ファッションを愛し愛された、ストリートスナップ開祖の自伝。

Culture 2021.11.26

『Fashion Climbing ビル・カニンガムのファッション哲学、そのすべて』

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ビル・カニンガム著 渡辺佐智江訳 朝日新聞出版刊 ¥2,530

現場(コレクション会場)が一緒だということもあって、著者のビルと私はいつの間にか顔見知りになっていた。私の写真を撮りに来る時もあった。なのに私がレンズを向けると「勘弁してくれ」って顔で肩をすくめ、何処かに行ってしまう。徹底的な裏方気質。基本的に一匹狼。大抵のショーのエントランスは屈強なセキュリティが睨みを利かせているのに、ビルが現れると彼らは途端に紳士的になって一流ホテルのドアマンさながらに彼を迎えてた。極寒の冬、朝一のショーのスナップでは、ほとんどのストリートフォトグラファーはテンション低め、なのにビルだけはカメラを携え嬉々として被写体を探してた。どこの誰よりタフガイで、ストリートスナップを心から楽しんでた。「ファッションが心から大好きで、だからこそファッション界にこよなく愛されているおじいさん」。これが私の感じてたビルのイメージ。

あまり自分が表に出るのを良しとしない彼が、自伝を書いてたなんて驚いた。そこに描かれているのはパブリックイメージの「ビル・カニンガム」を見事に裏切るものだった。映画『ビル・カニンガム&ニューヨーク』を観た人は絶対困惑する。いつもニコニコ、人当たりがいい、清貧を良しとした聖人君子の彼のイメージとはある意味真逆なエピソードや思想、そしてシニカルな言葉で本書は埋め尽くされているから。ビルってこんなに戦闘的で皮肉屋だったの? あの温厚な笑顔の奥で、そんな風に人を見つめて切り撮っていたの? ファッションで成り上がろうとしている“fashion climbing”な人達を冷やかな目で見つめ、ショーに集まるプレスやバイヤーのやり口を辛口批評でバッサリ切り捨て、有名デザイナーのショーであってもその辛辣さは止まることがない。

本当のビルはこの本の中にいる。過激で、攻撃的で、シニカルで、そして最高にパンクなこの自伝の中に。ストリートスナップの開祖。やっぱこうじゃなくっちゃ。

文:シトウレイ/ストリートスタイルフォトグラファー、ジャーナリスト

被写体の魅力を写真と言葉で紡ぐスタイルのファンは国内外に多数。その活動は多岐にわたる。昨年、約12年分のスナップをまとめた『Style on the Street: From Tokyo and Beyond』(Rizzori刊)を刊行。

*「フィガロジャポン」2021年10月号より抜粋

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