「タヨウセイ」の時代、隣人の生き方を知る必読の4冊。
Culture 2021.11.27
これから結婚、出産する、男女必読の一冊。
『自分で名付ける』
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松田青子著 集英社刊 ¥1,760
夫婦別姓を望んで入籍はせず出産した著者。結婚したら女性の苗字が変わるのが当たり前なんておかしい。痛いのは嫌だから、自然分娩ではなく無痛分娩を希望。保育園には行かせない。自分で考え、自分で決める。それだけで「女性はこうあるべき」という呪縛から解き放たれる。彼女の決断に「オッケー」と軽やかに答えるパートナーのX氏といい、気負いのないスタンスが痛快。母性神話にNOを突きつける男女必読の育児エッセイ。
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生きづらさのあまり進化した人類を描くSF短編。
『キャビネット』
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キム・オンス著 加来順子訳 論創社刊 ¥2,750
小指でイチョウの木が育つ男。タイムスリップをして戻ってきた女。職場のキャビネットで見つけたのはシントマーと呼ばれるポスト人類のファイルだった。語り手も両親と愛犬を亡くし、就活連敗中に恋人が結婚したことを知ると、450箱の缶ビールを買い込んで175日間飲み続けた男。進化したはずの新人類が物語るのは自分たちの生きづらさ。掌編がひとつに繋がる幕切れまでシリアスな現実にシニカルなユーモアで応酬した快作。
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タヨウセイってなんだ? 新しい時代の青春小説。
『ブラザーズ・ブラジャー』
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佐原ひかり著 河出書房新社刊 ¥1,672
父親が再婚して、新しく弟ができたちぐさは、義弟の晴彦がブラジャーをつけているところに遭遇する。あ、LGBTとかそういう話ねと早合点しないでほしい。ちぐさは「そういうのに理解あるように振る舞うのが良い人の必須条件」だと教わってきた。これからは「タヨウセイ」の時代だと。この小説はそんなうわべの優しさをひきはがして、傷つけ合わないズルさに踏み込んでいく。わかった気になることに風穴を開ける新時代の青春小説。
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干ばつの地に井戸を掘る、中村哲医師の想い、再び。
『水を招く』
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中山博喜著 赤々舎刊 ¥2,970
2019年、NGO「ペシャワール会」の代表として30年近くアフガニスタンの復興を支援してきた中村哲医師が凶弾に倒れた。医療にとどまらず、井戸を掘り、農業にも力を尽くした活動を、5年間行動をともにした著者が写真とドキュメントで振り返る。水路工事の現場でも礼拝の時間には祈りを捧げる人々。干ばつの大地に水を招くという行為もまた祈ることに似ている。本当の支援とは現地の人々とともに生きることなのだと思う。
※『フィガロジャポン』2021年10月号より抜粋