現代社会を映し出す『KYOTOGRAPHIE 2021』いま観るべき4選。

Culture 2021.10.08

京都の街を舞台に開催される国際的な写真展「KYOTOGRAPHIE  京都国際写真祭 2021」が開催中だ。昨年と同じく9月にスタートした第9回目となる今年は「ECHO(呼応)」がテーマ。過去の歴史が響き合い、現在、未来へと繋がっていくと考えた時、いまを切り撮り、過去を記録する写真という媒体を「ECHO」を生み出す装置だと捉えたもの。現代におけるさまざまな問題、東日本大震災、新型コロナウイルス、野菜の種、性被害、ジェンダー、水の循環などをテーマに、国内外の気鋭のアーティストが街中に点在する会場で作品を発表。創立から一貫して、京都らしい歴史や文化のある場所と展示作品のセッションが見どころでもある本展。今年、特に訪れたい4つの展示を紹介。

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#01.『ECHO of 2011―2011年から今へエコーする5つの展示』
@二条城 二の丸御殿 台所・御清所、東南隅櫓

 5組のアーティストによる3.11へのオマージュ。
 

これまでもたびたび会場となっている世界遺産・二条城。今年は、2011年に起きた東日本大震災とそれに伴って起きた原発事故をテーマにした、ジャンルの異なる5組のアーティストの作品を展示。シャネル日本法人会長で小説家のリシャール・コラスは、3.11の1か月後に現地を訪れ、写真を撮り、証言を集め、小説『波』を刊行。東南隅櫓(とうなんすみやぐら)の『波―記憶の中に』では、その写真や文章を、光を遮断し、グリッド状に区切った空間に展示。ひとりひとりが手にした懐中電灯で照らしながら、さまようように震災後の風景や言葉を追いかけていく。廃墟と化した街の写真で際立つ、空や桜といった自然の鮮やかさは、昨年春、未曾有の感染症で空っぽになった街のイメージにつながり、暗い中で揺れる光の輪は、先の見えない不安ないまの状況を示唆するようでもある。ここで感じるのは“忘れないで”という強いメッセージだ。また、二の丸御殿台所の、華道家・片桐功敦による福島県南相馬で花を生け撮影した写真のインスタレーションなど、ほかの展示も胸にささる。

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リシャール・コラス『波―記憶の中に』二条城 東南隅櫓 ©︎ Takeshi Asano-KYOTOGRAPHIE 2021

211007_20110501-BGK_0308_KG_edit.jpg5月が近づいていた、誰かがこのカオスのなかを歩いて来て、廃墟に鯉のぼりを掲げた。鯉は風をうけて膨らむ、孤独だが勇敢に。それはわたしたちにあるメッセージを投げかける。生きねばならない、呑み込まれた者たちの記憶が消えさることのないように、生きねばならない、と。 ©︎ Richard Collasse

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#02.アーウィン・オラフ「アヌス ミラビリス―驚異の年―」
@京都文化博物館 別館

表裏一体の人為と自然を捉えた、世界的巨匠の最新作。
 

三条通のランドマークであるレンガ造りの京都文化博物館 別館に展示されるのは、オランダの写真家・アーウィン・オラフの最新作。新型コロナウイルスの感染拡大がニュースで取り上げられ始めた頃に自身が体験したことを元に、スーパーの空っぽの棚を虚しく通りすぎるシーンや自主隔離の様子を写真や映像に収めた『April Fool』。そして、ドイツのバイエルンの森にて、畏怖を抱かせるほど壮大な自然と対峙する人間を撮影した『Im Wald(森の中)』。天井高のある開放的な部屋に入れ子状に仕切った黒と白の空間を設け、前者を黒い空間、後者を白い空間に展示。人為によるグローバル経済の脆さと、絶対的な自然の崇高さという、対照的でありながら表裏一体でもあるふたつのストーリー。その境界を行き来するかのように、黒と白の空間を何度も回遊したくなるような動線が設けられている。『April Fool』の空虚で寒々しい世界観と、『Im Wald』のモノクロームながら、濃い霧の細かな水滴や滝の轟音さえ感じられるような濃密で饒舌な世界観の対比が見どころ。

211007_KG2021_1_02_Erwin-Olaf-[Bunpaku]_Photo-Takeshi-Asano_s.jpgアーウィン・ オラフ『アヌス ミラビリス -驚異の年-』京都文化博物館 別館 ©︎ Takeshi Asano-KYOTOGRAPHIE 2021

211007_Erwin-Olaf_Im-Wald_Am-Wasserfall_2020.jpgアーウィン・オラフ『Im Wald, Am Wasserfall』2020年 ©︎ Erwin Olaf

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#03.榮榮&映里『即非京都』
@琵琶湖疏水記念館(屋外スペース)

京都の水源を支える場所で、水をテーマにした展示。
 

1890年の竣工以来、琵琶湖から京都へ水を運び、いまなお京都市民の暮らしを支え続けている人工の運河、琵琶湖疏水。その疏水にまつわるあれこれを展示する琵琶湖疏水記念館を会場としたのは、中国人の榮榮(ロンロン)と日本人の映里(インリ)という写真家ユニット。2015年に北京から京都へ拠点を移し、写真を撮り続けていたふたり。ある時、京都盆地の地下に琵琶湖に匹敵する京都水盆があるという記事を見た時に、天地が逆転するかのような意識の転換が起こり、『即非京都』というひとつのシリーズにまとまったという。東山連峰を借景、疏水の水音をBGMにした屋外の展示スペースには、鴨川や生活風景、東山で撮った倒木の写真が並ぶ。そして、禅語「見山是山 見水是水」を掲げた通路の先にあるドラム工場内のインスタレーションが圧巻だ。直径3.6mの巻上機が中央に据えられた暗い空間の中で、張り巡らされた糸や揺れる大小のチュールに、映像が重層的に重なり合い消えていく。次々と光が満ち消えていく様子は、時間の消失を表現したものだ。この会場では、京都の人気コーヒー店やカフェが日替わりで3店舗出店。疏水を眺めるテラスでひと息つけるのがうれしい。

211007_KG2021_14_01_RongRongInri-[Lake-Biwa-Sosui]_Photo-Takeshi-Asano_s.jpg榮榮&映里即非京都琵琶湖疏水記念館 屋外スペース ©︎ Takeshi Asano-KYOTOGRAPHIE 2021

211007_KG2021_14_03_RongRongInri-[Lake-Biwa-Sosui]_Photo-Takeshi-Asano_s.jpg榮榮&映里即非京都琵琶湖疏水記念館 屋外スペース ©︎ Takeshi Asano-KYOTOGRAPHIE 2021

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#04.八木夕菜『種覚ゆ』
@両足院(建仁寺山内)

女性写真家が独自の感性で“種”にフォーカス。
 

美しい池泉回遊式庭園や茶室を備えた両足院。今年ここを会場とするのは、京都を拠点に、多角的なアプローチで物事の真理を追求する作品に取り組む八木夕菜。展示は、長崎県雲仙市にて有機農業と自家採種を40年以上続け、在来種・固定種の野菜の種を守る岩崎政利のドキュメンタリー写真と、雲仙の土地や風土の記憶を記録したサイアノタイプの2部構成。サイアノタイプとは鉄塩の化学反応を利用した写真技法で、青色の濃淡で像を表すことから青写真とも呼ばれるもの。八木は、岩崎が育てた野菜や種、土を、雲仙の水と太陽光で和紙に転写。澄んだ青のグラデーションが神秘的で、引き込まれるような美しさだ。タイトル『種覚ゆ』には、種が長い時間をかけてDNAに記録してきた生命の記憶を持っていること、そして、写真の役割を通して種を記録する行為というふたつの意味が込められている。大書院では、フランス人写真家のトマ・デレームが希少な古代種の野菜をポラロイドで撮影した『Légumineux 菜光―ヴェルサイユ宮殿菜園の古代種―』も観ることができる。

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八木夕菜『種覚ゆ両足院(建仁寺山内) ©︎ Takeshi Asano-KYOTOGRAPHIE 2021

211007_94A4593.jpg『Seeds on Mr. Iwasaki’s palm, 2017』 ©︎Yuna Yagi

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ほかにも、イギリス人アーティストのウィットとユーモアにあふれるドローイング、中国の新進フォトジャーナリストによる性暴力をテーマにしたプロジェクトなど、見逃せない展示が街のあちこちに。新しい刺激や視点、思考を広げ、写真のパワーや可能性を改めて感じさせてくれる『KYOTOGRAPHIE 2021』。秋風が心地いいこの季節、徒歩やレンタサイクルでのんびり巡りたい。

『KYOTOGRAPHIE 京都国際写真祭 2021』

会期:開催中〜10/17(日)
京都市内各所
tel: 075-708-7108(KYOTOGRAPHIE事務局)
営)開館時間、休館日はプログラムにより異なる
料)パスポート一般¥4,000ほか
www.kyotographie.jp

text: Natsuko Konagaya

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