回保存したんです。その時に書いていたものを、いまそのまま世に出しても響かない。時代が変わっているので、やっぱりその時に感じたものを新鮮に出したい。だから、これは「冷凍保存」ですね。新たに言葉を付けて作業は簡単ではなかったですが、今回制作するにあたって一貫して思っていたのは、暗い歌は歌いたくないなあということ。マイナーコードを使ったり、ダークな雰囲気な曲があったりしても、今回は特に前を見ていられる曲にしたかったですね。
──なかでも、新しく入れた言葉やフレーズは何ですか?
M:歌詞の中では「自分自身」という言葉を意識的によく使っています。いろいろな問題をコロナや環境のせいにすることは簡単。だけど、それだけじゃないよね、と。たとえそうであっても、「さあどうする」となった時に、解決するのは結局自分自身であり、自分自身の想像力なんです。自分の在り方をより根本的に見つめる歌詞になっています。
──お話を聞いて、MIYAVIさんが本作を通して伝える「いまこそ想像力が大切である」ということがわかりました。想像力を発揮し続ける原動力や源やモチベーションについてお聞かせください。
M:僕にとってのモチベーションは、やっぱり聴いてくれた人が驚いたり、喜んだりする顔を見たいから、かな。僕は「Wow!」には、未来が宿っていると思っていて、そこで生まれる驚きや閃きに、未来へ向かうための鍵が隠されてるんじゃないかなと考えているんです。人は驚いたり「なんかすげえ」と感じる時に未来を感じるし、少なくともその瞬間は下を向かないじゃないですか。
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環境への配慮や難民支援を深掘りすることで、
気付く音楽の価値。
──音楽以外にも、さまざまな分野で活躍されています。以前フィガロジャポンでも特集させていただきましたが、グッチのサステナブルコレクション「Gucci Off The Grid」で日本人アーティストとして初めてグローバルキャンペーンに参加されたことを機に、ブランドアンバサダーを務めています。本活動とその魅力について教えてください。
M:グッチのクリエーション、作品自体ももちろん素晴らしいけど、特に本気でサステナビリティに取り組む姿勢に特に共鳴しています。地球環境に関して、どんどん世界での基準が変わっていく中で、持続可能な世界を目指して社会貢献をしていかないと、これからは本当の意味で成功と言えませんよね。グッチはカーボンニュートラルに対する姿勢を以前からとっていて、現在も取り組みを強化して行っています。アレッサンドロ・ミケーレという素晴らしいクリエイティブディレクターと、その彼を全面的に信頼するチームが動いているから、これほどまでの大規模な動きがスピーディにできていると思います。影響力を持つ者は、その分責任も大きい。先ほどの新しい重力の話にもつながりますが、アレッサンドロはいままでのルーティンを壊してショーを減らし、独自のスケジュールでコレクションを発表しています。売り上げにも影響する大きな挑戦ですが、物事を長いスパンで見て未来のために実践しています。その役割を真剣にまっすぐ果たそうとしているグッチとアレッサンドロたちの活動が純粋にカッコいいですし、そこに僕も心から賛同しています。
フィガロジャポンの撮影にて。
──MIYAVIさんは、地球環境への深い配慮を持って、同じくそこで暮らす人々にも目を向けています。UNHCR(国連難民高等弁務官事務所)の親善大使に日本人として初めて就任し、難民支援に取り組んでいます。
M:僕たちが地球の上の共同生命体として、地球に何をどうやって貢献できるか。これは、マンションで暮らすということに近い。老朽化したら、住民各人が責任をもって、パイプを直したり、ペンキを塗り替えたり、それぞれ違った役割を持つ。難民問題に携わる人もいれば、気候変動に携わる人もいる。それぞれが自分の影響力を使って、どう還元していくかを考える、と言うことに尽きます。僕はアンジー(アンジェリーナ・ジョリー)に出会って、彼女が従事している難民支援に賛同したので、いま、自分の役割として活動させてもらっています。
──これらの活動が、自身のクリエイティビティに影響しますか?
M:もちろん。生命の安全を脅かすような経験を経て難民キャンプで暮らしをしている人たちの状況を見て、何も感じないことなんて逆に不可能です。そこで見る景色や湧いた感情は楽曲にも反映されます。実際それも「外の世界に伝える」という点においてはミュージシャンである僕の存在意義だと思っています。たとえば自分たちが誕生日を祝っているその間にも大変な状況にいる人がいることを心のどこかにおいておく。その事実を忘れないだけで、生活が引き締まるんですよね。生活の仕方や仕事の効率も変わってくる。自分がちょっと地球や環境にとっていいことをしたら、どこかで回り回って、大変な思いをしている人たちのプラスになるかもしれない。難民支援の活動は、こういったマインドを与えてくれました。
──そのほかにも、俳優活動や商品プロデュースを行うなど、いろいろな顔をお持ちですが、近い将来に実現したいことは何でしょうか。
M:やりたいことは、いまかなり形になっていて。ちょうど40歳の誕生日である9月14日にバースデーライブをやりました。あと、北米ツアーの前に京都の清水寺でバーチャルライブを行います。いままで海外にいる時間が長かったけれども、コロナの影響もありこれほどまで日本にいることもなかった。あらためて素晴らしい国だと思うし、逆にいま、日本でしかできないことをやりたいと強く思うようになったんです。世界平和を京都から叫ぶことにもすごく意味があることだと思っています。
──他の分野を経験したからこそ、音楽をより楽しめている感覚でしょうか?
M:そうかもしれません。音楽や演技、声優もアクションもどの活動もぜんぶどこかで繋がっていて影響しあっている。全部がすごく楽しいです。まあその中でも、リハーサルスタジオに入って、ギター弾いて、歌うとやっぱり気持ちいいですよ。やっぱり僕もミュージシャンだなって、最近思います(笑)それも多角的な活動をしている中で気付いた大切な原点だと思います。

『Imaginary』(9月15日発売)
ユニバーサルミュージック
初回限定盤 A(CD+DVD)\4,400、初回限定盤 B(CD+DVD)\4,400、通常盤(CD)\3,080のほか、Tシャツ付きの限定セット\5,500もあり。
ECC×MIYAVI「世界人になろう」プロジェクトテーマ曲「Are You With Me?」などのオリジナル楽曲に加え、カバー、コラボレーションを含む楽曲からなるバラエティに富んだMIYAVIならではのオリジナル&企画フルアルバムは全11曲収録。プロデューサーにJeff Miyaharaを迎え、これまでにない新しい音楽性を見せている。また、コロナ禍に精力的に配信を続け、国内外から大好評を得た「MIYAVI Virtual Live」シリーズを、本人の撮り下ろしインタビューを織り交ぜ、再編集し収録。前編・後編に分け、それぞれ初回限定盤 AとBに付属する DVDにコンパイルしている。
1981年、兵庫県生まれ。エレクトリックギターを、ピックを使わずすべて指で弾くという独自の“スラップ奏法”で世界中から注目を集める“サムライギタリスト”。これまでに約 30 カ国 350 公演以上のライブとともに、8 度のワールドツアーを成功させている。近年、バーチャルプロジェクト 「MIYAVI Virtual」を始動させ、各プラットフォームを介して、自宅スタジオから、全世界に向けて配信するという画期的な試みを展開。9月30日から、北米ツアー「MIYAVI North America Tour 2021」をスタート。アンジェリーナ・ジョリー監督映画『Unbroken』(2016年日本公開)で俳優としてハリウッドデビューを果たし、その後国内外の映像作品にも出演。現在、Netflixオリジナル映画『KATE』が配信中。グッチ創設以降、約100年の歴史で日本人のアーティストとしては初となる「Gucci Off The Grid collection」 広告キャンペーンに起用。同ブランドアンバサダーも務める。2017 年には日本人として初めてUNHCR(国連難民高等弁務官事務所)親善大使に就任した。
interview & text: Hisamoto Chikaraishi