酒に溺れる北欧の至宝は必見! 秋に観たい映画3選。
Culture 2021.09.13
過ごしやすくなってきた今日この頃、気になる名作が続々公開されている。名作のリメイクやマッツ・ミケルセンの主演作、ストリートダンスのドキュメンタリーまで、いま観たい名作をピックアップ!
両手に花の作家に向けた、英国コメディの毒と笑い。
『ブライズ・スピリット 夫をシェアしたくはありません!』

©BLITHE SPIRIT PRODUCTIONS LTD 2020
戯曲ノエル・カワード×監督デヴィッド・リーンの名コンビは『逢びき』が有名だが、その陰に咲く佳品『陽気な幽霊』が「ダウントン・アビー」シリーズの英国監督によって蘇る。新作執筆に進退窮まったベストセラー作家チャールズ。彼が頼るジュディ・デンチのインチキ霊媒師を名脇役に、自動車事故で逝った前妻の霊と、ハリウッドでの成功を目論む現在の妻が、ウィットに富んだ掛け合いバトルを繰り広げる。幽霊=前妻は生前ゴーストライターも務めた作家の霊感源という切り札を持つ。男がギャフンとなる「女の団結」に、これが変換される逆転劇の鮮やかさ。アールデコ調の豪邸や優美な1930年代ファッションも目に楽しい。
監督/エドワード・ホール
2020年、イギリス映画 100分
配給/ショウゲート
9月10日より、TOHOシネマズ シャンテほか全国にて公開
https://cinerack.jp/blithespirit
新型コロナウイルス感染症の影響により、公開時期が変更となる場合があります。最新情報は各作品のHPをご確認ください。
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ミドルエイジの風刺劇から、ユーモラスな人間讃歌へ!
『アナザーラウンド』

©2020 Zentropa Entertainments3 ApS, Zentropa Sweden AB, Topkapi Films B.V. & Zentropa Netherlands B.V.
家庭では妻子との関係が冷えきり、高校では気のないルーティン授業を生徒や保護者から責められる。「中年の危機」を迎えた歴史教師マーティンは教師仲間に煽られ、「血中濃度0.05%のアルコール保持こそ人生の万能薬」という北欧の某哲学者の珍説検証に活路を開こうとする。瞬時の好転。だが、飲酒の限度が跳ね上がってしまう。そんな悲喜劇的な展開の先に、デンマークの俊才はツイストの利いた妙技を披露。晴れやかなクライマックスに映画を軟着陸させる。世に出る前、マーサ・グレハムの下でダンスを学んだという、主演マッツ・ミケルセンの意外なキャリアを生かして。今春の米アカデミー賞で国際長編映画賞を受賞。
監督・共同脚本/トマス・ヴィンターベア
2020年、デンマーク・スウェーデン・オランダ映画 117分
配給/クロックワークス
9月3日より、新宿武蔵野館、ヒューマントラストシネマ有楽町、渋谷シネクイントほか全国にて公開
https://anotherround-movie.com
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世界的な芸を故郷に繋ぐ、ストリートダンスの真価。
『リル・バック ストリートから世界へ』

©2020-LECHINSKI-MACHINE MOLLE-CRATEN “JAI” ARMMER JR-CHARLES RILEY
土曜の夜が来ると地元のスケート場がダンスフロアとして開け放たれ、技や型を編み出す発信源となった。リル・バックの語りが導く、踊る喜びあふれるドキュメンタリーは、そんな「闘争の街」メンフィスでの少年期の日常に始まる。クラシックバレエの訓練を積み、スパイク・ジョーンズら創作上の出会いにも恵まれて、クロスジャンルのダンスで彼は世界を驚かせる。北京公演での大喝采が、円滑な動きを粗いコンクリ上で磨いた、ゆかりの駐車場でのダンスへと繋がる『瀕死の白鳥』は本編の白眉。怒りや痛みを抱えた地元の子どもへと技を共有・継承する円環的な構成も、成功譚に終わらないストリートカルチャーの本質を衝く。
監督/ルイ・ウォレカン
2019年、フランス・アメリカ映画 85分
配給/ムヴィオラ
ヒューマントラストシネマ渋谷、新宿シネマカリテ、アップリンク吉祥寺ほか全国にて順次公開中
http://moviola.jp/LILBUCK
新型コロナウイルス感染症の影響により、公開時期が変更となる場合があります。最新情報は各作品のHPをご確認ください。
*「フィガロジャポン」2021年10月号より抜粋
text: Takashi Goto