知られざる快楽のツボ? 前立腺について、あなたが知らないこと。

Culture 2021.10.14

いま、医療の枠を超えて、前立腺が表舞台に登場しようとしている。これまで誤解され、過小評価されてきた前立腺がもたらす性的快感について、出版物、チュートリアル動画やポッドキャストが盛んに取り上げるようになってきた。セックスにおける男女平等が実現される日も近い?

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これまで誤解され、過小評価されてきた、前立腺がもたらす性的快感。出版物、チュートリアル動画、ポッドキャストで、いまこの話題が盛んに取り上げられている。photo:Getty Images

形は丸い。しばしば栗にたとえられるが、年齢を重ねるにつれ、グレープフルーツ大にまでなることも。優しく愛撫すれば、欲望が叶う。作り話のように聞こえるかもしれないが、前立腺の刺激によって思いもよらない快楽が生まれるのは、事実に基づいた話だ。去る9月20日は、男性の生殖器官の一部である前立線を見直そうと15年前に制定された、「欧州前立腺デー」だった。前立腺液の分泌と射精の際に精液を押し出す重要な役割を果たす臓器だが、さらに指や性具を使って性感帯として開発すれば、強烈な快感を得ることができるという。

性の専門家でコメンテーターのマイア・マゾレットは、2020年9月にテレビ局TMCの番組「Quotidien」に出演、前立腺を刺激することの利点をアピールした。この話題がテレビのゴールデンタイムで取り上げられたのは初めてのことだった。

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根強いタブー

冷笑を浮かべる人、目をそらす人……。番組に出演した男性陣の表情からは、困惑が手に取るようにわかる。テレビの前にいる視聴者の反応もおそらく同じだっただろう。性科学に精通した人でないかぎり、ヘテロセクシャルの間では、前立線マッサージはいまだにタブーだからだ。

「ペリネから肛門までのゾーンはないがしろにされています。衛生面を心配する人もいますが、主な理由は、むしろ、このゾーンが同性愛者専用と思われていること」と精神分析家で心理療法士のアラン・エリルは強調する。『セラピーとしてのオーガズム(3)』の著者でもあるエリルは「ここでは性行為と性的指向が混同されている」と続ける。

前立線マッサージは「時代遅れの伝統的なモデルに固執する“マスキュリストたち”の運動が高まりを見せるいま、よけいに実践するのが難しい」と指摘するのは、『男も金星からやって来た(1)』の著者で、男性性研究を専門とする社会学者のクリスティーヌ・カストラン・ムニエだ。

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新しい好奇心

タブーが根強く残っているとはいえ、前立線の刺激による快楽は、この数年で次第に表舞台に現れ始めている。

最初は偶然の産物だった。テキサス生まれの、初の医療用前立線マッサージ器アネロスは、もともと前立線炎や前立線肥大症の緩和と前立線癌の予防を目的として作られた医療器具だ。T型の振動器具に興奮したある患者の声が反響を呼び、2004年には患者たちだけでなく、セックスセラピストのナタリー・ジロー・デフォルジュも「治療が快感に導く」ことを確信した。

デフォルジュはその後フランス初のアネロス製品販売業者となり、4年前からはセックスをテーマにした記事を投稿するブロガーのアダムと共同で、パリで前立腺開発講座を開き、若い世代の好奇心を刺激している。「関心を持っているのは30歳以下の若者たち。彼らはそういった話題にもオープンです」とデフォルジュは語る。「生まれたときからインターネットとともに育ってきた彼らは、上の世代に比べて、男性の性に関する情報にアクセスする機会も多く、情報探しにも長けている」

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“信じられない2時間”

これまでほとんど関心を払われなかった前立腺がついに表舞台に登場し、その正体がインターネット上で徐々に明かされようとしている。数十年前から女性たちにとって、クリトリスが闘いの目玉になってきたのに比べると規模は小さいものの、前立腺もいままさに起死回生を狙っているところだ。

「男性によるこの運動は、女性たちの運動と同じ道程を辿っています。運動を支えているのは男女間の闘いや力関係といった一昔前のトーンとは違う」と精神分析家のエリルは指摘する。「両者は、喜び、好意、そして同意に基づいた、新しいコンセプトのセックスもあるのだという、共通のメッセージに辿り着こうとしているのです」

たとえばインスタグラムには、フォロワー数15万7000の@tubandes(勃起するの意味)、@misterorgasme(編集部注:現在は存在しないアカウント)、@lesgarconsparlent(喋る男子)などのアカウントが存在。男性の性についての知識を一般に広め、“支配者タイプでベッドでは淡白”という、男らしさの神話から解放されたいと願う男たちの声を伝えている。

「親友の実体験を聞いているような感じで見てもらえれば」と話すのは、ユーチューブでセックストイのレビュー動画を配信している、コンテンツクリエーターのムッシュ・ジェレミーだ。前立線マッサージ器は彼の一押し商品のひとつ。なかでもアネロスはアダルト産業における空前のヒットアイテムだ。「2012年以降、商品の売り上げの伸びはは70%近い。(…)急成長を遂げている分野です」とアネロス社商品開発責任者のフォレスト・アンドリューズはウェブマガジンRue 89のインタビューで語っている。

インターネットユーザーたちの証言を信じるなら、どうやら試してみる価値はありそうだ。話題の「Pスポット」を刺激する小さなT型バイブレーターの効能を称賛する声は尽きない。「全身がこれまでないほど痙攣し始めた」「快感の波が押し寄せて、頭が真っ白になった」「信じられないような2時間」……。これはブロガーのアダムが執筆したインターネットで無料公開されている『アネロス概論』に引用されている喜びの声だ。

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身体に関する無知

「このオーガズムの話を聞いたとき、長い間すごいことを隠されていた、そして、ヘテロセクシャルだから知らなかったんだと思った」と、漫画家のクッキー・カルケールは振り返る。「でもそれは間違い。家父長的文化のせいで、僕らは自分たち自身を檻の中に閉じ込めていたのです」

運命のいたずらか、男性は権力をもっていたにも関わらず、自分自身のセックスをコントロールできていない。「教育のせいで、男性は感情面のハンディキャップを抱えています。自分自身のことに疎く、関心はペニスだけに集中している」と社会学者のムニエは分析する。しかし、自分自身の身体に関する無知は問題をはらんでいる。「静脈瘤の兆候があっても男性たちはなかなか医者に脚を診てもらおうとしません。心血管疾患を起こす恐れがあるにもかかわらず」とジェンダーの専門家は説明する。

こうした無知を実感したクッキー・カルケールはブログ「Pénis de Table(食卓でのペニス談義)」を開設。2018年にブログはバンドデシネとして出版された(2)。性的指向もばらばらな7人の男性たちによる、男性の性をめぐる内輪話を漫画にしたのだ。「会話する男性たちの間に競争や他人との比較という関係は見られません。彼らは意見の交換を行っているのです」とセックスセラピストのエリルは感想を述べる。

 

 

カルケール自身もそれを意識している。彼はペニスより遥か先を見る目を持つ、一握りの選ばれた者たちのひとりだ。「社会風俗の様々な障壁が崩れ、トランスジェンダーに対する認識が深まるいま、最もその影響を受けているのが大都市に住む高学歴の若い男性です」とムニエは分析する。「彼らは自分らしくありたい、自分の欲望を知りたい、ステレオタイプや外からの要請とは無関係に自分で自分の選択の方向を決めたいと望んでいます」 。「男性はずっと昔から自分の外見であるペニスで勝負してきましたが、いま、自分の内面を取り戻す時なのです」とセックスセラピストのデフォルジュは力説する。

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女性が主導権を握る

そして、これらの男性を積極的に後押しするのは女性たちだ。2019年に公開されたフランス世論研究所の調査によると、パートナーの肛門に指を挿入したことのある女性は22%に上る。『Pénis de Table』購入者の75%は女性。バレンタインデーにパートナーにプレゼントするセックストイはどれがいいかとムッシュ・ジェレミーに質問するのも、出版物やマスコミ、テレビ、ポッドキャスト(On The Verge, Les couilles sur la table)で、男性の性の問題について臆面なく発言するのも女性たちだ。

「私たち女性は、前立線の快楽を男性に手ほどきし、ある意味で、彼らにそれを許可する立場にある」とデフォルジュは言う。「男性たちも女性の協力を必要としています。道徳、同性の視線、社会が押しつける羞恥心が、肛門愛撫やアナルセックスは異常な行為であるという烙印を押してきたわけですから」

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力関係を逆転する

少しずつではあるものの、確実に精神構造は変化している。危機に直面するカップルにも朗報かもしれない。「ものの本によれば、前立線マッサージは、男性が女性の快楽がどういうものかを理解する唯一の方法だといいます。一方で女性にとっては、挿入する権利を手に入れることになるわけです。それは力関係の逆転。これこそ異性愛における真の革新です」とエリルは続ける。「いま私たちはいわばジェンダー間の和解に立ち会っているのです」とデフォルジュは言う。

作家のマルタン・パージュは著書『挿入の向こうに』(4)のなかで、そのことを明確に述べている。「男たちはまだ生まれていない。まだ時間がかかるだろう」と記す彼は、数行後にこんな一言を付け加えている。「いつの日か、あざけりや非難を受けたり、変人扱いされたりすることなく、こう言えるようになるはずだ。“彼をキッチンのテーブルに寝かせて、前立線マッサージ器を挿入したの。とてもよかったわ”」

(1)Christine Castelain Meunier著『Les hommes viennent aussi de Vénus』Larousse出版刊
(2)Cookie Kalkair著『Pénis de Table』Steinkis出版刊
(3)Alain Héril著『L’Orgasme thérapeutique, quand le plaisir chasse la douleur』Grancher出版刊
(4)Martin Page著『Au-delà de la pénétration』Nouvel Attila出版刊

text:Tiphaine Honnet (madame.lefigaro.fr)

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